6、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

           「色づく世界の明日から」

 

第六話 金色のサカナ

 

一、絵に効く星砂

 

ユイトは自室に戻り星砂を使ってみる。部屋がプラネタリウムのように、星に満たされるが、途中、なぜか金色のサカナが現れる。そしてそのサカナはユイトタブレットの中に消えてゆく。

 

翌日、撮影会を企画している部員たちは、検討の結果、クルミの希望で次期撮影地をグラバー園に決める。そんな話をしている部室で、ユイトとヒトミは昨日の星砂について話をする。ユイトによると、途中で金色のサカナが出てきたらしい。

 

ヒトミはそのサカナについて心当たりがある。「なになに、サカナがどうしたって?」二人の会話にコハクが入ってくる。「星砂使った時に、部屋に出てきたらしくて」とヒトミは答える。

 

学校からユイト、ヒトミ、コハクが一緒に帰る。「あのサカナは、俺が時々絵に描いてたものだと思う、小学生の時、授業で描いた絵で、初めて賞をもらった、その時に描いたのが、金色のサカナだったんだ、どうしてそんなものが出てきたのか、分らないけど」

 

するとヒトミが「その絵って、今はどこに?」と尋ねる。「さあ、どっかしまってあるんじゃない」とユイト。「ちぇ~っ、見たかったな~」続けて「ヒトミの失敗っていう訳じゃないと思うよ」とコハクはヒトミに自信を持つよう伝える。

 

「あぁ、それ、俺も一緒に、あいつの作品見に行った」とショウが答える。

「本当ですか」

「写真撮ったから覚えてる」

「あの、見せてもらえませんか、その写真」

 

放課後、近くの公園でヒトミがショウを待っていると、ショウは昔のアルバムを持ってくる。ヒトミはその中に、ユイトが描いたサカナの絵をバックにして、ユイトとショウが映っている写真を見つける。

 

「展覧会の時、撮ったんだ、賞をもらった時、ユイトの親父さんがすごく喜んでさぁ、それから絵を描くようになったんだ、ユイトってそういう話、あんまりしないんだよな、自分のこと話すの好きじゃないのかも、あいつ繊細だから」

 

「どうもありがとうございました」

「こんなんで役に立った?」

「はい、すごく、それじゃ、失礼します」

 

そう言うと、ヒトミはその場を立ち去ろうとするが、ショウがヒトミを呼び止める。言葉を選ぶショウだったが、「送っていく」と一言。

 

二人はまほう屋を目指して歩いている。薄暗くなりかけたところで、まほう屋から出てくるアサギと出会う。アサギはポストカードを作って、まほう屋に置いてもらうために、お店を訪問した直後だったらしい。すると今度は、ショウがアサギを送っていくと言い、二人は一緒に帰路につく。

 

「ポストカード作ったんだ、偉いな、あさぎ」ショウはそう言うと、アサギの頭をポンポンする。するとアサギは「ショウ君、やめてください、私もう小学生じゃないんです」そう言うと、小走りにその場を立ち去る。

 

 

二、グラバー園

 

撮影会当日、魔法写真美術部の面々は、貸衣装を着込み、思い思いの写真を撮って楽しく過ごす。程なくしてヒトミは、ベンチに腰掛けタブレットに絵を描いているユイトの姿を見つける。ゆっくりと近づくが、ユイトは思ったように描けない様子。少し苦しくなったヒトミだが、タブレットの中に、あの金色のサカナを見つける。するとサカナはタブレットを飛びだし、ヒトミを異世界へと導く。

 

 

……気がつくとヒトミは、薄暗がりの建物の中にいる。花火の音が聞こえ、建物の外へ歩いていくと、そこには色鮮やかな花火の風景がある。ヒトミはサカナに導かれて、ユイトの絵の中に入っている。

 

町の風景を抜けて、雲に囲まれた世界にやってくると、ヒトミは帰る方法が見つからないことに気づく。不安になりながらも、さらに進むと、砂漠のような世界にたどり着く。朽ちた鉄塔がいくつもある先には、砂漠に横たわる大きなサカナの姿がある。

 

一見すると、死んだ世界の風景に見える砂漠の丘を登って、さらに奥へと進んで行くと、眼下に黒い沼のようなものが見えてくる。「あれも色?」ヒトミは自問する。

 

沼の浅瀬に黒い人影が見える、その人影が網を持ってサカナを追いかけている。影はだんだんと奥へ進んで行くが、その先には渦が見える。ヒトミは、その人影が、やがて奥の渦に巻き込まれるのではないかと思い、後を追う。ヒトミも沼に入るが、目の前に生気の無いサカナが浮かでくる。死んでいるように見えるそのサカナが、一瞬ヒトミを見つめる。その瞬間ヒトミは我に返る……

 

 

「大丈夫、月白さん」ユイトが声をかけると、ヒトミはベンチから起き上がり「私、今、葵先輩の絵の中にいた」と呟く。

 

 

三、ベンチ

 

ベンチに腰掛け、ユイトとヒトミが言葉を交わす。

「気づいたら、知らない場所にいて」

「絵の中に入る魔法があるの」

「わかりません、一つ、怖いことが」

「何」

 

「絵の奥まで進んで行ったときに、すごく荒れた場所になって、色とかも、ぐちゃぐちゃになてて、黒い影みたいな人がいたんです」

「影」

 

「はい、ずっとサカナを追いかけてて、捕まえられないみたいで、もしかして、あの黒い影の人が邪魔をしてるのかなって、そうだ、コハクに相談してみたらどうですか、夢占いみたいに、何かヒントが見つかるかもしれないですし」

 

「いいよ」

「でも、もし悩みとかあったら…」

「いいって!」

「…」

 

「心配してくれるのはありがたいけど、俺全部話さないといけないの、カウンセリングでもするつもり、魔法使いって、何様」

「…」

 

ユイトはベンチから立ち上がりその場を去る。ショウとクルミは歩いて来るユイトと出会い、昼食をどうするか尋ねるが、ユイトは「ちょっと用があるから」とグラバー園から帰ろうとする。

 

驚いた二人はユイトを引き留めようとするが、ユイトはそのまま立ち去る。そこへヒトミが「葵先輩!」と言って追いかけてくる。

 

夜、ヒトミは一人ふさぎ込んでいる。

「魔法なんて大キライ」すると、そこへコハクが現れる。

「怒られちゃった、入っちゃったの、多分 絵の中に、魔法で勝手に」

 

「自覚が無いのに魔法が使えるなんて、魔法使いとしてはかなりすごいよ、でも、危険でもある、それは、ともかく、怒られるのも、無視されるよりずっといいんじゃない、仲良くなれる気がするじゃん、ハリネズのジレンマだね」

 

「なに、それ」

 

「大事に思って近づくと、傷つけちゃうこともある、だけど、離れているとお互いに寂しいまんま、大事なものほどトゲがあるからね、近すぎちゃったのかな、優しい距離が見つかるよ、きっと、トゲで刺した方も、案外傷ついてたりするものだしね」

 

翌日の放課後、魔法写真美術部に女子四人が集まる。クルミはよく撮れたポジティブな写真を見おわると、ユイトが帰った後の気まずい雰囲気の写真をみんなに見せる。「お決まりの笑顔ばっかじゃつまんないもん、それにね、絆って、少し叩いた方が強くなるのよ」とクルミが言う。

 

「そんな風に思った事無かったから」ハッとするヒトミ。すると、気になって仕方がないアサギは、ヒトミにどうしたのか尋ねるが、ヒトミは「魔法のせいで怒らせた」とのみ答える。クルミは「話さなくてもいいよ、友達でしょ」と返す。

 

部活が終わり、テーブルを片付けていると、ヒトミはそこに「朝川砂波作品展」の案内状を見つける。

 

 

四、朝川砂波の個展(あさかわさなみ・以下サナミ)

 

夜、ユイトはサナミの個展を訪れ、ヒトミに選んでもらった星砂をプレゼントする。サナミは喜んで、星砂をコップに移す。いい香りがあたりに立ち込め、サナミは選んでくれた後輩にお礼を言って欲しいとユイトに伝える。

 

サナミは「なんで絵を選んだんですか?」というユイトの問いに、好きだからという思いを伝えて、ユイトの描いた絵の数々に目を通す。「迷ってるの?」と逆に問われて、ユイトは「最近、何か描けなくて、絵のこと言われた時も、後輩に逆切れみたいな言葉…」「あ~、最低」とサナミ。「ですよね」とユイト

 

ヒトミとコハクが帰宅途中、たまたま個展会場近くを通りかかると、ユイトとサナミが会場の入り口で会話しているところに遭遇する。ヒトミは思わず急ぎ足でその場から立ち去ろうとするが、その瞬間、コハクが魔法で風を起こし、ヒトミの傘を巻き上げると、ユイトの近くに落下する。気づいたユイトは、ヒトミの傘を拾い上げるとその後を追いかける。

 

ユイト路面電車の電停にいるヒトミに追いつき「月白、俺、描くから、今描いてる絵、出来上がったら、月白に見てほしい!」そう言って傘を渡す。ヒトミが路面電車に乗ると、大きな金色のサカナが色のある世界へとヒトミを導いていく。

 

帰りの遅いヒトミをコハクとお母さんが心配している。

「魔法は人を幸せにする、それから時々不幸にもする」

「そうよ、注意してないと、自分の力に飲み込まれてしまうの」

 

「それ、私も小さいころ、よくおばあちゃんに言われたな、ヒトミが絵の中に入ったのは、自分で自分に魔法をかけたせい?」

「たぶんね、未熟なうちはそういうこともあるのよ」

 

玄関が開く音がする。「ただいま」ずぶ濡れになったヒトミを出迎えた二人は「どうしたの!?」と問いかける。「バスタオル取ってくるわね」おかあさんが中に入ると「さっき、色が戻ったの」とヒトミが答える。コハクは一瞬言葉を失う。

 

 

第六話 まとめ

 

第六話で取り上げたいのは、やはりユイトのイメージ世界だろう。グラバー園でヒトミはユイトの心の中を覗いてしまうのだが、タブレットの絵のように色鮮やかな世界だけではなく、奥の方には生気のない寂しいイメージが存在した。

 

輪郭の無い人の姿は一体誰なのだろうか、網を持って金色のサカナを狙っていたのはなぜだろうか。サカナを探しながら沼の奥に入って行くと、その先には吸い込まれるような渦が見える。

 

夢は抑圧された感情が、形を変えてその目的を果たす現象であるとする見方がある。だから夢を詳細に分析すれば、潜在意識が何を望んでいるのかが分るだろうと考えたのがフロイトであった。

 

それに対して夢は体験的なイメージを越えて、今の自分に必要な事を無意識がまるで意思を持つかの如く、何かを伝えようとしているのだと考えたのがユングであった。ユイトのイメージ世界は、何を伝えようとしているだろうか。

 

ユイトのイメージの中の黒い影が、誰を暗示しているかによってもちろん解釈は違ってくるが、概ね三つの見方が考えられるだろう。黒い影が本人である場合、金色のサカナが本人である場合、そして、本人はこの世界を外から見ている場合である。もちろん本人に聞くのが一番確かなことではあるが、現実にはそれができないので各自がイメージするしかない。

 

金色のサカナはこの後何度も登場するので、どのような存在かを是非感じていただきたいと思うが、筆者には本人の深い意識下でつながっている“誰か”のイメージが感じられる。従って、黒い影はその大切な誰かとのつながりを探し続けている、ユイトのせつないイメージと重なってくる。

 

そして、そのつながりを見つけるまでの時間は無限にあるのではなく、“渦”に巻き込まれるまでに捕まえなければ、永遠に失われてしまうものなのだということを暗示させるのである。そのことは本人も無意識的に自覚しているのではないだろうか。つながりを見つけることのできるタイミングは、まさに“今”なのだろう。

 

夢から戻り、ヒトミはユイトに「コハクに相談してみたら…」と言うが「カウンセリングでもするつもり」と返されてしまう。心の内を語ることは、当人にとってはとても苦痛なことである。ヒトミは自身の経験から、それが良く分っていたはずだが…。

 

良かれと思って言った言葉が、思いかけず本人を苦しめることになる。カウンセリングとは日常の会話とは全く違うのだということを、改めて感じさせられる。

 

さて「三、ベンチ」の章の後半で、コハクがハリネズミのジレンマについて語っているので、ここでヤマアラシハリネズミも同意)のジレンマについ少し触れておきたい。

 

ヤマアラシは鋭いトゲが全身を覆っている動物である。彼らは恋しくなるとお互いに寄り添うが、近づきすぎると相手のトゲで傷つき、痛い思いをして離れることになる。しかし、離れていると、寂しくてたまらなくなり、またお互いに寄り添うが、近づきすぎて傷つけあう。そしてまた、お互いに離れることになるものの、それらを繰り返して、お互いの適切な距離を学んでいく。お互いのトゲ(自我)の長さ(強さ)は違うのである。

 

これは、哲学者ショーペンハウアーの寓話を基に、精神科医のベラックによって示された、人間関係の取り方(対人的葛藤)についての心理学的考察である。本物のヤマアラシがどのような生態をしているか詳しくは知らないが、なるほど、言い得て妙である。これを「ヤマアラシのジレンマ」と呼ぶそうだ。この場面でヒトミは、自分のトゲ(意識、無意識も含めての自我)が相手の繊細な感情を傷つけてしまったということになるのだろう。

 

ちなみに、このジレンマから脱出する方法には、どのようなものがあるだろうか。当たり前だが、自分は今とても痛くて辛い思いをしていることを、分りやすい言葉で丁寧に相手に伝えることであり、また、相手から距離を置かれることで、今とても寂しくて悲しい気持ちであることを、率直に伝えることだろう。

 

しかし、それだけで解決するはずもなく、相手のトゲで自分が傷つくこと、自分のトゲで相手を傷つけることから逃げることはできない。そういったプロセスを味わい尽くす勇気が必要といえるかもしれない。そうすることで初めて、コミュニケーション能力がより豊かに養われるのだろう。

 

ヤマアラシのジレンマは、どの時代、どの世代にとっても、自身が成長するために必要なちょっと辛めのスパイスといったところだろうか。無くても生きられるかもしれないが、あった方が豊かな味わいを楽しむことができる。

 

 


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