62,心理学で読み解くアニメの世界
心理学で読み解くアニメの世界
「灰羽連盟」
第二話 街と壁 トーガ 灰羽連盟
朝、ラッカは羽を通すためのスリットが入った、慣れない古服を着る。
「あ、イタタッ、痛いってことは、ほんとに体の一部なんだよね、これ」
ゲストルームに年少組の灰羽達が遊びに来る。レキに会いに来たようだが、レキは「お姉ちゃん、新入生のケアがあるから休むって言ったろう」と子供たちを諭す。
古服を着て、レキたちの所へやってきたラッカを見ながら、レキが話しかける。
「着替え、終わった、サイズどう」
「うん、平気みたい」
そう言うとラッカはみんなの前に姿を現す。
「良かった、着るものないと、外にも出られないものね、ベランダに出ようよ、いい天気だよ」
一、ゲストルーム
ラッカはベランダに出ると、声を上げて伸びをする。
「羽、少し太陽に当てるといいよ、水吸ってるから」
「うん」
ラッカは見たことのない風景を眺める。
『知らない街、自分の住んでいた街を思い出すことはできないけど、ここが知らない街だということは、なぜか分かった』
すると、年少組の女の子に羽を動かすことを促される。しかしラッカは羽を動かすことが出来ない。その様子を見ていたレキは、女の子に「ハナ、変なこと教えない!」と叱る。
レキはラッカに無理しないように言うが、子供たちは容赦なくラッカにお節介を焼く。「やれやれ」レキがそう言いながらベランダの外に顔を向けるとクウ、ヒカリ、カナ、ネムの姿が目に入る。
クウ:「レキ!おはよう」
ヒカリ:「ごはん買ってきたよ」
レキ:「サンキュー」
元気なラッカの様子に、みんなはホッとする。ゲストルーム(レキの部屋)に上がり込んで、年少組の子供たちと朝ごはんを食べる。
ヒカリ:「本当はレキがゲストルームに住みついちゃったのよ」
レキ:「最初の最初は、私の部屋だったじゃん、あ~ぁ、こんなでっかいテーブル、拾ってくるんじゃなかった」
「新しい部屋、どこにするの」というネムの問いに「一つ上のはじの部屋」とレキは答える。すかさず「すぐ隣も空いてるのに」とネムに返されるが「もともと、アトリエ変わりにしてたし、ここと同じ階は、安眠が妨げられそうでさ…」と答える。
「一番寝起きが騒々しいのはあんたじゃない」というネムの突っ込みに「起きる努力を放棄している人に言われたくない」と、レキはネムのことを軽くあしらう。
そんなレキとネムの会話を聞いて
カナ:「ネムの居眠りは筋金入りだからね」
クウ:「夢の中でも眠る夢を見てたくらいだもんね」
ネム:「もういいじゃない、その話は…」
ラッカ:「あっそっか、名前、最初に見た夢で決まるんだっけ」
カナ:「そっ、だれが決めたか知らないけど、しきたりでね、まっ、子供たちはそんなのお構いなしだけど」
ハナ:「ハナはね、お花屋さんになりたいの、だからハナ」
ダイ:「僕は大工さん」
ラッカ:「将来の夢ね…」
ショータ:「ショートケーキ!」
ダイ:「ショータのはただの好物じゃん」
ショータ:「違うよ、夢に出てきたんだよ」
レキ:「こらっ、もうケンカしない」
ラッカ:「そういえば、レキは?」
レキ:「えっ、あたしは…」
ショータ:「石ころのレキ!」
「えっ」と驚くラッカに、レキは言いにくそうにその由来を話す。
「あっ、つまり、瓦礫のレキ、月の出ている夜に、石ころだらけの道を、歩いているんだ、ずっと…」
全員、言葉をなくす。
ヒカリ:「そういえば歩くの好きだよね、レキって」
ネム:「引っ越しも好きよね」
レキ:「よく言うよ、追い出したくせに」
クウが「あたしたちも歩こうか、ラッカ、街に行こうよ、歩ける」と尋ねると、ラッカは「うん」と頷く。続けてクウは「レキ、いいでしょ」とレキに許しを求める。
「ラッカがいいなら」
レキは引っ越しの続きがあると言って、オールドホームに残り、ラッカたちを見送る。その際「ラッカ、病み上がりなんだから、無理しないようにね」とラッカに告げる。ラッカ、クウ、ヒカリ、カナ、ネムが街に出かける。
二、外出
ラッカがオールドホームを外から見ていると、ネムがその由来を語り始める。
「大昔はさ、あそこは学校の寄宿舎みたいな建物だったんだって、それが使う人がいなくなって、棄てられて、いつの間にか灰羽の巣になったんだってさ」
ヒカリ:「みんな、オールドホームって呼んでるの、いいところよ、半分くらい、電気が通ってないから、ランプがないと、夜怖いけど」
カナ:「何しろ、あんなだだっ広い建物に住んでるのは、あたしらと年少組のチビどもと、寮母の婆さんだけだからね、ラッカも好きな場所、選びなよ」
クウ:「結局、たむろすることになるけどね」
一行が歩く道を、一台の古い農耕車両が通過する。運転手の姿を見たラッカは「羽がない人もいるんだ」と見たままの事実を口にする。するとヒカリは「もちろん、っていうか、人の街に灰羽が居候しているのよ」
カナ:「そっ、そして人が使い終わった物を引き継ぐのが、灰羽の務めなんだとさ」
ラッカは「へぇ」と言って、感心する。
街に着いた一行は街中を散策する。ラッカが間に合わせの服しか持っていないことにクウは気づき、古着屋へ行くことを提案する。
クウ:「そうだ、ねえねえ、服屋行こう、ラッカの服も買わなきゃだし」
カナ:「別にいいけど…、服屋ったってあの古着屋だろ」
ラッカ:「古着屋?」
ヒカリ:「灰羽はお古しか着れない決まりなの、だからみんなお裁縫は上手くなるのよ、羽袖付けたり…」
ネム:「寒くなったら羽袋もね」
ラッカ:「羽袋?」
三、古着屋
店主:「いらっしゃい…、あぅ…、なんだ、灰羽かぁ…、あれ、見ない顔がいるね」
ヒカリ:「あっ、新生子です」
店主:「へぇ、あぁ、それで…」
店主は、ラッカが付けている光輪の補助を見て呟く。ラッカは、何となくヒカリの陰に隠れてしまう。
「じゃ、そっちのコーナーから一着、好きなの選んでいいよ」
するとラッカは喜んで「いいんですか」と店主に尋ねる。つられたカナが「あたしらは?」と尋ねると、店主は古着の詰まった箱を提示する。
一同「うへ~」と声を上げる。
店主:「うへ~って…、言うなよ、掘り出しもん満載の、未整理、未洗濯の在庫だぜ」
カナ:「洗濯はしとけよ!」
店主「おいおい、一人一着だからな」
カナ:「分かってるって」
ネム:「世知辛いわね」
店主:「呑気にやってるみたいに見えるけど、灰羽ってのも楽じゃないんだな」
カナ:「あったりまえだ!」
クウ:「ラッカ、決まった?」
灰羽達は思い思いの古着を選び、店主への支払いを行う。灰羽連盟から付与された灰羽手帳によって支払いをするのだが、ラッカはまだその手帳を持っていない。ラッカは、店主からサインと小羽根を一枚求められる。
不慣れそうなラッカの様子を見た店主は、ラッカが選んだ服に羽を通す切れ込みが無いことに気づき、彼女のためにミシンでスリット加工を施す。作業を終え、灰羽達に古着を渡すと、店主は笑顔で灰羽達を見送る。
四、大門広場
街の中心地にある噴水の周りで、灰羽達がひと時を過ごす。ラッカが灰羽連盟について尋ねると、ネムは灰羽の生活を保障してくれるところで、そのうちラッカにも灰羽手帳が与えられると答える。
カナ:「灰羽は、お金をもらっちゃいけない決まりだから…、働いたお給料は、灰羽手帳に付けて、それで買い物するわけ、ちなみにあたしは、あの時計塔で働いてんだ、今度見に来なよ」そう言うと、時計塔の方を指さす。
ヒカリ:「あたしはパン屋、ネムは図書館、ラッカも街に慣れたら仕事を探さないとね」
ラッカ:「へ~」
「ねえねえ、あれ」クウの言葉に促され、人々が流れていく方向に目を向けると、カナが「大門広場に市が立ってる、トーガが来たんだ」と、その様子をみんなに知らせる。
ラッカ:「トーガ?」
五、トーガ
壁にある大きな門の前の広場に市が立ち、人々が賑わっている。門の外からやってきた「トーガ」という人達と、この街の話師が手話で会話を交わす。
その様子を見てネムが「ほら、あの荷物を運んできたのがトーガ」とラッカに教えようとするが、ラッカは大きな壁に視線を奪われ「すごい壁」と感嘆の声を上げる。
カナ:「街は、壁で覆われてるんだ、あたしら灰羽も、街の人たちも、街から出たり入ったりすることは、禁じられてる、唯一の例外が、トーガ、外から時々ああやって、交易に来るって訳、で、脇にいるのが門番と灰羽連盟の話師」
ラッカ:「話師…」
カナ:「街の住人は、トーガと話しちゃいけないし、振れたりしてもいけないんだ、トーガもあたしらには絶対近寄らないし、街にいる間は、声は使えない、トーガと話ができるのは、灰羽連盟の話師だけなんだ」
話師とトーガが手話で会話をしている様子を見ながら、ヒカリが話しかける。
ヒカリ:「しゃべる代わりに、ああして、指の形を作って、それで話してるんだって、あたしのはデタラメ、あの人たちにしか分からない言葉なの」
ネム:「つまり、灰羽連盟は、トーガと、街の交易の仲介役ってとこね、で、その利益の一部がオールドホームの光熱費とか、年少組の養育費に当てられてるの」
クウ:「へー、そうだったんだ」
続けてクウが、大きな声で話師とトーガに向かって声援を掛けようと声を上げかけたところ、カナに封じ込まれる。
話師が手話を一旦止めて、灰羽達の方を振り返るのを見たネムは「行こう、灰羽があまり壁のそばにいると叱られる」と、他の灰羽達に耳打ちする。そして彼女たちはそそくさとその場から立ち去る。
<カラスの声と話師の様子、ラッカの表情が印象的に示される>
ラッカたちは夕暮れの中、オールドホームへの家路を歩く。
ラッカ:「あそこ、壁が見える」
ネム:「そりゃね、壁に囲まれた街だから」
ラッカ:「壁の向こうには、何があるの?」
ネム:「誰も知らない、図書館の本を片っ端から読んだけど、さっぱり」
カナ:「読んだつもりで居眠りしてたんじゃないの」
ネム:「じゃ、代わりにカナが読む?」
カナ:「あっ、突然眠気が…」
ラッカ:「この街の外に、あたしが今まで住んでた街があるのかな…」
クウ:「うん?」
六、灰羽連盟
オールドホームに帰ると、玄関先にラッカの札が用意されていて、その近くには灰羽連盟からラッカへの連絡が記されている。
【新生子落下、同志として迎える、明朝、寺院まで来られたし 灰羽連盟】
ヒカリは、光輪の鋳型を返しに行かなくてはならないことに気づき,ラッカと一緒に行くことを提案する。ラッカは同意するが「でも、どうしてわたしの名前、知ってるんだろう」と不思議に思う。すかさずカナは、灰羽連盟が恐ろしい魔法を使うなどと、ジョークを飛ばすが、ネムに「買い物したときに、名前書いたじゃない」と説明され、ラッカは「そうか」と理解する。みんなは中庭まで来ると、そこで解散し、それぞれの部屋へと帰っていく。
ラッカはゲストルームのドアを開けると、真っ暗な室内へと入っていく。ベッドに荷物を置くと、窓辺の椅子にレキがいることに気づく。
「ラッカ、街はどうだった」
「うん、楽しかったよ、服も買ったし」
レキは部屋の明かりを点ける。
「ご飯は?」
「帰りにみんなでカフェで…」
テーブルには、食事らしきものがあり、カバーが掛けてある。
「…あっ、ごめん、待っててくれたの?」
「あぁ、いい、いい、部屋の片づけで、ホコリ吸ったら、なんか食べる気しなくなっちゃって」
「お茶入れるね」
「あんがと」
ラッカが入った台所から大きな物音がする。慌ててレキが台所に向かうとラッカがうずくまっている。
「あれ」
「ラッカ、寝てな、ごめん、気づかなくて」
「おかしいな、さっきまでは、すごく…」
「気が張ってたからだよ、大丈夫、歩ける?」
レキはラッカをベッドに寝かせる。するとラッカの光輪の補助がコロコロと床に落ちる。
「くっ付いてる?」
「うん」
「レキ、私は心配ないから寝て」
「ラッカが寝たら寝るよ」
「もう寝たよ」
「おやすみ」
「おやすみ」
第二話 まとめ
一、レキの名前
繭から生まれた灰羽達は、夢の内容を元に名前が付けられるという。第一話ではクウ、ヒカリ、カナ、ネムの由来が語られる。ラッカは、自分の夢のイメージをみんなに伝え、その話を聞いたレキが、煙草の灰が落ちる様子から霊感を得て、ラッカ(落下)と命名する。名付け親はレキなのだ。
第二話では、ゲストルームで年少組も交えたオールドホームの灰羽達が朝食をとる場面があり、そこで年少組のハナ、ダイ、ショータの名前の由来が紹介される。ラッカは「将来の夢?」と感じたようだが、ショータが言うように、実際に見た自分の夢に由来していると解釈した方がいいだろう。
ラッカが「そういえば、レキは?」と疑問を口にすると、レキは「えっ、あたしは…」と言って口ごもる。すかさず、ショータが「石ころのレキ!」と元気よく言葉を発すると、ラッカは「えっ」と驚く。
「あっ、つまり、瓦礫のレキ、月の出ている夜に、石ころだらけの道を、歩いているんだ、ずっと…」レキがそう説明すると、その場の雰囲気が沈んでしまう。レキが、自分の名前に何か違和感があることが、ここで初めて示される。
“月の出ている夜”まではいいのだが、“石ころ”という単語には誰しも「えっ」と驚くだろう。そこには、“生気のない”、“冷たい”、“取るに足らない”印象があるからかもしれない。
いずれにしても「名前」が繭の夢に由来し、その夢は前世からこの世界に転生する際に「見た」のであるという点を考慮すると、夢が灰羽達にとって理解あるいは克服されるべき課題であることが提示されていると言えるのではないだろうか。
二、壁
第一話でレキは、この街について以下のように語っている。
「灰羽はこの街から出ることはできないんだよ、それに、この世界のどこかに、もしあなたの家族がいても、今のあなたを見て、あなただと思わないと思う」
“灰羽はこの街から出ることはできない”ことを裏付けるように、第二話では今度はカナが以下のようなことを語る。
「街は、壁で覆われてるんだ、あたしら灰羽も、街の人たちも、街から出たり入ったりすることは、禁じられてる、唯一の例外がトーガ、外から時々ああやって、交易に来るって訳、で、脇にいるのが門番と灰羽連盟の話師」
大門市場を見るのはラッカにとっては初めてだが、他の灰羽にとっては改めてこの街を現実的に閉ざしている“壁”の存在を再認識させる出来事であったに違いない。それと同時に、見ている私たちにも大きなインパクトを与えることになる。
街は巨大な壁によって“守られ”同時に外へ出ることを“阻んでいる”。見方によっては、繭に守られた灰羽達のイメージにも重なるだろう。灰羽は生活の保障のある街に育まれ、その街は強力な壁に守られている。生命維持のための羊水に守られ、繭が強固な殻に守られているのと似ている。
一度誕生すると、もう繭の中に戻ることはできないという現実も、実はこの世界の「街」という性質と似ているように感じられる。つまり繭から生まれることも、街から出ることも、ほとんど同じような意味を持っていて、それは戻ることのできない一方通行の、しかも一度きりの経験であることが暗示されているのである。
三、トーガ
この物語の登場人物の中でも、極めて特異な存在がトーガであろう。全くセリフが無く、どのような存在なのかよく分からない。彼らにも何らかの役割を持たせているのではないかと想像は出来るのだが、ここまでの情報を元に検討することは難しい。
トーガについては、今後も詳しく検討してみたいと考えている。
では、今回はこのへんで…。