65,心理学で読み解くアニメの世界

          心理学で読み解くアニメの世界

              「灰羽連盟

 

 

第五話 図書館 廃工場 世界のはじまり

 

一、司書スミカ

 

ラッカはネムが務める図書館にいる。今度は図書館での仕事体験である。ネムは先輩の司書スミカと会話を交わし、スミカの産休についての確認をするが、スミカの話によると在籍期間はあと「四日」ということらしい。

 

ラッカは、本を運ぶ仕事の途中スミカと出会い、本を運ぶ手伝いをしてもらう。

 

「新生子ってことは生まれたばかりなんでしょ、とても赤ちゃんには見えないけど…、生まれてくるときってどんなだった、怖かった?」

「いいえ、よく覚えてないけど、夢の中で、誰かが守ってくれてたような気がして…」

 

「ふ~ん」

 

本を運び終えると、ラッカはスミカに礼を伝える。

「ありがとうございました」

「こっちこそいい話を聞いちゃった」

 

「えぇっ?」

「親の気構えってやつね」

 

 

二、書籍の整理

 

ラッカとネムは、トーガの交易品であるという何冊もの本の整理を行う。どれも古い物ばかりで、ネムは修繕する本をまとめると、一旦その場を離れる。残されたラッカはラベル貼りの仕事をする。

 

しかし、しばらくすると、ラッカは古い絵本に心奪われる。と、そとへネムを訪ねてスミカがやってくる。

 

「熱心になに読んでたの」

「何ってわけじゃないんですけど、この街の外に何があるのか、どこかに書いてないかなって」

「あ~、分る分る、わたし昔そういう本を探してまわったっけ」

 

「へぇ、見つかりましたか?」

「ううん、ダメだった」

 

「…そうかもしれませんね」

 

するとスミカは、昔この街を出ようとしたことがあったと話し始める。“世界のはじまり”を見つけようとしたことがあったとラッカに告げるが「でも、ダメだった…、何しろ夢よりも現実の方が幸せなんだもん」と笑ってみせた。

 

そんな話を聞いているうちに時刻を告げる鐘が鳴る。

「あぁ、いっけない!」

 

 

三、お話しお姉さん

 

ラッカとネムがカウンターで受付業務をしていると、スミカがやってきて「カウンター変わるわよ、お話しお姉さんの出番だって」と二人に告げる。

 

別室で、ネムは“とうのうえのまじょ”という童話を、灰羽の年少組の子供達に読み聞かせる。みんな静かに聞いているが、お話が終わると自然と拍手が起こる。年長組も拍手をするが、ネムは「ヤメテよ、照れるじゃない」と応じる。

 

レキ:「ほら、お話しお姉さんにありがとうは?」

子供達:「ありがとう」

 

図書館から帰る途中、レキは買い物があると言って、ヒカリに年少組の引率を依頼する。

ヒカリ:「うん、いいよ、クウもいるし」

クウ:「はぁ?」

ヒカリ:「クウ、先生の代わりだって」

クウ:「先生…、やる!」

 

レキ:「助かる、じゃ!」

 

夕方の鐘が鳴り、ラッカとネムは閉館の準備をする。

「ごめん、明日の打ち合わせが、ちょっと長引いて」

「ううん、それよりごめんね、あんまり役に立たなくて」

 

「充分よ…、それより、あと四日か…」

「えっ」

「スミカのこと、お祝い考えてたんだけど、間に合うかな…」

 

「なあに、編み物?」

「ナイショ」

 

ラッカとネムは図書館に鍵をかけ、家路につく。

 

「教えてくれたら、手伝うのに」

「なんか照れくさくって、ううんと、ヒントはね、“世界のはじまり”」

「ええっ?」

 

「昔、図書館にそういう本があった、もう捨てられちゃったけど…、古くて、最初の何ページかしか判別できないようなぼろぼろの本、スミカと二人で続きをあれこれ考えてね」

「それから?」

 

「ヒントはそれだけ」

「えぇ~」

 

 

四、レキとヒョウコ

 

二人がオールドホームへ向かう途中、道の先にレキの姿を見つける。ラッカは遠くから呼びかけるが、レキは気づかずにホームとは反対側の道へと歩みを進める。何かに気づいたネムは、ラッカと二人でレキの後を追う。

 

レキは橋のたもとで、作業員風のおじさんからスクーターを受け取る。

「あぁ、スクーターのガソリンか」

 

レキが荷物をスクーターに降ろし、たばこを吸っていると、橋の向こう側から三台のバイクが近づいてくる。

 

「ほら見ろ、やっぱりレキだ」

「なんであんたがここにいんのよ」

 

後からスケートボードに乗ってやってきた少年が、レキに近づき彼女のタバコを奪い取る。少年はヒョウコと呼ばれている。

 

「何すんだよ」

「こんなもん吸うなバカ、バイクもやめろ」

「バカはてめえだ、こいつぁ街の許可取って、天下御免で乗ってんだ」

 

そう言うと、レキはバイクに乗ってその場を立ち去る。一部始終を見ていたラッカとネムは、巻き込まれないうちにとその場を後にする。

 

 

五、廃工場

 

その場を離れて家路に向かう途中、ネムは先ほどの出来事についての背景をラッカに説明をする。

 

東の廃工場も灰羽の巣であり、男女共学であること。さっきの少年ヒョウコとレキについて、過去にいろいろあったこと。昔はレキが荒れてて、ネムとケンカしたことがあり、それがもとで家出したことなど、後で分ったことだがレキとヒョウコはその時駆け落ちしたことなどをラッカに伝える。

 

「あぁ、すごい、駆け落ちカッコイイ」そう言うラッカに「マネしちゃだめよ」とネムはくぎを刺す。

 

「そのせいであの二人、お互いの住んでる地区に入れなくなっちゃったんだから」

 

 

六、夜のベランダ(ラッカのモノローグ)

 

パジャマを着たラッカは、夜のベランダで一人、月を眺める。

 

『わたしの記憶の中には、もう一人のわたしがいる、ネムたちは違うといったけど、どこかに両親が住んでいた町があるんじゃないかと、今も心のどこかで思っている、羽が体になじんだら、この違和感も消えるのだろうか、ここではみんな、小さなクウでさえ仕事を持ち、自分の力で生きている、でも本当は、見えないところで支え合っているのだ、当たり前のことだけど、ここにきて、初めてそれを知った気がする』

 

「いいのかな、わたし、こんなに幸せで」

 

 

七、図書館

 

朝、ラッカとネムは図書館で顔を合わせる。

 

「おはよう、手伝っていい?」

「そりゃぁいいけど、次、夕方だよ」

 

「じゃぁ、それまで、調べものしてるよ」

「調べものって?」

 

「世界のはじまり」

 

ラッカは空いている時間を調べものに費やす。その様子をスミカが気にして、ネムに伝えると「ないしょ、そっとしいて」と答える。

 

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仕事の合間に、ネムはふっとうたた寝をして、かつてスミカと一緒に“世界のはじまり”の本について、その内容を二人で補完している頃の夢を見る。ネムにとって、幸せな時間である。

 

ラッカがネムのこところを訪ねると、ネムは微笑みながら眠っている。そんなネムを起こすことができないでいると、時計塔の鐘が鳴る。ネムは目を覚ますと驚いたように「やだ、見てないで起こしてよ!」ラッカに告げる。

 

ネムは「調べ物はどうだった?」と尋ねると、ラッカは「うん、世界のはじまりって不思議、いろんな場所に、いろんな物語があって、でも、みんな少しずつ似てるんだね」と答える。

 

「で、答えは?」という問いに「ヒントが答えなんて反則だよ」つまり、ネムのプレゼントがどのようなものなのか、はっきり教えてもらっていないことを告げると、ネムは諦めて「しょうがない、見ても笑わないでよ」と言って自作の小さな書籍をラッカに渡す。

 

「あぁ、すごい、これどうしたの」と驚くラッカに、本を修繕している人に頼んで作ってもらったと答える。ラッカはすかさず「読んでいい?」と尋ねる。

 

「笑わない…?」

「もちろん」

 

途中まで、ラッカは感心しながら読んでいるが「あれ、ここまで?」とネムに尋ねる。するとネムは「うん、最後が決まらなくて…、何かない、アイデア?」とラッカに助け求める。

 

しばらく考えた後、ラッカは何か思う所がありハッとする。「笑わない?」とネムに念押しすると、ネムも「もちろん」と答える。

 

ラッカは自分が考える物語の続きをネムに聞かせる。真剣に話を聞いているネムだったが、突然笑い出し「ハハッ、真面目に考えてよ(笑)」と言葉を投げかける。

 

「真面目だってば、さっき、ネムの寝顔を見てて、ちょうどそんなことを考えてたの」

「失礼ね、ダメよ、これは偉い人のお話なんだから」

 

「それはネムの本だから、読んだとき、ネムの顔が浮かぶのがいいと思うけどな」

「あたし、そんな行儀悪くないでしょ、ひどいな、もっと品のあるアイデアを募集します、さぁ、残業残業!」

 

「ふふっ」

 

ネムは残業があるらしく、ラッカはカナと一緒に自転車に二人乗りして帰って行く。

 

 

八、帰り道

 

クウは、お手伝いをしたお店の店主から角砂糖をもらって帰る時、一瞬考えた後、改めて「さようなら」と丁寧に挨拶をしてからお店を後にする。クウはその足で、裏道の野良猫に角砂糖をあげる。

 

たまたま通りかかったラッカとカナは、その場所に自転車を止め、ラッカがクウに声をかける。

 

「クウ」

「あっ、ラッカだ」

「何してたの

「ん? 挨拶」

「挨拶…」

 

 

九、翌朝

 

翌朝、レキはラッカに声をかけると、ネムは残業でまだ寝ているという。何か特別なことがあったと感じたレキは、おにぎりを作りはじめる。

 

二人並んでおにぎりを握っていると、ラッカは昨日見たレキとヒョウコとの出来事が気になって、思わずレキの横顔を覗き込んでしまう。するとそこに寝坊したネムが現れる。

 

「あぁ、大変、ラッカ! ご飯いらないから!」

「ドンピシャ」そういうと、レキはランチボックスをネムに渡す。

 

ラッカとネムは二人乗りで図書館へ向かう。

 

「スミカさん、喜んでくれるといいね」

「うん、あきれられたら、ラッカのせいだからね」

「えぇ、なんで」

「そりゃ、あなたとの合作だもの、表紙にラッカの名前、書いてるからね」

 

「えぇ~」

「今さら何よ」

「そうじゃなくて、いいの?」

「連帯責任よ、覚悟しなさい」

 

ネム、わたしすごくうれしい」

「スミカもそうだといいけど」

「そうに決まってるよ」

 

 

『神がその頭上に輝く光輪を手に取り、高く掲げると、それは太陽になりました、神が杖を一振りすると、無は二つに裂け、一つは空に、一つは大地になりました、ところが、手元が狂って、山と谷が生まれました、神は「失敗したが、それもまた良し」と言われました、神が大地に絵を描くと、次々と草や木が生え、鳥や動物が生まれました、それから神は、自分の姿に似せた生き物を思い描かれました、しかしこれは、神とそっくりすぎて失敗でした、そこで神は、羽を灰色に塗り、光輪に穴をあけ、“灰羽”と名付け、それを頭の隅に仕舞い込みました、神は改めて、羽も光輪も無い、人間を創られました、これは良い出来でした、神はすっかり満足して、そのまま居眠りをしてしまいました、消えてしまうはずだった灰羽は、こうして神の首の中から、抜け出すことができました、神が目を覚ますと、すでに灰羽は空に浮かんでいました、でも神は、失敗には寛大でしたので、そのちっぽけな世界と、灰羽達を残すことにしました、こうして、グリの街は、大地でも、海で見ない場所に、今もぽっかりと浮かんでいるのです』

 

 

第五話 まとめ ネムの物語

 

第四話のカナに続いて、今回はネムにスポットが当てられる。ラッカは、ネムが働く図書館で職場体験をすることになる。そこでネムの親友であり先輩でもあるスミカと出会う。スミカは産休のためあと4日で職場を去るのだが、ネムはスミカへの感謝の気持ちを込めて、贈り物を用意しているという。スミカに対するネムの気持ちや、ネムに協力するラッカとの関係など、ここではネムという人物について少し検討をしてみたい。

 

 

一、ネムとスミカ

 

回想映像でも分るように、小さい頃のネムはスミカに支えられて困難な時期を過ごしたようだ。それだけに、スミカに対して特別な感情を持っている。姉のようでもあり、同世代の友達のようでもある。本来なら、贈り物は自分で用意(あるいは創作)するものかもしれないが、ラッカとの共同作業を最後には渋々(喜び半分)ながらも受け入れている。ネムの寛容さが良く表現されている演出ではないだろうか。

 

ネムという人物について一言で言えば、おっとりした性格と言えるだろう。穏やかで、波風立てることを好むようなタイプではない。オールドホームのメンバーの中では、まずレキをリーダーとすることに異論は持たれないと思うが、そう考えるとネムはレキを支える一番の理解者といえるだろう。

 

オールドホームの灰羽達を一つの家族として見た場合、それぞれの役割が良く見える気がするので、ここでその役割を示してみたい。レキを父親、ネムを母親、カナを長男、ヒカリを長女、クウを年少の子供とする見方である。疑似家族として、バランスよく考えられているのではないだろうか。

 

このような見方をすると、ネムには母親的な役割が求められているような印象を受ける。それがネムの課題なのか、本質なのかは分からないが、一つの疑似家族として、ネムは他のメンバーと有機的に結合しているように見える。ラッカはそんな疑似家族の中に生まれ、そのバランスに微妙な変化をもたらすのである。

 

では次に、スミカという人物について考えてみたい。スミカはこの街の住人で、ラッカたち灰羽とはその立場がはっきりと違う。スミカはまもなく母親になるのだが、子供は胎内から赤ちゃんとして生まれてくる。物語の中では、そのために産休を取ることになっている。

 

スミカは、灰羽が繭から生まれてくることに違和感を持っていなし、その違いをことさら強調することもない。そういうものなのだと理解しているようだ。この街の人々は赤ちゃんとして生まれ、老人として死んでいくことが当然なのだと考えているのだろう。

 

さて、この街の住人はあまり深く掘り下げられてはいないが、そんな中でもスミカだけは、ネムとの数年に渡る繋がりなども含めて、その人となりが語られている。小さいネムの良き相談相手であり、かつては外の世界に思いを巡らせたとこもあったという。

 

しかし「何しろ夢よりも現実の方が幸せなんだもん」と言ってスミカはこの街で家族を持ち、日々の生活の中に自身の幸せを見出している。当たり前の生活の中にこそ幸せは潜んでいる、と言わんばかりである。そして、灰羽を当たり前の隣人として迎え入れているのである。そこには、カナが世話になっている時計屋の主人と通じるものがある。

 

街の人々にとって灰羽は、日常ほぼ意識することのない影の薄い存在であるが、その世界の中で確実に生活し、一定のかかわり方が必要な特別な存在として描かれている。スミカは、そんな街の人々の考えを代表する一人であり、灰羽はそういう人々に支えられているのである。

 

 

二、グリの街

 

カナが「街は、壁で覆われてるんだ、あたしら灰羽も、街の人たちも、街から出たり入ったりすることは、禁じられてる、唯一の例外が、トーガ、外から時々ああやって、交易に来るって訳…」というセリフはとても重要で、この街の住人は、誰も外の世界から戻ることはできないことになっている。つまり街の人々にとって、街と呼べる場所は世界に“一つ”なのである。

 

古い本「世界のはじまり」からインスピレーションを得て、ラッカとネムが共に作ったスミカへの贈り物の本も“世界のはじまり”である。ラッカはこの本の中で、神から生まれた灰羽の暮らす街を「グリの街」と呼んでいる。この名前は古書の中にあったようなのだが、ラッカたちが暮らすこの街を人々が「グリの街」と呼んでいたかは分からない。

 

灰羽連盟」で検索すると「灰羽連盟ホームページ」がトップに表示される(2022年5月時点)。その中に「ハイバネ大辞典」というページがあり、そこで“グリという地名”についての記述があるのだが、正直なところあまり参考にならない。古書にあった「グリの街」という名称を、ラッカがこの街に名付けたということなのだろう。

 

いずれにしてもこの「グリの街」という名称については、検討する必要があると考えているので、ここで少し思うところを書いてみたい。Wikipediaではこの街を「グリの街」と呼んでいるようなので「グリの街」として話を進める。

 

まず「グリの街」の「グリ」についてなのだが「guri(グリ・倶利)」をGoogleで検索すると、以下のような説明がトップに表示される。

 

『堆朱(ついしゅ)や寺院建築などに用いられる、蕨(わらび)形の曲線の連続文様』

 

では「堆朱」とは何だろうか。Wikipediaによれば、堆朱とは木製の生地に漆を何層にも塗り固めた工芸品で、仕上げの表面を赤い漆で仕上げたものが堆朱、黒い漆で仕上げたものが堆黒(ついこく)、黄色い漆で仕上げたものが堆黄(ついおう)などというらしい。ちなみに新潟県村上市では、村上堆朱という名で様々な工芸品を制作しているので、是非一度検索していただきたい。

 

次に、寺院建築などに用いられる蕨(わらび)形の曲線の連続文様についてである。「蕨形」とあるように、先の方が丸くなっているということは容易に想像がつくだろう。「ゼンマイ」のような形であり、いわゆる「唐草模様」と言えば分りやすいのではないだろうか。

 

神奈川県の鎌倉に鎌倉彫(かまくらぼり)という工芸品がある。「鎌倉彫 グリ唐草」で検索すると、いくつもの工房のホームページがヒットする。それらの作品群を見てみると、容易に「グリ唐草」の文様を見つけることができるだろう。また画像検索でもいくつかヒットするので、そちらで確認することも可能である。是非一度「グリ唐草」をご確認願いたい。

 

では、実際にこの文様に触れてみてどのように感じられるだろうか。人それぞれなのは当然なのだが、何とも不思議なエネルギーを感じられるのではないだろうか。植物が枝葉を増やすように次々と連続する様は、生命の連鎖をイメージさせる。また曲線の重なりからも、大きな「うねり」のようなものも感じられるのではないだろう。

 

「グリ(倶利)」という文様が何に由来しているのか、さらに今度は漢字で「倶利 由来」で調べると「倶利伽羅(くりから)」という単語に遭遇する。倶利伽羅とは、黒い龍が巻きつく宝剣を持っている不動明王のことを指す。サンスクリット語で「黒い龍」のことを「クリカ」と言うところから転じて、倶利伽羅不動明王と呼ばれるようになったらしい。

 

黒い龍は不動明王の化身であり、あらゆる災いを断ち切り、幸運をもたらすという。宝剣は不動明王そのものであり、邪心を切り、炎によって憎しみ、怒り、羞恥、貧困などの負の感情を浄化する力があるとされる。

 

このように見てくると、グリという文様は倶利伽羅不動明王を象徴する「黒い龍」の持つイメージやグリ唐草の躍動的な文様をモチーフとしているのではないかと思えてくる。それが正しいことかは分らないが、グリの文様に力強さや生命力を感じるのは、こういったことと何かしら関係があるのかもしれない。

 

古い時代から脈々と伝わる伝統的なデザイン(シンボル)には、不思議な霊力が備わっているといえなくもない。作者がそういった意味を込めたかは分らないが、グリの街という言葉からは「外界から守られ、浄化と再生のエネルギーを持つ特別な所」という印象を受ける。女の子はこの街へと送られ、やがて繭玉から生まれてくる。

 

「繭玉」は女の子を直接的に「守る」ものであり「グリの街」はその繭玉を守るものでもあるだろう。「グリの街」もまた、高い壁によって守られている。さらに灰羽達は「灰羽連盟」によって守られている。女の子を含めた灰羽達は、幾重もの「守り」に囲まれているのである。

 

先に述べたように、グリの街を「外界から守られ、浄化と再生のエネルギーを持つ特別な所」とするならば、灰羽達はここで何をしなければならないのだろうか。完全なる守りに支えられ、どのような道を目指すことになるのか。私たち視聴者は、今後さらにその行く末を見つめていくことになる。

 

では。