1、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

           「色づく世界の明日から」

 

~はじめに~

 

今回から、アニメ「色づく世界の明日から」を見ていきたいと思います。この作品は2018年10月から13回に渡ってTBS系列にて放映された、長崎を舞台とする高校生の青春恋愛物語です。

 

どことなく頼りない17歳の女の子が、祖母の魔法でいきなり60年前の世界に送られることから、この物語はスタートします。主人公ヒトミは、魔法により60年という時空を超えて、おばあちゃんが17歳の時代に戻り、若きおばあちゃんと一緒に様々な出来事を体験してゆきます。

 

おばあちゃんの友達やそこで出会った人々、特にユイトとの時間を過ごすことで、彼女の心が大きく動き始めます。それは何故なのか…。また、この物語にはとても重い家族の問題や、自分自身の幼少体験から、幼いなりに下した自己決定が今の自分に大きな影を落としています。

 

登場人物それぞれの心の内を見つめることで、様々な葛藤や渦が浮かび上がってくるでしょう。そしてどのような元型が見えてくるのか、それらが見ている者の深層にどのような刺激を与えるのか…。この物語を見つめながら、様々な葛藤、渦、元型を掘り起こし、反応する視聴者自身の心をそれぞれがしっかりと受け止めていただけたらと思います。

 

さて、このレジュメはyoutubeにアップロードされている「色づく世界の明日から✤全話✤」を基に構成しています。市販のディスク版と比べると、わずかに違うところ(カットされているところ)があります。最終話のエンディングでは音声が一部切れています。気になる方はレンタル、または他のyoutube動画などを参考にされてみてはいかがでしょうか。ちなみに、アマゾンプライムでも視聴できます。

 

今回は勉強会資料として、このレジュメを制作しています。従って、みなさんには、在宅のまま同じ映像資料を観ていただきたいと考えましたので、このyoutube動画を指定いたしました。今後、ディスク版を基に少し手を加えることがあるかもしれません。

 

では、本編に入りますのでよろしくお願いします。なお、まとめ方として、以下のようにしますので、参考になさって下さい。

 

1、「ですます調」から、本編では「だ・である調(常体)」で記述します

2、各回には漢数字と共に小タイトルを入れて、場面を分りやすくします。

3、物語記載の後、「まとめ」として、いくつかの心理学的トピックスを取り上げます。

4、※1)などは記述の最後に参考資料として掲載します。

5、(※)は筆者のコメントとして、場面直後に記述します。

6、ブログタイトルは、「心理学で読み解くアニメの世界」となっていますが、

勉強会での名称は、今まで「ユング心理学で読むアニメの世界」を採用しているので、本編では「ユング…」と記載しています。

 

 

 

 

第一話 キミノイクベキトコロ (君の行くべき所)

 

一、祭りの花火

 

花火は轟音と共に鮮やかな色彩が大空に飛び交い、人々が心躍らせる人気イベントの一つである。主人公の月白瞳美(つきしろひとみ・以下ヒトミ)は浮かない顔をして花火会場へと向かう。

 

ヒトミのモノローグ①:いつからだろう、花火を楽しめなくなったのは…、母と一緒に見た花火は、赤、青、黄、緑、オレンジ、全てが美しかったのに…、私が大きくなって…、大事な人は遠く離れて…、いつの間にか、世界は色を失っていた。

 

おばあちゃんと花火を見に行く約束をしているヒトミは「先、行ってて頂戴」というおばあちゃんの言葉に従って、一人、花火を観に行く。多くの家族連れが高台へと向かう中、途中から花火の打ち上げが始まってしまう。

 

そこへ同級生の四人が急ぎ足で通りかかる。「あれ~、月白さん…(略)、月白さんも良かったら一緒に…」するとヒトミは「約束あるから」そう言って誘いを断る。

 

一人で花火を観ていると、おばあちゃんから連絡が入る。

「ヒトミ、もう着いてる」

「うん」

 

「あたしももうすぐ着くから」

「ゆっくりでいいよ」とヒトミ。

「ありがと」

 

ヒトミのモノローグ②:私は大丈夫、一人でも平気、言い続けているうちに、だんだん本当になっていく、これも魔法のせいなのかもしれない、自分を守るささやかな魔法、…魔法なんて大キライ…、あたしが魔法使いじゃなかったら、花火は、今もきれいだったかな

 

しばらくすると、おばあちゃんがやってくる。

「お待たせ、ごめんなさい遅くなって、やっと準備が整ったわ」

「準備??」

 

おばあちゃんは魔法の道具を取り出す。

「星砂時計?」

 

「そう、時間魔法の必需品、…今日のために60年分、満月の光を浴びさせ続けてきたのよ、新月の夜に満月の力を借りるなんて、矛盾した魔法だと思わない? …あなたは今から高校2年生のあたしに会いに行きなさい、魔法であなたを過去へと送ります」

 

「えぇ!…あ…、ちょっと待って!」

「いきなり言われて戸惑うのも無理はないけど、これは決められたことなのよ」

「どうして?」

 

「あぁ、それは…、行けば分る」

「はぁ…」

「まぁ~、友達や恋人と別れたくないとか、そういうのあるだろうけど」

「別に…、そういうの、どうでもいい」

 

おばあちゃんはヒトミの顔を正面に向かせて「あなたの悪いクセよ」と告げて、ぎゅっと抱きしめる。「瞳をそらさない事、せっかく行くんだから、楽しんでいらっしゃい」

「…えぇっ…ちょっと…私、行くなんて一言も…!」

 

物語が始まると、いきなりヒトミは過去(60年前)に送られてしまう。しかしそれは<すでに決められていたこと>であって、<経験しなければならないこと>であると、おばあちゃんより告げられる。ヒトミにとって、とても大切な過去への冒険(自分を見つめる旅)が始まる。

※過去への旅が始まる時「母のシルエット」が一瞬映し出される。後段語られるが、ヒトミにとって忘れられない記憶である。

 

過去へ向かうバスの中で、ヒトミは手元に、おばあちゃんの手紙と2018年度版の地図、それにお菓子のポッキーがあることに気がつく。

 

 

二、60年前の過去(2018年4月)

 

過去へ戻ったヒトミは、葵唯翔(あおいゆいと・以下ユイト)の部屋の中に落下する。現状が良く分らないヒトミは、窓を開けて部屋の外に出ようとするが、ユイトの気配を感じ、慌ててベッドの下に隠れる。ユイトが出て行ってから、窓のロックを解除してようやく脱出に成功する。

 

ヒトミがユイトの部屋の窓から脱出する様子を、川合胡桃(かわいくるみ・以下クルミ)と風野あさぎ(かざのあさぎ・以下アサギ)が偶然目撃する。スマホに動画を記録したクルミは、ヒトミが「葵の女」かどうかを確かめようと一計を案じる。

 

ユイトの部屋から脱出したヒトミは、地図を見ながらしばらく町を探索する。見慣れた風景だけれど、どこか違う。何とも言えない居心地の悪さを感じながら、おばあちゃんの家(まほう屋)を探すが…。

 

クルミとアサギは山吹将(やまぶきしょう・以下ショウ)と合流し、スマホの動画を見ながらヒトミの事を話している。すると彼らは、道に迷ったヒトミを発見する。心ここにあらずといった様子のヒトミが、ふらふらと転んでしまう様子にあきれ顔の彼ら。思わずショウがヒトミに声を掛ける。「何か困ってますか?」

 

クルミ、アサギ、ショウの三人は、ヒトミをまほう屋へ案内する。途中、クルミユイトとの関係をヒトミに尋ねるが、今はまだヒトミには答えられない。アサギが気を使って“空の色”に話をそらす。梅干し色、トキ色などと話しているが、ヒトミの目には空は灰色のまま。

 

ヒトミのモノローグ③:大丈夫、一人でも平気

 

 

三、まほう屋

 

 まほう屋にたどり着いたヒトミはお店のドアを開ける。何人ものお客さんで賑わっている。女店主に月白琥珀(つきしろこはく・以下コハク)の事を尋ねるが、コハクは魔法の勉強のため、イギリスに留学中だという。しかも、帰国が遅くなるらしい。

 

意気消沈したヒトミは、思わず店の外に出てしまう。するとコハクのおばあちゃんらしき人がヒトミに声を掛ける。

「お待ちなさい」

「…おばあちゃん?」

 

まほう屋の中で、コハクのおかあさん、おばあちゃんとヒトミが話をする。「これが本当ならあなたは家族ね」60年後のコハクからの手紙を読んだおばあちゃんがそう言うと、ヒトミはこの家に家族として迎えられる。

 

アズライトのイヤリングを落としたことに気づいたヒトミは、暗くなった屋外に出て探しに行こうとするが、おばあちゃんに止められる。ヒトミの慌ただしい一日が終わる。ヒトミは呟く、「どうなるんだろう、これから」

 

 

四、アズライト(鉱石の一種?・魔法使いの必需品らしい)

 

翌朝、女主人(コハクのおかあさん)の旦那さんとも顔を合わせたヒトミは、アズライトを探しに町へ出かけたいと申し出る。「無くしたものを見つける魔法は使えないの?」おかあさんから尋ねられると、ヒトミは力なく「はい」と答える。

 

それを見ていたコハクのおばあちゃんが、星砂(魔法)の使い方を教える。魔法によって落とした場所(ユイトの部屋)を思い出したヒトミは、ユイトの家に向かう。

 

ヒトミがユイトの家の近くに着くと、ユイトは家を出る所であった。ヒトミは、イヤリングの事を尋ねるタイミングを考えつつ、ユイトの跡を追う。しばらくすると、ユイトは近くの公園でタブレットに絵を描き始める。

 

す~っと息を吸うヒトミ。意を決してユイトに話しかけようと近づき、ユイトタブレットに目をやる。するとヒトミは、タブレットの中に驚くような色彩が溢れていることに気づく。

 

そして絵の中の金色の魚がまるで生きているかのように動き出し、今まで見ることのできなかった色彩に満ちた世界がヒトミを包み込むように現れてくる。ヒトミの心は今までにない開放感を感じるが…。

 

「だれ?」

 

その一言でヒトミは我に返る。目の前に不思議そうな表情のユイトがいる。

 

 

第一話 まとめ

 

第一話で語られる一番大切なことは、ヒトミの目が色彩を失っていることだろう。本人が言うように「私が大きくなって…、大事な人は遠く離れて…、いつの間にか、世界は色を失っていた」のである。それは、なぜなのか…。

 

器質的に不具合が認められないにも関わらず、何らかの心的理由でそれらの機能に比較的軽度な障害が起こることを、かつては神経症と呼んでいた。しかし近年新たな概念を導入するなどの検討が行われて、より症状を重視する立場から不安障害や強迫性障害ストレス障害といった主要因によるもの、あるいは解離性障害転換性障害といった状態像として、それらを“障害”と捉えられるようになってきている。

 

ヒトミの場合、目に何も問題が無いのに、色を見ることができなくなっている。感覚機能に異常があるが、身体機能には問題が起きていないことを考えると、転換性障害※)という名称が浮かんでくる。多くの場合、その原因は心理的葛藤や極度のストレスなどが考えられているが、ヒトミはどのような問題を抱えているのだろうか。

※)転換は、抱えるにはあまりに辛い情動(感情)を身体表現に置き換えることを指し(歩けない又は声が出ないなどで、ヒトミは色を見ることができない)、またそれらを意識の外に押し出すことを解離(短期、長期に記憶を失う、又は特定のことだけを思い出せないなど)と呼んでいる。

 

ヒトミの成長過程を知るおばあちゃん(コハク)は、そんなヒトミに「大切な経験」をさせるために、60年間温めていた計画を実行する。過去への旅である。従って、過去への旅は、失われた色と大切な人との絆を確認する旅であるといえるだろう。

 

次に大切なことは、主人公であるヒトミの一族、つまり月白家は代々魔法使いの家系であるということだ。実はこの「魔法使いの家系」こそが、ヒトミ達に大きな影を落とす要因であることが、この後明らかとなる。ここで、あえて“ヒトミ達”と表現しておくが、この点に関しては、第十話で取り上げることとする。

 

第一話は今後の展開に不明なところが多く、また物語を楽しむ上でも、ここではあまり多くを語らないようにしたい。しかし物語を深く理解しようとするとき、文章化して読んでみることはとても役に立つ。全十三話は長丁場であるので、本筋とあまり関係ないようなところは、軽く流すこともあるが、セリフ一つひとつがとても深い意味を持つようなこともあるので、やはり全体のストーリーはしっかり把握しておく必要がある。

 

最後に、少し影の薄い登場人物である、深澤千草(ふかざわちぐさ・以下チグサ)について触れておきたい。第一話のストーリーを辿ってきた後、無意識的にチグサの場面を記さなかったことに気づいた。他の登場人物達とは何か異質なところがあるのだろうか。

 

ユング心理学の中にトリックスターという元型がある。物語の本筋とはちょっと違った立ち位置の者で、お調子者あるいは道化的な存在と言われている。第一話の中で、チグサは子どもっぽく、思ったことを遠慮なく話したりする。一番年少であるところから見ても当然なのかもしれないが、彼の言動は、みんなの心に波風を立てるようなところがある。それが、トリックスターの役割と言えなくもない。

 

さて、おばあちゃん(コハク)は、「なぜ」ヒトミを過去へ送ったのか。ヒトミは過去の世界でどのような経験をするのか。それは彼女にどのような変化をもたらすのか。

 

…では、第十三話までお付き合い願いたい。

 

 


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