30、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

            「宇宙よりも遠い場所

 

 

STAGE 10 パーシャル友情 ※注1)

 

<プロローグ>

 

ヒナタ:「南極か」

キマリ:「南極だね」

ユヅキ:「南極ですね」

シラセ:「うん」

 

ヘリによるピストン輸送の第一陣として、シラセ達は昭和基地に向かう。

 

キマリ:「大きな船だね、やっぱり、ねっ」

シラセ:「うん」

ヒナタ:「見て言えよ!」

 

 

一、いつのまにか友達

 

「荷物が来て慌ただしくなる前に、ささっと案内だけしちゃうわよ」そういうと、カナエは昭和基地を案内する。

 

管理棟、発電棟、居住棟に倉庫、そしてレイクサイドホテル(夏対応の宿舎)。キマリ達は居住棟で個室対応となる。

 

荷物の搬入で忙しくなる中、ユヅキのスマホにメールが届く。シラセ達をペンギンが出迎えるなど、昭和基地での新しい日常が始まる。次から次へと仕事が待っている。

 

ヒナタ:「時計の針を一番進めるものは忙しさである」(ヒナタの名言)

シラセ:「また適当な事を…」

ヒナタ:「あたし忙しい方が好きなんだよね、多分」

 

キマリ:「あ~、疲れた」

ユヅキ:「ですよね、忙しいの、あたしも嫌いじゃないんですよね」

 

出発前に受けたドラマのオーディションに合格したことをユヅキがみんなに伝えると、キマリは「すごい!」と驚く。

 

「それはいいんです、でもドラマとかなったら、時間とか無くなっちゃうんです、こんな風に一緒にいられなくなっちゃうんですよ」とユヅキは心配している。

 

キマリ:「いいじゃん、もうみんな親友なんだし」

ユヅキ:「えっ…、親友、親友なんですか、でも、前言ってませんでしたか、全員、知り合ったばっかりだって」

 

シラセ:「あの時は、実際、知り合ったばっかりだったし」

ユヅキ:「何時の間に親友になったんですか、わたしが北海道いる間に、そういう話になったんですか…、なったんですね…、三人だけで…、わたしに内緒で…、」

 

ヒナタ:「とにかく、ユヅに隠して私たちが何かしたことは一つも無い!」

ユヅキ:「本当ですか」

ヒナタ:「おまえ本当に疑り深いよな」

 

キマリ:「はっ、一個だけ隠していることあるかも」

ユヅキ:「ええっ」

キマリ:「でも、友達であることは確かだよ、わたしたちみんな」

 

ユヅキ:「いつからですか」

キマリ:「いつからって、何となく」

ヒナタ:「まっ、そんなもんだ、友達なんて」

 

ユヅキ:「でもあたし、一度も言われてません、友達になろうって」

「…」

 

キマリは“一個だけ隠していること”を実行しつつある。

 

二、ハッピーバースデー

 

隊員同士の安全チェックをして作業に取り掛かる。キマリ達も室内作業を済ませると、厨房の手伝いに向かう。キマリとヒナタは冷凍丸鳥の解凍へ、ユヅキとシラセはクリスマスケーキ作りの手伝いを指示される。

 

ユミコ:「本日のおやつ完成」

ユヅキ:「随分豪華ですね」

 

シラセ:「まあ、クリスマスだし」

ユヅキ:「そんなに重要なんですか」

 

ユミコ:「基地での暮らしに重要なの、何か知ってる?」

ユヅキ:「いいえ」

 

ユミコ:「食事とイベント、限られた空間で、単調な生活が続くからね」

ユヅキ:「そうなんですか」

 

外で作業をしている隊員にお菓子を届けるユヅキとシラセ。様子の変なユヅキにシラセが「嫌い?クリスマス」と尋ねると、ユヅキは「嫌いじゃないですけど、いうなれば誕生日のお祝いじゃないですか…、不公平じゃないですか、誕生日はみんな等しく訪れるのに、ちゃんとお祝いしてもらえる人と、もらえない人があるって」と不満を述べる。

 

すると遠くで作業をしている隊員が、ユヅキの「フォローバックが止まらない」という曲をかけて、遠くからユヅキに挨拶をする。

 

夕方となり、外の風景を撮影しようとしているキマリ、シラセ、ヒナタのところにユヅキが話しかける。テレビドラマに出演することを決めたのだけれど、これから忙しくなってもみんなと友達でいられるように『友達契約書』にサインして欲しいという。

 

シラセは「こんなことしても意味がない」と伝えるが、キマリは「分んないんだもんね」と言って、泣きながらユヅキを抱きしめる。

 

隊員たちのクリスマスディナーが始まり、それぞれがパーシャル(半解凍)な食事を楽しむ。そんな中ユヅキは、キマリに食事の後、少し話がしたいと告げるが、キマリは用事があると言って断る。

 

キマリが泣いていたのを気にしているユヅキに“友達”についてヒナタとシラセはいろいろ話をしてみる。するとおもむろに「友達って言葉じゃないと思う」というシラセの言葉に「それ、よく聞きますけど、じゃ、なんなんです?」と改めて問われ、シラセとヒナタは一瞬言葉を失う。

 

ヒナタ:「あ、いや~、だから、気持ち、例えば、ユヅがキマリのこと好きだとする、それを聞いたキマリが、言葉じゃ信じられないから紙に書いてくれって言われたら、嫌だろう、疑われてる気がして」

 

ユヅキ:「それは…」

ヒナタ;「泣いたのは、たぶん、そういうこと、キマリにとって、ユヅはもう友達なんだよ」

 

ユヅキ:「だから、なんで友達なんですか、どうなったらそうなるんですか」

ヒナタ:「それは…」

 

シラセ:「たぶん、形も言葉も、何もない、友達なんて、親子とも夫婦とも違う、ぼんやりしたものだし、いつ消えても誰も責任を負ったりしない、少なくともわたしはそう、でもだから自由で、だから一緒にいられる気がする」

 

食事が終わってから、少し時間をおいて、キマリがユヅキの部屋を訪れる。キマリは自分と親友めぐっちゃんとの関係を話す。「分るんだよ、どんな顔してるか、変だよね、私にとって友達って、そんな感じ」と話す。

 

すると今度はシラセとヒナタがバースデイケーキを持って現れる。『メリークリスマス!アンド、ハッピーバースデー!』三人の夜が過ぎていく。

 

翌日、楽しそうにおやつのケーキを隊員の元に届けるユヅキからメッセージが届き、簡単な言葉、ひらがな一文字で伝えあうことのできる関係が“ともだち”なのだとキマリは気づく。

 

<エピローグ>  

 

~南極からの年賀状~

 

 

STAGE 10 まとめ

 

 

一、児童期の課題

 

いよいよ活動拠点が船内から大陸の基地に移動する。当面の目的地であった旧昭和基地は、使用されなくなって三年が経過しているため、設備のチェックや掃除が欠かせない。隊員が総動員されて今後の活動のための準備が行われる。そんな中、ユヅキのスマホに母民子よりメールが入り、ユヅキの心がざわつく。

 

ユヅキについては“夢”という言葉と共にSTAGE 03で一度取り上げた。またSTAGE 07では、論理的探究心を強く持っている“アナライザー”としての特徴について考えてみた。このSTAGE 10でも、しっかり頭で理解したいというユヅキの一面が強く表現されているが、それと共に感情的、感覚的な共感力がまだ未成熟である様子も描かれている。

 

民子のメール、すなわち新しい仕事が始まることで、四人の関係が壊れてしまうのではないかとユヅキは心配しているが、シラセやヒナタ、キマリはむしろ新しいドラマの仕事を応援しようとしている。四人の関係はユヅキにとって壊したくない“特別”なものになっているのである。

 

ユヅキは、これまで経験したことのない『友達体験』をしているのだから、どのようにしてこの関係を“維持”していけばいいのか、不安になる気持ちも理解できる。“友達の獲得”はその後の“維持発展”がもれなくついてくる。本当は、これからが友達との関係は大切であるし大変でもあるだろう。

 

キマリ達はユヅキをとっくに友達だと思っているが、ユヅキは“友達としての申し込みを受けていない”から、まだ友達だと認識できないでいる。ユヅキにとっての“友達の形”という幻影はまだ健在のようだ。

 

ここで友達の定義をするつもりはないので、“友達の形”がどのようなものであってもよいと思うが、心が通じ合っていて、バカなことができるような相手であれば、それで十分友達といえるような気もする。しかしユヅキは、どうしても友達関係が論理的に理解できない。このあたりの特質は、やはり“アナライザー”ならではと言えるのではないだろうか。財前敏夫と同系列に思える。

 

しかしキマリ達は、誰もが行うような普通の方法でユヅキの誕生日を祝う。それが三人にとっての“友達の祝い方”なのだろう。今まで経験したことのない“キマリ達との濃密な関わり”によって、ユヅキは“友達の獲得”という“児童期の課題”を少し遅れて体験している。それはあたかもリハビリしているようにも見えて切なくも感じるのだが…。

 

 

三、通奏低音

 

さて、ここではもう一つ、冒頭のシラセの様子について触れておきたい。砕氷船のタラップから降りたときに「ざまあ見ろ!」と叫んだのは記憶に新しいと思うが、その後、シラセが何かに積極的に取り組もうとしている姿は影を潜める。気の抜けた返事ばかりが返ってくる。

 

このあたりについてはSTAGE 12で詳しく語られるが、この回の冒頭から、その伏線が描かれている。改めて話すことでもないのだが、一度と言わず、二度、三度と「よりもい」を観察していただけると、かなりリアルな人物設定とその行動の在り方を知ることができるだろう。

 

全編を通して、何度も出てくる回想シーンはとても重要であるし。また様々な伏線が複雑に仕掛けられてもいる。是非ご自身でその伏線を拾っていただけると、より登場人物の心の動きが見えてくるのではないだろうか。制作スタッフが描こうとしているのは、シラセの“悼む心”であり、それがこの物語全体を流れる通奏低音のように響き続けているとこがよく伝わってくると思う。

 

 

※注1)「パーシャル」とは、「部分的な」や「一部分の」を意味する言葉。ここで使われている「パーシャル」は、「パーシャルフリージング」を意味し、食品の保存方法の1つ。主に生鮮食品に対して使われ、温度をマイナス3度前後で保存する方法を「パーシャルフリージング」と呼ぶ。マイナス3度だと食品は完全には凍らず、部分的に凍った状態となり、通常の冷凍よりも品質を保ちつつ、一部分を凍らすことにより長期間保存も可能となる。

 

このようなことから、熱くもなく(関わり過ぎず)冷たくもなく(無関心でもなく)「良い友人関係が維持できる状態」という意味で「パーシャル友情」という言葉が用いられているものと推察される。