26、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

            「宇宙よりも遠い場所

 

 

STAGE 06 ようこそドリアンショーへ

 

<プロローグ>

 

空港で出国検査を経験するキマリ達。スポーツウェアを着た学生風の一行が気になるヒナタ。キマリは自分が飛行機になる夢を見るらしい。

 

 

一、シンガポール

 

初めての飛行機を満喫したシラセ達は、最初の目的地シンガポールに到着する。観光気分の三人をユヅキが引率して、一行はやっとホテルたどり着く。

 

市中へ出かける前に、貴重品を金庫へ入れようとするヒナタ。日本円と航空券…、しかし、バッグの中にパスポートが見当たらない。

 

「どうかした?」というシラセの問いに「いや~」と答えるヒナタ。

 

四人は準備をして市内観光に出かける。船に乗りマーライオンのところで不思議な記念写真を撮ったり、中華料理の量の多さに驚いたりと、束の間の楽しい時間を過ごす。

 

海に面した公園でくつろいでいると、キマリとユヅキがドリアンアイスを買ってくる。ドリアンアイスは相当臭いようだ。ユヅキと二人になった時に、ヒナタが「パスポート持ってるよな」と尋ねると「もちろん、ここに」と答える。

 

マリーナベイサンズから港の景色を眺める。四人で話しをしていると、ヒナタがバッグの中を真剣に見つめている。その様子をユヅキが見つけ「ヒナタさん、なにか隠してますよね、隠してますよね」と問いただす。

 

 

二、パスポート

 

ホテルで荷物を確認するが、パスポートは見つからない。再発行の方法をユヅキが調べるが、週末をまたいでいる為出発の日までには用意できないことが分る。飛行機の出発を遅らせようとするが、シラセは到着が遅れることを観測隊に知らせることに抵抗を感じる。シラセの不安に気がついたヒナタは、もう一日あるから明日話そうと言って、その場を収める。

 

「とりあえずさ、三人だけで明後日オーストラリアへ向かえよ」

「えっ」

 

自分の失敗でみんなに迷惑かけたくないヒナタは、三人で先に出発することを提案する。

 

「ごめん、わたしが変更するのイヤがったからだよね、自分でも分ってる、予定通りにいかないと、すぐイライラしちゃうところがあって」

 

「なんでシラセがあやまるんだよ、パスポート無くしたのはわたしだろ、あやまるのはわたしの方だよ、ごめん」

 

「そういう話じゃなくて…」

「そういう話だろ」

 

「みんなにさ、迷惑かけたくないんだよ、これで本当にシラセが言うとおり南極行けなくなったらどうする、立ち直れないって」

 

「でも」

「別に行かないなんて言ってないだろ、まず三人で行けって、追いかけるから、なっ、は~い、それで決まりなぁ」

 

入浴を終えて、シラセとヒナタがベッドで話をする。

 

「ごめん、シラセ、気使ってくれてるのにさ、わたし、こういうのダメでね、それが普通だっていうのは分るんだけど、誰かに気使われるとさ、居心地悪くなるっていうか、本心が分らなくなるっていうか、だから、高校も無理ってなって、なるべく一人でいようと思って、結局、わたしが誰かと一緒にいると、こういう感じになっちゃうんだよな、だから、気にしなくていい、全部わたしの問題だから」

 

「そんなことない、わたしだって問題ある、高校入って、ずーっと近づくなオーラ全開だったし、人付き合いとか、元々…」

「だから、そういうの、気使われるのがイヤダって言っただろ」

 

「使ってない」

「使ってる、シラセはさ、誰よりも南極行きたいって思ってるんだろ、ずっと思ってきたんだろ」

 

「だから?」

「それ最優先でいいんだよ、そっちの方が気持ちがいい、わたしが、なっ」

 

「おやすみ」シラセは明かりを消してベッドに入る。

 

 

三、チケット変更

 

翌日、四人は空港カウンターで飛行機の変更を試みる。交渉したユヅキによると購入した航空券は変更に制限があって、思った通りの変更ができないらしい。それを聞いてシラセがカウンターに詰め寄り、改めて交渉する。

 

「チェンジ レイト ツー デイズ エアー」

「ノー」

 

するとシラセは、おもむろにバッグから封筒(百万円)を持ち出すとチケットと一緒にカウンターに提示する。

 

「プリーズ チェンジ フォー パーソン」

 

「待てよ、だからなに意地になってんだよ」

 

「うるさい、意地になって何が悪いの、わたしはそうやって生きてきた、意地張って、バカにされて、イヤな思いして、それでも意地張ってきた、間違ってないから、気を使うなって言うならはっきり言う、気にするなって言われて気にしないバカにはなりたくない、先に行けって言われて、先に行く薄情にはなりたくない、四人で行くって言ったのに、あっさりあきらめる根性無しにはなりたくない、四人で行くの、この四人で、それが最優先だから」

 

「なんだよ、なんだよ」

 

その様子をキマリとユズキが見ている。

 

「何があったんです?」

「さー、でも悪いことじゃない気がするよ」

 

ビジネスクラスのチケットを手に入れ、予定通りの変更を完了したシラセ達は、フードコートでテーブルに着いている。高価なチケットなのでシラセが保管することになり、チケットをバッグの中に入れようとして中を覗くと、なんとそこにヒナタのパスポートがあった。凍りつくシラセ。

 

ユヅキが海南鶏飯(ハイナンチーファン)を持ってくると、シラセの様子がおかしいことに気づき「シラセさん、何か隠してますよね、隠してますよね」と問い詰める。

 

大失敗のシラセとヒナタは、今度は本物のドリアンを食べる羽目になる。ドリアンはフルーツの王様といわれているが相当臭いらしい。いわゆる罰ゲームなのだろうが、食べ慣れると美味しいらしい。

 

 

STAGE 06 まとめ

 

 

一、シラセ

 

この回では、いよいよ日本からフリーマントルへ向けて出国する。途中、飛行機のエピソードなど、海外旅行に付きものの幾つかのあるあるイベントを経験する。最初は順調なのだが、貴重品をホテルの金庫に入れようとしたとき、ヒナタは自分のパスポートが見当たらないことに気づく。

 

この後、全編をとおしてパスポート紛失事件が扱われるのだが、ここでは、それぞれの行動、対人関係の取り方を観察することで各登場人物の特徴が見えてくる。特にシラセとヒナタの関係が興味深い。お互いを思うが故に、遠慮することでさらに関係が悪化してしまう。

 

シラセは最初、飛行機を遅らせることにとても不安を感じた。しかし、その後考え直し≪みんなで協力して、一緒に行動することが大切なんだ≫と気づくのである。しゃべり下手なシラセは、そんな自分の気持ちをうまく伝えられない。

 

それに対してヒナタは≪南極に行けなくなる可能性が少しでもあるなら、その可能性を排除したい≫というシラセの気持ちが痛いほど良く分っている。だから何より、シラセ達が予定通りに行動することを優先してほしいと考えた。

 

“先に行く、先には行かない”の選択には答えが無い。どちらを選んでも一抹の不安が残るからだ。不安は合理的な理由(明確な事実)で解決するしか方法はないだろう。言い合っている間は何も解決しないのである。

 

そんなモヤモヤの中、シラセが行動する。「プリーズ チェンジ フォー パーソン」それに対してヒナタは「待てよ、だからなに意地になってんだよ」と応じるが、シラセはなおもこう主張する。

 

「うるさい、意地になって何が悪いの、わたしはそうやって生きてきた、意地張って、バカにされて、イヤな思いして、それでも意地張ってきた、間違ってないから、気を使うなって言うならはっきり言う、気にするなって言われて気にしないバカにはなりたくない、先に行けって言われて、先に行く薄情にはなりたくない、四人で行くって言ったのに、あっさりあきらめる根性無しにはなりたくない、四人で行くの、この四人で、それが最優先だから」

 

シラセは誰よりも自分の気持ちに正直である。思いを達成するために一直線である。そんなシラセは、周りを巻き込み方向性を決める『コントローラー』なのである。シラセのこの行動によって、四人の方針が最終決定される。まさにシラセのコントローラーとしての面目躍如といえるだろうか。

 

では、ヒナタはどうだろう。 

 

 

二、ヒナタ

 

先ほどのやりとりの中で、ヒナタはシラセ達が先に行くことが大切だと考えて、自分は後を追うと主張している。パスポートを紛失した自分が、みんなの迷惑になることを避けたいと思ったのだろう。

 

彼女は自分という存在よりも、グループとしての行動(ここではシラセの目的)を優先することが最重要課題だと考えている。プロジェクト全体の進行が重要であって、そのためには自分をある程度犠牲にすることもやむを得ないと考えている。

 

目的達成へのプロセス全体を優先するあまり、自分の立ち位置が見えなくなっているが、それがヒナタの特徴といえるだろう。全体を見つめ、周囲に気を使いながら細かな調整をする。それがヒナタの長所でもあり欠点でもある。すなわち、ヒナタは調整役としての『ファシリテーター』なのである。

 

 

三、ソーシャルスタイル

 

STAGE 02ではヒナタを“ファシリテーター”と、STAGE 04ではシラセを“コントローラー”と表現した。これらはコミュニケーションの特徴を概ね4つに分類できるとした考えによるもので、ソーシャルスタイルという。

 

分類の基準としては以下のような点に着目している。

 

・コントローラー  自己主張が強く、感情表現が弱い

ファシリテーター 自己主張が弱く、感情表現が強い

・プロモーター   自己主張が強く、感情表現が強い

・アナライザー   自己主張が弱く、感情表現が弱い

 

例えばシラセの場合、感情表現が弱いというより、うまく表現できないので、結果として強い自己主張になっているのではないだろうか。いずれにしても方針を定め、その方向に向かってみんなを誘導しているところなど、コントローラーという性質を強く持っているように見える。

 

ヒナタはこの後のストーリーでもいくつかのエピソードがあるので、そのあたりでも指摘するつもりだが、シラセと比べると自己主張は強くはない。しかしシラセより感情の表現は豊かなものを持っているように見えるがいかがだろう。相手の気持ちを気遣い、細かな点に注意を向けつつ、全体が問題なく進行していくことに配慮できることがヒナタの特徴であり、ファシリテーターといえる最大のポイントではないだろうか。

 

ではこの考えを当てはめていくとキマリ、ユヅキはどのようなタイプになるだろう。ソーシャルスタイルについては、詳細に紹介しているWebページが多数あるので、そちらも是非参照しつつ彼女らのタイプを読み取っていただけたらと思う。筆者なりの読みも、後のストーリーのところでお伝えしたいと考えている。

 

なお、ソーシャルスタイルの各名称はいろいろな呼び方があるようだ。先に挙げた名称は筆者が学んだときのものなのだが、コントローラーをドライバー、ファシリテーターをサポーターと紹介しているようなものもある。また、各性質を動物に例えたものがあるので、以下に挙げておく。

 

・コントローラー   おおかみ

ファシリテーター  ひつじ

・プロモーター    うさぎ

・アナライザー    かめ

 

いかがであろう。なかなかその特徴を言い当てているような気もするが…。

 

 

四、ヤマアラシのジレンマ

 

仲良くなる過程で、通り抜けなければならない関門の一つがヤマアラシのジレンマであろう。このブログでも「6」の投稿で触れたので、そのあたりを参考にしていただきたいが、この「よりもい」でも一度は触れておかなくてはならないテーマの一つである。

 

シラセは当初の考えを変え、四人一緒に行動することを優先させるが、ヒナタは自分のパスポート紛失による責任を感じ、三人が先に目的地に行くことを主張する。お互いに自分の考えを通したいと“自己主張”していることになる。

 

行動を共にしようとするとき、他者とより深く関わり合おうとするとき、自ずと人づき合いには細心の注意を払うだろう。しかし、そんな中にあってもすれ違いを引き起こすのが人間というものだ。

 

さてここでは、シラセ(コントローラー)による独自の解決法が新たな局面を生み、その結果問題は解決されることになる。コントローラーによる強行突破ではあるが、それがコントローラーの特徴でもあるし、また相手の気持ちに共感する力のあるファシリテーターの寛容さによるものでもある。

 

傷つけ合いながらもお互いの気持ちが理解できたとき、そこに信頼や友情が生まれるものだ。そうやってヤマアラシのジレンマを乗り越えていくことが、彼女達にも、そして私たちにも求められているのではないだろうか。

 

ところで、もしシラセとヒナタが、二人ともコントローラーだったら…、ひょっとすると目も当てられない状況になっていたかもしれない。…そんなことを考えるのは筆者だけではないだろう。

 

さて、これ以降物語は日本を離れ、南極に向かう。大きな冒険の始まりである。これからの彼女たちの奮闘を見守っていきたい。

 

では。