4、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

           「色づく世界の明日から」

 

第四話 おばあちゃんはヤメテ!

 

一、コハクの魔法

 

ヒトミのおばあちゃん(つまりコハク)がイギリス留学から帰ってくる。コハクの母とヒトミは、コハクを迎えに出る。そこでヒトミは、17歳のコハクと出会う。

 

「あなたが私のお孫ちゃん?」

「あぁ…」

「よろしくね、ヒトミ」と言って、コハクはヒトミを抱きしめる。

ヒトミは花火の夜の事を思い出して「おばあちゃん」と語りかける。

 

朝、ヒトミはコハクと一緒に登校する。コハクは周りの生徒達からかなり注目されている存在らしい。教室に入ると、クラスの女子たちにすぐに囲まれる。おだてられてその気になったコハクは、ヒトミに手伝ってもらい、魔法を披露することになる。

 

「魔法は、人の幸福の為にだけ、行使をゆるされるものである」

 

ヒトミに写真集を持たせ、コハクは呪文を唱える。すると一瞬にして、コハクが留学していたイギリスの学校の情景が現れる。みんなが感嘆の声をあげるが、程なく遠くから機関車の警笛音が聞こえてくる。機関車の幻影が通り過ぎると教室は煙に覆われてしまう。

 

みんなが屋上に出てほこりをはらっていると、アサギがヒトミに「私は、可愛い魔法も大好きですよ、魔法が使えるなんて、ちょっぴりうらやましいです」と告げる。ヒトミは、その言葉に思わず声を詰まらせる。

 

放課後、コハクはヒトミを誘って家に帰ろうとするが、ヒトミには写真美術部の部活がある。それを聞いてコハクも部活に参加する。

 

 

二、部会 打ち合わせ

 

チグサの親が経営するお店に写真美術部のメンバーが集まる。近く開催される文化祭について、部長のショウから、展示ではなく作品集を作ろうと提案があり、まず初めに、学校で夜景を撮るという計画がまとまる。

 

それを聞いたコハクが、「あたしも見に行っていいですか」と言うと、ショウが、始末書、書くようなことしなければOKだと答える。すでになじんでいるコハクを横目に、ヒトミはコハクの物怖じしない態度に感心する。

 

「使っていないカメラがあるので、家(風野写真館)に寄っていきませんか?」とアサギがヒトミを誘う。ショウも、モノクロ写真についてヒトミに話しかけるが、ヒトミとコハクが同じ苗字「月白」であることをややこしいと感じる。その後、ヒトミとコハクはショウと共にアサギの写真館に行き、ヒトミは、アサギの父からカメラを借り受ける。コハクはモフモフ好きである。

 

 

三、コハクって呼んで

 

夜、ユイトの家では、ユイトの母が彼の進路を心配している。一方、ヒトミとコハクは、これからの事を話し合っている。

 

「色の事、みんなには?」

「…」

「でもさぁ、先のことなど分らない方がワクワクすると思わない」

「えっ」

「これから一緒に考えようよ、魔法使い同士、協力し合えば、きっと何とかなるはず」

「私、そんなに魔法使えないし」

「そんなことないって、今朝の機関車、あれは、ヒトミの魔法よ」

「えっ!?」

 

コハクは機関車の絵のカードをヒトミに見せる。

「写真集に挟んであったの、あの機関車、この絵でしょ、あなたは秘めた力を持ってると思う、でも今、ヒトミの魔法は少し迷子になっているみたいね」

「…」

 

「ところで、さ、わたし、どっ、どんな人と結婚してた?」

「えっ、あ~、おじいちゃんのこと?」

「あっ、やっぱいい、やっぱ先のことは分らない方がワクワクするって、自分で言ったんだから、自分の未来のことは自分で決めるわ」

「うふふ、おばあちゃんらしいね」

「ヒトミ~、そろそろ、そのおばあちゃんてのヤメテくれない、コハクって呼んで~」

 

 

四、夜景撮影会

 

夜景撮影の日、屋上から撮るグループと、校庭から撮るグループに分かれ、思い思いにシャッターを切る。ヒトミがカメラを持て余していると、ショウがヒトミに語り掛ける。その様子が気になるアサギ。それから程なくして、ヒトミはポッキーが好きという話をコハクがアサギにしていると、ショウがいきなり「そうなんだ、月白さん」と話しかける。するとヒトミとコハクが同時に答える。

 

ヒトミ「えっ、あっ、はい」

コハク「いいえ、私でなく、ヒトミが」

ユイト「そっか、二人とも月白さんか」

 

ショウ「ちょっと、ややこしいな」

アサギ「じゃ~、下の名前で呼んでいいだらどうですか」

コハク「遠慮しなくていいですよ」

ショウ「じゃ~、ヒトミとコハクで」

 

ユイト「コハクと月白さん」

ショウ「なんだよそれ」

コハク「なんでわたしだけ」

ユイト「区別がつけばいいんだろ」

アサギ「それはそうですけど」

 

ヒトミが撮影していると、ユイトが覗きに来る。

「雰囲気あるよね、モノクロって」

「私にとっては、いつもと変わらないので、良く分らないですけど」

「モノクロ写真って、水墨画と同じで、色彩が無い分、見ている人のイメージが広がるような気がする、色が少ない方が、大事なものが良く分るのかもしれない」

「あの~、新しい絵、楽しみにしてます」

「うん」

 

校庭グループ(クルミとチグサ)が叫びながら屋上にやってくる。なんでも心霊写真が撮れたという。しかしそれはコハクのいたずらによるものだった。

 

コハク「これっ、ハロウィンのお化け、魔法のいたずらの定番なんだぁ」

クルミ「コハクの魔法!?」

チグサ「なんだいたずらか」

クルミ「あ~、怖かった~、肝試しみたいだよ」

コハク「あっはは、ごめんね~」

ショウ「頼むよ、始末書だけは勘弁なぁ」

 

「おばあちゃん、やりすぎじゃない、魔法のいたずらなんて」

「どうして」

「好き勝手に魔法を使っちゃいけないって」

「みんなが楽しくなるなら、いいんじゃない」

「えっ」

 

「私は、みんなの笑顔が見たいの、魔法でたくさんの笑顔を届けたい、せっかく神様から授かった力だもん、世界にお返ししなきゃね」

「私は、そんな風にできない、魔法は好きじゃないし」

「きっと、いつか好きになれる、だってヒトミは、私の孫でしょ」

 

「今、孫って言った??」

 

「この際だから話してみれば」

「でも」

コハクはヒトミを抱きしめる

「怖がらなくていい、大丈夫、きっと受け止めてくれる」

 

「わ、わたし、未来から来たんです」

 

一同、キョトンとしている。が、次第にその現実をそのまま受け入れ、みんなはヒトミと今まで通りの関わりを約束する。それから、ヒトミとコハクは共同して夜空に列車を走らせ、最後にはみんなで記念写真を撮る。

 

撮影会からの帰り道、ヒトミはアサギに、どう思われるか不安だった気持ちを伝える。同じころ、コハクもユイトに話しかける。

「呼び捨てできないとか、小学生みたい、誤解するかも、ヒトミみたいな子は」

「いつか、帰るの」

「分んない、まだ」

 

翌日、撮影した写真を部員とコハクがチェックしていると、いきなりコハクが宣言する。

「決めた、私も、一人魔法部として、ここの部に入る」

「魔法部ですか?」アサギが尋ねる。

「前に問題を起こして、廃部にされちゃったんだけど、みんなと一緒だったら、廃部も取り消してもらえると思うんだ、撮影会も手伝うから」

ショウやユイトも快く承諾する。

「じゃー、決まりね、名付けて、魔法写真美術部!」

 

 

第四話 まとめ

 

第四話の中で一番印象に残る場面は、やはり学校での夜景撮影会ではないだろうか。この場面で、初めてヒトミは未来からやってきたことを、写真美術部の仲間たちに告げることができた。今後自分がどうなってしまうのか、分らなくて不安に思っていたヒトミの心は、部員のみんなに受けとめられることで安心することができた。

 

また「みんなの笑顔が見たいの、魔法でたくさんの笑顔を届けたい、せっかく神様から授かった力だもん、世界にお返ししなきゃね」というコハクの言葉を受け取って、ヒトミの心ははっきりと何かを意識し始めた。そこにはもちろん、ユイトの一言もとても大きな影響を与えている。新しい絵を見せてくれるという約束は、ヒトミにとってのモチベーションとなっている。

 

さて、ヒトミが部員のみんなに受け止められて、写真美術部に入部すると、最後の登場人物コハクが現れる。彼女(17歳のコハク)は、ここで初めて物語に深く関わることになるのだが、彼女はどのようなキャラクターなのだろうか。ここでは、遅れて登場した準主役のコハクについて少し考えてみたい。

 

この回でコハクは、ヒトミが入っている写真美術部に興味を示し一緒に活動を始める。夜景撮影会にも同行し、火の玉やお化け魔法のいたずらを仕掛けたり、ヒトミが未来から来たことを告白するキッカケを作ったりする。さらに、魔法に対してポジティブな考えをヒトミに伝えるなど、コハクの行動は、ヒトミに大きな影響を与えている。

 

ユング心理学の中に老賢者という元型がある。英知を持って道を指し示したり、変革のための大きなキッカケを作ったりする者で、主として老人の姿で表現されるという。神話や民話あるいはファンタジー映画などでも、髭を蓄えた知恵者がよく出てくるが、そういった人物をイメージすると分りやすいだろう。

 

しかし、この老賢者は、必ずしも老人の姿をしているわけではない。時として純真な子供の姿であったり、またある時は、赤ちゃんの姿をしていることもある。話すこともできるが、無言の存在として現れることもある。そう考えるとコハクは、今のところ17歳の魔法使いとして、この物語をけん引している“賢者”のような存在といえるかもしれない。

 

コハクは、ユイトに対しても「呼び捨てできないとか、小学生みたい、誤解するかも、ヒトミみたいな子は」と、ヒトミとの関係に注意(意識化すること)を呼び掛けている。この後ユイトにも、大きな変革が訪れることになる。

 

最後にコハクという名前についても少し触れておこう。コハクの由来となる“琥珀”は堆積圧力によって天然樹液が化石化したもので、数万年前の地層にもあり、真珠やヒスイと共に「人類が最初に使用した宝石」とも言われている。ヒトミのための魔法を、60年にも渡って育て続けたコハクの想いは、まさに“結晶”と呼ぶにふさわしい。コハクの名前には、そのような象徴的な意味合いがあるのかもしれない。

 

また瞳美という名前も、新しい世界への“瞳(ひとみ)を開く”という課題がその命名に託されているといえるのでなないか。コハクおばあちゃんの「瞳をそらさない事、せっかく行くんだから、楽しんでいらっしゃい」というセリフに、ヒトミの課題が良く表されているように感じられる。

 

コハクという新しい登場人物を迎えて、彼らにどのような“化学変化”が現れてくるのか…、引き続き見ていくことにする。

 

 


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