2、心理学で読み解くアニメの世界
ユング心理学で読むアニメの世界
「色づく世界の明日から」
第二話 魔法なんて大キライ
一、色のある絵
「あなたの絵…」
「不法侵入者!」
「あっ、あの~、その絵、あなたが描いたんですか?」
「えっ、あぁ」
「もう一度、見せていただけませんか?」
「いや、それはちょっと…、だって、これ…」
クルミからチグサ、そしてユイトへ廻ってきたヒトミの動画を見せられて、ヒトミは言葉を失う。さらにヒトミのイヤリングを証拠品として見せるユイト。
「話しても…、信じてもらえるか、どうか…」
「ちゃんとした事情があるんだったら、一応聞くつもりだけど」
「…魔法のせいなんです…」
「えっ」
ヒトミは今までのいきさつ、つまりすべておばあちゃんの魔法によって起こったことで、自分にはどうすることもできなかったことを正直にユイトに話す。
「…迷惑かけてしまって、ごめんなさい」
「あぁ~、もういいよ」
ユイトはヒトミにイヤリングを返す。
「いっ、いいんですか?」
「取られたものも無かったんで…、別にいいかなって…」
ヒトミはイヤリングを受け取る。
「じゃ~、とりあえず、今度から気をつけて、といっても、魔法って、そういうの、気をつけられるものなの?」
「分りません、私も今回初めてだったので…」
「魔法使いの事情とか良く分んないけど、とにかくこれからは注意してもらえたら」そう言うと、ユイトはその場を立ち去る。
ヒトミのモノローグ①:あの絵のこと、もっと聞きたかった…、どうしてあの時だけ、色が見えたんだろう
しばらくして、ヒトミはアズライトを持って家に帰る。コハクの母の話によると、アズライトは代々月白家に伝わるものらしい。
二、学校生活
コハクの母の話によると、イギリスにいるコハクと連絡が取れて、コハクは早く日本に帰ることにするらしい。60年後の世界への帰り方が分らないヒトミは、コハクが帰ってくるのを待つしかない。それまでの間、コハクの父の提案で、しばらくホームステイ(この世界ではマジカルステイで通じるらしい)しながらコハクと同じ南ヶ丘高校に通うことになる。
ヒトミのモノローグ②:一人でいたいだけなのに、私は何をしにここに来たんだろう
ヒトミ初登校の日、教室で自己紹介をしてから席に着く。授業が終わり休み時間になると、たまたま一緒のクラスとなったアサギが声を掛けてくる。そしてなぜかヒトミとアサギが同じクラスであることを知ったチグサが、ショウとユイトに話しかけ、アサギのクラスを覗きに来る。と、そこへクルミが合流する
クルミがショウ、チグサを紹介すると、今度はショウがユイトを紹介する。チグサやクルミがヒトミとユイトの関係を気にしているので、ユイトはヒトミとの疑いを晴らすためにヒトミに頼みごとをする。
「あのさ、悪いけど、一つお願いしてもいい?」
「なっ、何ですか?」
「見せてくれないかな、魔法を使うところ、部屋に入られただけだって俺が言っても、誰も全然信じてくれないから、そっちだって迷惑でしょ、転校そうそう変なうわさされて、誤解されたままだと可哀そうだし、…使えるんだよね、疑うみたいで悪いけど、俺も正直、まだ半信半疑っていうか」
ユイトの絵の中から、豊かな色彩に彩られた世界が溢れていたのを思い出すヒトミ。彼女はユイトの信頼を獲得し、彼の描く色のある世界をもう一度見てみたいという気持ちから、慣れない魔法を使ってみることを決心する。
「魔法を見せたら、私のこと、信じてくれますか」
「もちろん」
「…じゃぁ、やってみます」
ヒトミの周りに人が集まり始める。
「ほっ、星を出します」
ヒトミは必死に呪文を唱えるが、魔法をうまく使うことができない。
「私にできることはこれくらいで…、ごめんなさい」
ヒトミはその場から急ぎ足で立ち去る。
三、写真美術部
ヒトミのモノローグ③:やっぱり、魔法なんて、大キライ
校舎の外に一人でいるヒトミのところへ、アサギとクルミがやってくる。オフリー※注1)を持ってヒトミのところにやってきたアサギとクルミは、彼女を放課後の部活に誘う。
写真美術部へやってきたヒトミ達三人は、ショウ、チグサと再会する。部長のショウから、写真美術部のことを詳しく聞いていると、部室の外をユイトが通る。ユイトの姿を追うヒトミの様子を見たショウは、ユイトのことを少し詳しく話し出す。
ショウの話によると、ユイトは一人だけ美術部で、写真部と共同で部室を使っているので、ほとんど同じ部みたいな関係であるらしい。それに、絵を描くとき、一人で何処かへふらっと行ってしまうのがいつものことだそうだ。クルミによると「また屋上とかじゃないの」ということらしい。
写真部の部活は、学校の外で行われることになり、ヒトミも誘われたが「また、次の機会に」と言って、みんなと別れる。
四、屋上
みんなを送った後、しばらくしてヒトミは屋上へ向かう。ヒトミはゆっくりと階段を上り、その先にユイトを見つける。
ヒトミのモノローグ④:もう一度、色が見たい
意を決して屋上のドアを開け、ユイトに近づき話しかける。
「あの…、ごっ、ごめんなさい、邪魔して」
「別に、いいけど、なんでこんなところに」
「さっ、探してました」
「えっ、俺?」
「うん…、さっき、すみませんでした、魔法、うまくできなくて、でもどうしても、やらなきゃって、信じてもらいたかったから、どう思ったか分らないですけど、あれが今の精一杯なんです」
「こっちこそごめん、いやぁ、なんか、やりたくないこと、無理やりやらせたみたいで、悪かったなって」
「ちっ、違います、…下心があったんで」
「えっ!」
「見せて欲しいんです、絵を」
「あの時の?」
「はい」
「人に見せるのは、あんまり好きじゃないんだけど」
「あの絵は、私にとって特別なんです、あの絵は、私に、忘れていた色を見せてくれました、灰色だった私の世界に、一瞬光が差したんです、…お願いします…、もう一度だけ」
「これでいい?」
「あっ、ありがとうございます」
ヒトミはタブレットを受け取ると、カバーを開けて中を見つめる。
「もういいの」
「はい、ありがとうございました、お邪魔してしまって、すみませんでした」
その場を離れるヒトミの背後に向かって、ユイトが語り掛ける
「あのさ」
ヒトミが振り返る。
「あっ、いやっ、ええっと、そのっ、…また見せてよ、魔法、星とか出せるなんて、結構すごいと思うよ、俺の絵なんかよりもすごいって、絶対に…、いつか、でいいから」
ヒトミは笑顔を返し、屋上から立ち去る。
ヒトミのモノローグ⑤:あんな風に言われるなんて、思ってもみなかった、あたしの魔法を喜んでくれる人がいるなんて、…魔法なんて、大キライ…
暗い学校の玄関で、ヒトミは星を出す魔法を試している。するとそこへショウが通りかかる。しばらくすると、玄関先の街灯が点灯する。
第二話 まとめ
第二話のタイトルともなった「魔法なんて大キライ」という言葉は、劇中ヒトミが呟く言葉である。ヒトミはなぜそんなにも魔法が嫌いなのだろうか。当然のことながら、キライには理由がある。
第一話のまとめでも書いたが、ヒトミは「魔法使いの家系」である。その血脈を受け継いで、おばあちゃんの手紙には「強い力を持っている」とされている、にも関わらず、ヒトミが魔法で出した「星々」は魔法と言うわりにはいささか貧弱である。ヒトミは魔法を使うことを「避けてきた」のであろう。
「私は大丈夫、一人でも平気、言い続けているうちに、だんだん本当になっていく、これも魔法のせいなのかもしれない、自分を守るささやかな魔法、…魔法なんて大キライ…、あたしが魔法使いじゃなかったら、花火は、今もきれいだったかな」(第一話・ヒトミのモノローグ②)
ここから浮かび上がるのは「一人で生きることが私の生きる道であり、そうすることが魔法使いとしての宿命なのかもしれない、けれどそれと引き換えに、色のある世界をあきらめることなど認めたくない、色のある花火が見たい、だから魔法なんて大キライ」と言っているように感じられる。
ヒトミは魔法が大キライなのだが、魔法使いの血潮は彼女の体の中に流れている。キライな魔法が体の中を流れているという、アンビバレント(両極端)な状態であるといえるだろう。では、ヒトミにとっての“色”とはどのような意味があるのだろう。
色のある世界をあきらめかけているヒトミの目に、ユイトの絵が溢れるほどの色彩を伴って激しく訴えかける。ヒトミの心に、色への渇望が湧き上がる。キライなはずの魔法を使ってでも、ヒトミは色のある世界への気持ちを抑えることができない。ユイトの絵だけがヒトミに色を見せてくれる。
ヒトミにとっては不思議な力があるユイトから「また見せてよ、魔法、星とか出せるのって結構すごいと思うよ、俺の絵なんかよりもすごいって」と言われる。魔法が使えることを“すごいこと(素晴らしいこと)”と言われて、ヒトミの心は揺さぶられる。
第二話に進むと、ヒトミの葛藤(魔法と色彩)が主題の一つであることがはっきりしてくる。その葛藤がどのような過程を経て形成されたのか、その辺については、もう少し後の回で取り上げることになるだろう。
では今しばらく、ヒトミ達の学園生活を観察してみたい。
Iroduku Sekai no Ashita kara Episode 2 English Subbed - 色づく世界の明日から 2
※注1)オフリー:長崎県立長崎南高等学校(長崎市)では1990年代、校内の自動販売機が雪印乳業製品のみを取り扱っていたことから、当ブランドの廃止後も、「オフリー」が紙容器入り飲料全体の総称として生徒間に定着。2015年にはこれにちなんで、自動販売機コーナーがある渡り廊下が「オフリーホール」と命名された。同校が取材協力した2018年放映の連続テレビアニメーション『色づく世界の明日から』(P.A.WORKS制作)の劇中では、紙容器入り飲料の名称として「オフリー」が用いられたほか、1993年リニューアル後の「オフリー・バナナ・オ・レ」「オフリー・イチゴ・オ・レ」「オフリー・メロン・オ・レ」の各パッケージが登場した。(出典:ウィキペディアより)