52、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

              「妄想代理人

 

 

第十二話 レーダーマン

 

一、戦い

 

『逃げてはならない、背を向けてはならない、追いつめられ、行き場を無くしたところに、奴は現れる、語ってはならない、考えてはならない、噂が奴を育てる、想像が、想像が奴を育んでいる』

 

マントを着た馬庭が少年バットと戦っている。巨大化した少年バットに追いつめられ、馬庭は負傷する。しかし間一髪のところで、彼は戦いから離脱に成功する。

 

馬庭は病院にいる老師(老人)の元を訪ねる。老師に教えを乞うが、老師の命は尽きようとしている。やがて「うさぎ、うさぎとダンス」そう言うと、老師は息絶える。

 

馬庭が持つ無線機は美佐江の叫び声を受信する。

 

 

二、マロミと少年バット

 

馬庭が猪狩の家を訪れる。すると美佐江が「あの人が帰ってこないんです」と呟く。馬庭は思わず「係長が…」と言葉を失う。

 

馬庭は美佐江から少年バットとの攻防の話を聞き「では、あなた一人で少年バットを…、一体どうやって」と、少年バットを退けた方法を訪ねる。すると美佐江は「同じ、同じと言ったんです、あの眠そうな目をした犬と」と答える。

 

「犬…、マロミ…、少年バットとマロミが同じ…」馬庭はハッとする。

 

≪都心のマロミ型アドバルーン、マロミCD発売の行列、マロミグッズの溢れた家、ぬいぐるみをめぐるマロミ狩りなどなど、マロミが危険であると言うニュース映像が流れる≫

 

インタビュー番組に出演した月子は、マロミ誕生の話を自身のスケッチブックと共に紹介している。話によるとマロミは、月子が子供の頃飼っていた愛犬がモデルになっているらしい。

 

放映番組を見た馬庭は、そのスケッチブックに少年バットの元型らしき影を見つけるが、その時何処からともなく、馬庭を呼ぶ声が聞こえてくる。声に導かれてその後をついて行くと、オタクの家にたどり着く。

 

 

三、うさぎとダンス

 

馬庭は「これは、君が全部…」といってオタクに声をかけるが、フィギュアは「話しかけても無駄よ、そいつはただの人形、ほっといていいわ」と答える。

 

彼女達(フィギュア)の話によると、彼女達はすべて分っていたが、どうすることも出来なかったと言う。しかし馬庭が覚醒したことで、次のステップへ進めるらしい。

 

情報に詳しいフィギュア(アルタン)が過去の事件を検索すると、10年前に一度だけ、そっくりな事件が起きていることが分った。襲われた小学生は小学六年生の鷺月子12歳である。「お役に立てそうかしら」

 

「何か分った?」

「ありがとう、行かなくては、行って確かめなくては…、ぐっ、うっ」

馬庭は激痛で意識を失うが、治療を得意とするフィギュアが彼を介抱する。

 

激痛に耐えながら、馬庭は次の目的地へと向かう。

 

 

四、鳩村

 

月子と鳩村はクライアントとの折衝で、早期に新作を提示するよう要求される。しかし月子には危機感がない。その後鳩村が月子を自宅まで送った後に、月子に対してそれまでの態度を一変させる。

 

「いつまで大先生きどりでいるんだよ、お前は何か、太陽か、世界は私を中心に回ってるってか、違うだろ、お前は月だろ、マロミという太陽のおかげで、どうにかこうにかもってるだけだろ、なんだよその目は、あんただってマロミのおかげで食べていけるんじゃない、そうだよ、そのとおりだよ、だから今まで我慢して、お前のわがまま聞いてきたんだろがよ、付き人みたいな真似までしてよ、それにしたって限度ってものがあるんだよ、新作書くっつってどんだけ時間が経ってるんだよ、こっちは会社なんだよ、信用なんだよ、分ってんのか、えぇ」

 

月子は驚いて車外へ出る。鳩村ハッと我に返り「ごめんなさいね月ちゃん、あたしもいっぱいいっぱいなの、分って、分ってね、許してね、忘れてね、新作お願いね」そう言うと、慌てて車を出す。

 

しかし、その車は事故を起こし鳩村は死亡する。車を振り返る月子の傍らに少年バットが佇んでいる。

 

 

五、鷺子の父

 

馬庭は列車を乗り継ぎ、鷺月子の実家へとたどり着く。

 

「今の話は、警察にもしませんでした、母親がいない分、厳しく育て過ぎたのかもしれません」

 

馬庭が月子の父から話を聞いている時、彼は家の庭にマロミと書かれた犬小屋や首輪を見つける。

 

「あの時はだけは、月子を叱ることができなかった、ただ信じたふりをして、犯人に仕返ししてやるからと、毎日それを持って…、バカげた話ですが、親としては…」

 

馬庭は小屋の奥にバットを見つけそれを手に握る。するとそのバットは勇者の剣となって、彼はそれを装備する。彼は小屋に向かい「お導き、感謝いたします、老師」と呟く。

 

 

六、少年バットの謎

 

鳩村の葬儀で月子の噂話が語られるが、その話を聞いたマロミが月子を励ます。

 

「月ちゃんは悪くないよ、悪いのは全部あいつさ、月ちゃんは悪いことなんて一つもない、月ちゃんには僕がついてるじゃないか、大丈夫安心して」

 

夜、月子が一人で仕事をしていると会社の電話が鳴る。

 

「謎が解けた、小年バットの謎だ」

「知りません、あたし…」

「父上にお会いしたよ、なにもかも聞いた、本当のこと、父上はすべてご存じだったんだ、もう終わりにしよう、父上から伝言を言付かったよ、これ以上一人で苦しまなくてすむ…」

 

マロミは電話線を切る。

 

「耳を貸しちゃだめだ…、月ちゃん…」

「知りません…、あたし、知りません…、あたしのせいじゃありません!」

「だめだよ月ちゃん、考えちゃだめだ!」

 

マロミはドアのロックをかけるが、月子は放心状態となっている。ドアは外側から激しく叩かれて、やがて巨大化した少年バットが現れる。

 

少年バットがバットを振り下ろそうとした瞬間、そこに馬庭があら現れる。馬庭は月子の実家にあったバットを見せ「これが何だか分るか」と詰め寄る。

 

「まやかしを知る者が、まやかしを屠る(ほふる)ために手にした古の剣だ、神妙にお縄を頂戴しろ!」

 

馬庭がメガネを掛け直すと、そのメガネは彼をレーダーマンへと変身させる。

 

レーダーマンは一瞬にして少年バットを切り付け、彼を亡き者にした…かに見えたが、すぐに復活し戦いは続けられる。そのすきに、マロミは異空間へと続くドアを開けて、月子をその中に招き入れる。

 

 

七、猪狩の世界

 

猪狩は自分の内的世界である紙芝居の空間にいる。懐かしい出来事に誘われて、教室のドアを開けると、部屋の奥から鷺月子が現れる。

 

「守ってあげる、僕が月ちゃんを守ってあげる」マロミの強い意志が伝わる。

 

馬庭は少年バットとの格闘を続けているが、いつの間にか少年バットは姿を隠す。「どこだ、どこへ消えた、どこへ行ったんだ!」馬庭は絶叫する。

 

マロミアドバルーンが突然一斉に消滅したとのニュースが流れ、最近のマロミグッズ盗難事件との関連が調べられているという。世界の様子がおかしくなり始める。

 

フィギュアマニアのオタクが、自分のフィギュアを完成させて喜びに浸っている時、自分が着ていたマロミティーシャツのマロミの部分だけが、なぜかそっくり消滅していることに気がつく。彼は驚愕のあまり部屋の外に飛び出すが、何か得体の知れない黒い物体に飲み込まれる。

 

そのころ、美佐江は発作を起こし病院に担ぎ込まれている。

「奥さん、お名前言えますか、お名前、奥さん!」

美佐江の手には、結婚した頃の二人が写った写真が握られている。

 

エレベーターに運び込まれた美佐江に、エレベーターボーイの老人が尋ねる。

「ご利用の階を、お知らせください」

 

美佐江は目を開け「主人、主人の所へ」

 

「かしこまりました」

 

 

第十二話 まとめ

 

一、レーダーマン

 

「レーダーマン」というタイトルからどのようなことを連想されるだろう。「~マン」と言えば、昔からスーパーヒーローの名前であることはお決まりのことだ。スーパーマンバットマンスパイダーマン、アイアンマンなどはアメリカが生んだコミックヒーローたちである。

 

もちろんこのような慣習は日本のヒーローものにも当てはまる。ウルトラマンスペクトルマン ミラーマンなど実写版の他に、エイトマンに始まる、ガッチャマンデビルマンヤッターマン(?)などはよく知られている。またヒーローものとはいえないが、オヤスミマンもそうしたネーミングの慣習に従っているといえるだろう。

 

では「レーダー」という言葉はどうだろうか。主に電波を使用し、物体の存在や位置を推定する「電磁的検索システム」であると多くの人は理解するだろう。航空機や船舶に搭載され、標的を補足する目的で運用されていることは周知の事実である。

 

レーダーとマンを組み合わせると、レーダーシステムを駆使する正義のヒーローという人物像が見えてくるだろう。実際に、馬庭は第七話の中で無線を操作し様々な情報を傍受している。すなわちレーダーマンとは馬庭のことであり、彼は無線有線に関わらず、情報通信データの世界にアクセスし少年バットと対峙しようとしているのだ。第十二話では、馬庭はヒーローなのである。

 

 

二、うさぎとダンス

 

行くべき方向が分からず、どうしたものかと思案に暮れる馬庭に、どこからともなく救済の声が聞こえてくる。彼はその声に導かれて、オタクの自宅へと向かう。ここでうさぎたちの登場である。

 

オタクといえばフィギュアが頭に浮かぶだろう。オタクの定番アイテムである。老師の言う「うさぎ」とはこのフィギュアたちのことだ。馬庭はここで新たな情報を得ることになる。

 

レーダーマン馬庭にとっては、データへのアクセスとそこからの情報収集能力が武器となる。その能力は、実は彼のマニアとしての覚醒によるもので「うさぎとつながる」ことも可能とする。これは刑事としての馬庭には出来なかった芸当で、うさぎたちも言うように、アンテナを獲得した今だから可能となった。

 

ところでこのうさぎたちなのだが、いささか唐突な印象を受けるのではないだろうか。なぜこのフィギュアたちがこのような役柄を担っているのか…。ユング心理学では、心的葛藤の最小単位として「元型」というものを想定している。グランドマザーやペルソナといったものなのだが、ここではその詳細についての言及は避ける。いずれにしても、その元型と呼ばれるものの中に「トリックスター」といわれるものがある。

 

トリックスターは、物語の構成上、直接的にはあまり関わりがないものの、何か決定的な出来事を誘発し、大きくその流れを変えるきっかけを作るような存在として想定されている。例えば、みなさん良くご存じの「スターウォーズ」という映画の中に、R2D2、C3POというロボットのコンビが登場する。背の低い円筒型のロボットと、人型の金色のロボットである。

 

彼らは生命体ではないので、極限状態の場面で超人的成果を挙げたりする。まさに絶対的ピンチを回避する、究極の助っ人なのである。これは大変有名な話なのだが、スターウォーズユング心理学的な視点を援用しつつ物語が構成されているということらしい。

 

またトリックスターは、物語全体を左右するムードメーカーだったりもする。いわゆる道化役をイメージすれば分りやすいだろう。アニメ「ルパン三世」のルパンなどは、その代表的なキャラクターではないだろうか。彼もトリックスターといえるだろう。

 

話を戻す。うさぎたちはまさに物語の核心を提示し、一気に事件解決のための道筋を示すことになる。またフィギュアというマニアックな設定は、この物語のオタッキーな側面を強調している。現代という時代の特徴を、とても鮮やかに表現しているといえるだろう。

 

普段はその価値に気づくことは無いのだけれど、自分が成熟することで、やがてその価値と意味を受け止められるようになる。そうなって初めて、身近な出来事のシンクロニシティ共時性)やコンステレーション(布置)を理解できるようになるのではないだろうか。馬庭はまさに、この「うさぎとダンス」する時を待っていたのである。

 

 

三、モノリス

 

物語は終結に向かって加速度的に進んで行く。そんな中、美佐江が緊急入院することになる。第十一話でも少し触れたのだが、ここでは美佐江と慶一との関わりが一つの帰結を迎えようとしているように感じられるので、最終場面について思うところを述べておきたい。

 

第十一話の終景は、美佐江が担架の上で「主人の所へ」というセリフで終わっている。非常に印象的な場面である。美佐江にとって赤い服の老人は、あたかも「望みをかなえてくれる存在」のようである。筆者はこの場面に来ると必ず連想してしまう場面がある。それは「2001年宇宙の旅」の中の、同じく終景の場面である。

 

「2001年宇宙の旅」の最後の場面は、ベッドに横たわるボーマン船長がモノリスという石板に手を伸ばすという構図になっている。この映画をご覧になった方なら分ると思うが、この場面は全く意味不明で、理解するのが困難な映画の代名詞と言われている。確かに確信的に述べることは難しい。

 

しかし、モノリスを赤い服の老人、つまり「老師」であり「賢者」である老人と置き換えると、若干分りやすくなるのではないだろうか。「2001年宇宙の旅」の原作者であるアーサー・C・クラークは、このモノリスを「進化の礎」として捉えているようであるが、導くもの、つまり「道標」と考えると少し分りやすいかもしれない。

 

真っ白い空間に横たわる人物が、目の前の人物、あるいは何かにすがる構図は嫌でもこの映画の場面を連想してしまうのではないだろうか。いずれにしても時間、空間、そして全てを超越した世界が用意され、美佐江と慶一はもう一度出会うことになる。最終話に向けて、彼らの関わりがどのようなものだったのか、次回一緒に見ていきたいと思う。

 

では、今回はこのあたりで。

 

 


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