27、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

            「宇宙よりも遠い場所

 

 

STAGE 07 宇宙を見る船

 

<プロローグ>

 

三年前、初の民間南極観測船が出港するときのイメージが語られる。生前の小淵沢貴子と前川かなえとの懐かしい思い出と共に、藤堂吟のあたらしい旅が始まる。

 

 

一、出港準備

 

観測船出港の地、フリーマントルに到着したシラセ一行は、早速ペンギン饅頭号のレポートを開始する。相変わらずシラセはポンコツである。すると、そこで副隊長のカナエと再会し、観測船の内部を案内してもらう。

 

出港を目前にひかえ、船内は準備に大忙しとなっている。カナエはテキパキと船内の説明を済ませると、他のスタッフへの指示に向かう。その際「言っとくけど、ここからは大人として扱うからね、自分たちで考えなさい」と言い残す。

 

停泊している間に、船内のリポートをした方がいいだろうとユヅキが提案して、まだ慣れない船内ではあるが、シラセ達は取材に向かう。甲板に出たりしながら操舵室にやってくる。

 

船長たちの会話から、この船は人数が足りていないし、広すぎるという発言を聞いたユヅキは、どことなく不安を感じ始める。レポートでのユヅキの質問に、隊長のギンは、三年ぶりの昭和基地を通常通り復旧するのが第一の目的であるという。

 

別れ際、ギンはシラセ達が使用する部屋は小淵沢貴子が使用していた部屋だから大切に使って欲しいと伝える。部屋に戻った四人は、部屋の様子を確認するが、時に変わったとろろはない。それから程なく、ユミコに頼まれ港への買い出しへと向かう。

 

フリーマントルの港で必要なものを購入した四人は、地元の人に「先週来た新型船の方は、コンテナいっぱい積んで行ったからね」と言われて、やはりペンギン饅頭号は少し変かもしれないと感じる。

 

四人は本当に南極に行けるのかという不安をカナエに投げかける。カナエによると、民間ゆえにカットしたものも多いいが、この船の隊員は絶対行くという強い想いがあるという。「強いて言えば、今回は、空を見るためかな」らしい。

 

それでもなお、何か隠しているのではないかとユヅキは思う。「強い想い」という言葉が気になるユヅキは、三人と共に情報収集を始める。

 

ユヅキ達の情報収集によると、今回の計画にはない、ある特別な計画が存在し、隊員はみなその計画にこだわっているらしいことが分る。そのことを聞いて、ユヅキは何か公になっていないスゴイ計画が何なのかが気になり始める。

 

ユヅキは、何か悪い計画だったらどうしようかと考えているが…。

 

とにかく、翌日改めて聞いてみようということになったのだが、二段ベッドの上ベッドの下部、つまり下のベッドに寝ると、目の前に星の模様が蓄光塗料で描かれていることに気がつく。…宇宙(空)…。

 

シラセのモノローグ:

宇宙よりも遠い場所、それは決して氷で閉ざされた牢屋じゃない、あらゆる可能性が詰まった、まだ開かれていない、世界で一番の宝箱≫

 

甲板に望遠鏡があり、シラセはその傍らに歩み寄る。すると近くにいたギンが話しかける。「覗いてみる?」

 

三年前の計画のこと、夢を持ってこのプロジェクトに関わったこと、しかし帰ってきてからバッシングを受けたことなど、この観測隊の狙いと想いを丁寧に話す。キマリ、ヒナタ、ユヅキ達と一緒に、カナエも近くで聞いている。

 

 

二、前夜祭

 

カナエの司会で前夜祭が行われる。盛り上がった雰囲気の中、この三年ぶりの航海が隊員にとって特別なものなのだということが、シラセにはヒシヒシと感じられる。

 

カナエ:「はい、では右から自己紹介!」

 

キマリ:「玉木マリといいます、キマリって呼んでください、えーとわたしは、ここじゃないどこかへ、このままじゃない何処かへ行きたくて、気がついたら南極目指してました、右も左も分りませんが、よろしくお願いします」

 

ユヅキ:「白石結月です、三人より一つ下の、高校一年生です、わたしは、仕事でこの船に乗ることになっていて、実はとても嫌だったのですが、でも、誰かと一緒に何かをしたくてここに来ました、よろしくお願いします」

 

ヒナタ:「三宅日向です。明るく元気が取り柄です、受験勉強が始まる前に、何か大きいことを一つやりたいと思ってここに来ました、背は小さいけれど、心はでっかいヒナタちゃん、よろしくお願いします」

 

シラセ:「小淵沢報瀬です……、キャッチーでウィットで、センセーショナルなリポートをしに、この船に乗り込みました!母が言ってた南極の宝箱を、この手で開けたいと思っています!みなさん、一緒に南極に行きましょう!」

 

全員:「おう!」

 

 

STAGE 07 まとめ

 

 

一、ユヅキの疑念

 

フリーマントルからの出港に向けて、物資の積み込みがピークを迎えている。シンガポールから到着したシラセ達も、取材や荷物運びに忙しい。そしてカナエからは「ここからは大人として扱うからね」などと言われたりする。

 

初めて船内での活動を体験した四人は、どことなく活気の無い様子(人員不足)を感じる。特にユヅキは船内の様子が気になって仕方がない。子役時代から、大人の世界で仕事をしてきたユヅキならではの視点かもしれない。それに港での買い出しの際にも、購入量があまり多くないことに一抹の不安を感じている。

 

他の三人シラセ、ヒナタ、キマリはそれほど不思議に思っている訳ではないが、ユヅキはなぜか船内の雰囲気に違和感を覚えている。ユヅキが口に出して言えば言うほど、他の三人も気になってくる。

 

 

二、ユヅキの気づき

 

ところで、STAGE 03で初めてユヅキが登場するが、その時彼女は南極へ行くことを嫌がっていた。それには彼女なりのはっきりとした理由があった。高校に入って今までできなかった友達を作って、普通の高校生活がしてみたいというものである。

 

友達がどういうものか、どうやって作るものなのかは、ユヅキなりの考えがある。すなわち、友達関係はまず交際を申し込み、ある特定のグループに属し、その中で親交を深めることで確固たる『友達』になることができるだろうというものだ。今のところユヅキは、友達になるためには明確な方法が存在すると信じているようだ。

 

しかし他の三人には、友達になる方法にこだわりなどない。「だってみなさん、親友同士じゃないですか」というユヅキの問いかけに、ヒナタは「わたしたち出会って一ヵ月も経ってないぞ」シラセは「一緒に遊びに行ったこともないし」と答える。するとキマリは「ただ、同じ所へ向かおうとしているだけ」と笑顔で返す。

 

ユヅキにはどうもそれが理解できないようだが、自分の知らない何かがあるのかもしれないと感じたのだろうか。この時の出会いによって、ユヅキの心が動き始める。

 

 

三、ユヅキの課題

 

ユヅキはとても不思議な性格付けがなされている。初めての登場シーンでは女の子らしい服装だが、その後の話では男っぽい性格の持ち主として表現されている。「嫌いなんですよ、ああいう“女子で~す”みたいなの」ということらしい。

 

仕事で女の子らしさを求められているのだろうが、本来のユヅキは合理的、論理的で気持ちよりも頭で理解しないと先へ進むことが難しい性格のようである。求められているものと、本来の自分との間にあるギャップに息苦しさを感じているようにも見受けられる。相反する二面性の統合がユヅキの課題といえるかもしれない。

 

本来『友達』というものは、お互いに気が合えばそれでいいような気もするが、友達がいないユヅキは、自分が作り上げた“トモダチモデル”の幻影に縛られているようだ。やむを得ないところもあるが、論理的に理解したいというユヅキの性格を表しているようにも思われる。先に紹介したソーシャルスタイルでいうところの『アナライザー』というタイプであるといえるだろうか。

 

 

四、アナライザー

 

アナライザーについて前回、自己主張が弱く、感情表現も弱いと紹介した。ユヅキは三人より一つ年下という設定なので、もともと遠慮がちなキャラクターとなっているが、言うべき時はしっかり言っている。どのような時かといえば、それはユヅキが疑念を持った時である。

 

例えば「ウソついてますよね」というような場面があるが、自己主張というより疑念の解消がしたいという態度である。この後の話(特にSTAGE 10)でも、疑念があるときは、可能な限り解消しようとする様子が描かれる。ユヅキの分析的な性格を確認していただけるだろう。

 

もちろん、今までのエピソードの中にもユヅキの論理的な一端をうかがわせるシーンがある。

 

極地研究所の展示雪上車の中で、ヒナタが「微速前進よーそろー」というが、ユヅキは「船じゃないと思うんですけど」と冷静に指摘する。(「宜候」・よーそろーは船舶用語)

 

また居住室の壁を触り「外はマイナス10度ですからね、鼻水出ますねきっと」と合理的な推論を述べたりしている。

 

いずれにしても、この後のユヅキの発言に注視すると“アナライザー”(分析家)としての性質がよく表現されていると感じられるだろう。

 

 

五、宇宙を見る

 

さて、ユヅキの疑念によって、結果として観測隊の間に“秘めた目的”があることが分ってきた。現時点でそれはまだはっきりしていないが、隊員たちが何かにこだわっているらしいことが分ったのである。

 

何か悪いこと…ではないようだが、ここではまだどのような目的があるのかまでははっきりしない。分っていることは“宇宙(そら)を見ること”くらいである。

 

では次回、いよいよ出港する。