13、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

           「色づく世界の明日から」

 

第十三話 色づく世界の明日から

 

一、ここに来た意味

 

ユイトのモノローグ:一人で描くのが好きだった、好きに描いていられれば、それで十分だと思っていた、だけど、ヒトミは、俺の絵を特別だと言ってくれた、彼女の最初の印象は、さみしげな鈍色(にびいろ・濃い灰色)、いつも不安をにじませて、周りの世界を伺っていた、一人になった俺は、きっと何度も思い出す、色とりどりの日々も、鮮やかな痛みとともに

 

時間魔法の準備をする部員たち。コハクは呪文を唱え時間魔法の儀式を始める。コハクから、星砂の力が満たされるまで時間があることを告げられたヒトミは「うん」と言って、周りのみんなを見渡す。

 

<ショウ>

 

「じゃ、俺から」ショウがヒトミに近づく。

「ヒトミ、いつも自信無さそうだったけど、そんな必要、全然なくて…、俺は、お前の写真、好きだった、これからも撮り続けてほしい、元気でな」

 

<チグサ>

 

「チグサ!」ショウに指名されて、ヒトミの元に近づく。

「えっ~と、最後なんで、ヒトミ先輩、一言だけいいですか…、もっともっと笑えばいいのに、そしたら、もっと写真の撮り甲斐があるっていうか、もったいない」クルミが「あんた最後にそれ!」と言うと、ヒトミは「ううん、ありがとう、チグサ君、私、本当に笑うのが苦手だったの、でも、これからは、きっと大丈夫」ヒトミとチグサはハイタッチする。

 

クルミ

 

「ヒトミのおかげで、思い出がたくさんできたよ」

「私、クルミ先輩にいつも元気をもらいました、先輩なのに、友達みたいで」

クルミはヒトミ抱きつくと「やだ、泣かせないで、メガネ曇って見えなくなっちゃうじゃん…、ありがとうね、うちの部に来てくれて、後輩になってくれて、楽しかった、じゃ~ねェ」

 

<アサギ>

 

「せっかく仲良しになれて、嬉しかったのに」

「ごめんね、アサギちゃん」

「違うんです、泣いたらいけない、心配かけちゃうって、クルミ先輩と言ってたのに、やっぱりダメ、一緒に卒業したかったです、写真に出会ったり、一緒にパフェ食べに行ったり、放課後おしゃべりしたり、もっともっと」

「うん、友達になってくれて、ありがとう」

「手紙書きます、何回でもずっと、未来の友達に」

 

<コハク>

 

「ヒトミ、遠くまできてくれて、ありがとう、大好きよ、60年後、二人で思い出話ができるの、楽しみにしてるね」

「あたしも、時間魔法、よろしくお願いします」

 

ユイト

 

「俺は、ヒトミに会って…、未来でも、幸せでいてほしい、忘れない、ヒトミのこと」

「私も、忘れません」

 

コハク「もういいの? 本当に、全部言っておいた方がいいよ、会えるのは、今日がもう最後…」

「いいんだ!」

 

<ヒトミ>

 

「待ってください、私からも、言わせてください、今までありがとうございました、初めは、一人で心細くて、こっちのことも、学校のことも分らなくて、でも、みんながいてくれて、忘れられない、たくさんの気持ちをもらいました、私はそれまで自分から閉じてしまってたんです、でも、勝手な思い込みで、自分を追いつめるのはもうやめようって、きっと、気持ち一つで世界が…」

 

星砂時計が大きなエネルギーを放ち始め、あたりは稲妻のような光の柱に包まれる。予想外の事態に、コハクは星砂時計を制御しようとするが、今のコハクの力を越えた何かが影響を与えている。

 

「まさか、わたしのせい」

ヒトミを包む光の中へユイトがヒトミの名前を叫びながら入り込む。

 

 

二、気づきの時

 

まばゆい程の光の中で、気がつくとユイトは見たことも無い異次元にいる。ヒトミを探して走るユイトの心に、ヒトミの言葉が突き刺さる。

 

“勝手な思い込みで、自分を追いつめるのはもうやめようって”

 

“渡れるよ、ほら”

 

「あの時、俺が小さなヒトミに伝えたかったこと、自分を閉じ込めないでほしかった、あきらめないでほしかった、同じじゃないのか、俺も、自分の気持ちを、無理やり閉じ込めて」

 

<渡れるよ、渡れるよ>金色のサカナが現れ、向かう先にヒトミの姿が見える。

 

ユイトはヒトミの名前を呼びながら彼女に駆け寄る。

“苦しくても、叶わなくても、大切な気持ちは、決して消えない”

 

ヒトミは“あのお絵かき”をしていた薄暗い部屋の中にいるが、ヒトミからはユイトの様子が見えない。しかし金色のサカナが結界を越えてヒトミの部屋に入ると、ユイトもヒトミの部屋に入る。

 

ヒトミが金色のサカナに導かれるように振り返ると、重いドアの前にユイトの姿を見つける。ユイトはヒトミに駆け寄る。

 

「ヒトミ」

 

ユイト君、良かった、私まだ伝えたいことがあったの、最後まで私、助けてもらってばかりだった、絵を見せてもらって、色を見せてもらって、魔法をほめてもらったとき、嬉しかった、キライだった自分を見せても、変わらずにいてくれた、私を全部受け止めてくれた、一緒にいるだけで、幸せだった、ありがとう、ユイト君が、私のこれからに、魔法をかけてくれた」

 

「俺もだよ、俺も、ヒトミから、たくさんの大切なものをもらったから、本当は、絵を描く道は、あきらめようと思ってたんだ、けど、ヒトミに会って気持ちが変わった、人に喜んでもらいこととか、絵を描く楽しさとか、そういうことを思い出したんだ、自分を閉じ込めてたのは、俺だって同じ、ヒトミが、俺の絵に光を差してくれたんだ、暗い色も、明るい色も、全部がヒトミを創ってる、何も消さなくていい、未来でも笑ってて」

 

ヒトミの目に色が差し始める。ユイトはヒトミを抱きしめながら「好きだよ、ヒトミ」と語りかける。「私も、大好き、ユイト君の髪の色、肌の色、瞳の色、心の色、私、忘れない」「俺も、忘れない」

 

ヒトミの部屋は音を立てて崩れ、鈍色の世界は粉々に散ってゆく…。

 

「俺たちはきっと、お互いの未来に色を取り戻すために出会えた」

 

「コハク、私、色が、見える」

“気持ち一つで世界は変わっていく”

 

星砂時計が落ち着きを取り戻し、儀式が続けられる。

「ありがとう、ユイト君」

「さよなら、ヒトミ」

「さよなら」

 

「ヒトミ、未来で待ってる、必ず生まれてきてね」

 

 

コハクのモノローグ:そうしてヒトミは、未来に帰って行った、ヒトミを未来へ返したのは、あたしの時間魔法じゃない、そのことはあたしだけが知っている、ヒトミの無意識の魔法が解けることが、旅のリミットだったんだ、未来のあたしがかけた大きな魔法、今はまだ届かない、けど、いつか、きっと

 

コハクのスマホにメッセージが入る。

「瞳美、無事に帰りました。お疲れさま。琥珀より」

2078 09 19 20:07

 

 

三、再会

 

バスに乗って<いま>(キミノイクベクトコロ)へ帰るヒトミ。運転手は「キミノイクベキトコロ、往復分もらってます」と言って、ヒトミを降ろす。

 

ヒトミは花火の見える高台に立ち、色のある花火を見つめている。

「色、あまたの色」

 

「お帰り、ヒトミ、どう、楽しかったでしょ」

「楽しかった、でも、悲しかった、不安で怖くなって、イヤになった、夢中になってドキドキしたり、嬉しくなって、切なくなって、怒ったり、泣いたり、胸が締め付けられるほど苦しかったり、帰りたくなくなるくらい、恋しかったり、でも、幸せだった」

 

「見てきたのね、瞳をそらさずに」

「うん、ねえ、私、幸せになっていいんだよね」

「もちろんよ」

 

ヒトミはおばあちゃんコハクをぎゅっと抱きしめる。

 

「全部あなたが自分で手に入れたのよ、あたしはほんの少し手伝っただけ、あたしの願いは魔法で人を幸せにすること、でも、一番近しい人たちを、幸せにすることができなかった、許してちょうだい」

 

「ううん、あたしの方こそ、コハクがどれだけ私のことを思ってくれてたか、気づかなくて、ごめんなさい、私、もう大丈夫よ、…私、お母さんを探して会いに行きたい、コハクと一緒に」

コハクは言葉を詰まらせる。

 

 

四、そして、今

 

まほう屋に帰り「今日は泊まって行けるんでしょ?」とコハクが尋ねると、「うん、お父さんもいいって」とヒトミは答える。コハクが何やら庭を掘り起こしてスーツケースを取り出すと「でも、それは何? あっ、おばあちゃん」と今度はヒトミが問いかける。コハクは「おばあちゃんはヤメテ、コハクって呼んで」と笑顔で答える。

 

「これはね、タイムカプセル、あなたに渡そうと思って、魔法写真美術部のみんなからよ、時間を越えるのに手荷物は無理だったじゃない、だから未来のヒトミに向けて、アルバムを作ろうって、懐かしいわ」

 

「60年前こと、全部分ってて送り出してくれたの?」

「そりゃ~そうよ、私にとってもあの日々は宝物、これでやっと、やっとあなたと話ができるわね」

 

そしてもう一つ、コハクは絵本を差し出す。

「覚えてる? あなたが小さいころ読んでいた、絵本」

「思い出した、この絵本にだけ色が着いて見えてたの、お母さんと何度も読んでたからだって思ってたけど、それだけじゃなかったんだ」

 

 

なないろのペンギン  <さく・え あおいゆいと>

 

ペンギンさんはしろとくろ

ペンギンさんのへやもしろとくろ

きょうもペンギンさんは、おきにいりのおへやのなかで

ひとりのんびりおちゃをのんでいました

 

すると、どこからか

こっちにおいでよっ、とこえがします

ペンギンさんがおそるおそるとびらにちかづくと

うさぎさんがぴょこんとかおをのぞかせました

おいしいのいちごもあるの、こっちよ

 

おどろかしてごめんね

むささびさんは、ひこうメガネをかっこよくあたまのうえにずらし

リュックサックのなかからクルミをとりだしました

これおいしいんだよ、いっしょにたべよう

 

きょうは、はじめてのことばかり、

とペンギンさんはこっそりおもいました

 

かぜはいろんなにおいをつれてくる、とくまさんがいいました

くさのにおい、はなのにおい、おひさまのにおい、うみのにおい

 

すいへいせんがひかってる、

いぬさんは、うみにむかってカメラをかまえました

うさぎさんは、いぬさんのとなりにたって

うみのにおいをかいでいます

 

あかるくてもくらくても、どっちでもいいけど

あるきまわるにはちょっとあつすぎ

こんなひはひかげでおひるねがいちばん、とねこさんがいうと

さんせい、とむささびさんがてをあげました

 

インコさんは、きょとんとめをひらきました

わたしはとべるけどおよげない

あなたはおよげるけどとべない

でもたまごでうまれてはねがあるから

とりなかまだよ

 

ペンギンさんはこわくてこわくてなきそうでした

イナズマはひかり、カミナリはとどろき、かぜはふきすさび

あめはどんどんふって、みんなをぬらしました

 

どれくらいそうしていたでしょうか

きがつくと、あまぐもがきれて、ひとすじひがさしました

みんなが、もりのほうをふりりかえると

そこには、おおきなにじがかかっていました

 

せかいには、こんなにいろんないろがあったんだな

それから、ふと、かんがえました

わたしのいろは、なにいろかしら

 

 

ヒトミは墓地を尋ね、涙を浮かべる。しかし、2078年の高校生活では、写真美術部のメンバーと共に生きることを選び、まほう屋のお店にも立つ。ヒトミは金色のサカナと共に、今という時間を生き、未来への希望を持ち続けながら、これからの人生を重ねていくことになるのだろう。

 

おわり

 

 

第十三話 まとめ

 

第十三話でヒトミは“ここに来た意味”を知り未来へ帰っていく。そして元の時代に戻りこの旅のすべての意味を知ることになる。

 

コハクによる時間魔法の儀式の中で、ヒトミは部員全員からのメッセージを受けた後、みんなへの感謝の気持ちを伝えるセリフがある。

 

「私はそれまで自分から閉じてしまってたんです、でも、勝手な思い込みで、自分を追いつめるのはもうやめようって、きっと、気持ち一つで世界が…」

 

ヒトミの言葉はとても分かりやすい。今までの自分は“勝手に思い込んでいた”のであって、もうそれは止めて、魔法(自分の出自や力・能力などのすべて)を受け入れ、“色のある幸せな世界”で生きることを選択するということだろう。しかし、そのためには“ヤマアラシのジレンマ”といった、様々な困難が待っている。

 

自分を守るために、かつて幼児決断したことには意味があったが、やがてその生き方に破たんが生じ、新たな自分を再構築する時期がやってくる。自分の中にある違和感が次第に大きくなり、どうにかしたいという気持ちに後押しされ、丁度、花が咲き、実をつけるように次のステージへと進んで行く。

 

だがそのためには、今の自分の違和感に気づくことが、何よりも大切なことだろう。そして自分からどうにかしようという気持ちが起こって初めて、先に進むことができるようになる。

 

他者からの関わりはキッカケにはなるが、自分から行動する以外に新たな道を探すことはできない。ヒトミは、一番苦しかった最初にステージを一歩進むことができたといえるのではないだろうか。

 

同じことが、ユイトにもいえる。父を失ったこと(恐らく死別)で心の支えを失い、絵に対する自信や楽しさを見失っていたのだろう。無意識的に絵に関わると不幸になると、ユイトも幼児決断していたのかもしれない。

 

コハクが「一番近しい人たちを幸せにできなかった」とヒトミに謝罪する場面がある。コハクにとっては娘との断絶と、それに伴う孫(ヒトミ)の精神的落ち込みに対して、はかり知れないほどの罪悪感に悩まされていたのではないか。考えてみれば確かにそれは、コハクの人生の中での一番の問題であり、月白家に対する根源的問題を抱えていたのはむしろコハクということになる。

 

80歳近いコハクおばあちゃんにとって、残りの時間は少ない。しかし、自分が体験した60年前の出来事の意味を理解しているコハクにとって「ヒトミなら出来る」という確信によって、ヒトミを過去へ送り出し、月白家の未来(魔法によって人々を幸せにすること)を託すことができたといえる。

 

この物語はユイトとのほのかな恋愛物語であると同時に、自分の在り方を見つめ直し、月白家の家族として人生をどう生きていくのかという、ヒトミにとってはアイデンティティーの獲得の物語であり、またコハクにとっては家族関係(家系)の修復の物語であるといえるだろう。

 

最後にヒトミの母の問題がさりげなく提示されている。

「私、お母さんを探して会いに行きたい、コハクと一緒に」

 

この物語に残された最大の難問ではあるが、ヒトミの“瞳”が未来に開かれたことによって“きっと瞳美ならできる”と多くの視聴者は考えるだろう。最初の困難を乗り越えれば、きっとその後も乗り越えられると、多くの人々は経験的に知っているからだ。

 

ヒトミの変わっていく姿を通して、かつての自分、これからの自分、様々な自分のイメージを重ねられたことだろう。たとえ“運命”や“宿命”といわれるような、抵抗することが難しい局面に出会ったとしても“自分を追いつめるのはもうやめて、気持ち一つで世界が変わっていく”ことを信じていけたら、きっとどんな難局でも乗り越えられる。“自分に魔法をかけてみる”ことで、未来が変わっていくことを信じたい。

※)以下の動画は20:50あたりから音声が 流れません。残念。

 

 


Irozuku Sekai no Ashita Kara Capitulo 13 Sub Español Nuevo Anime

 

 

 

さて、十三回に渡ってこの物語を見てきた。一連の投稿(レジュメ)で何かを結論的に言うつもりは無くて、心理学に興味を持っている一人の社会人としての“物の見方”を紹介したくて、このような形のブログにしてみた。

 

2020年6月時点で、新型コロナウィルスによる感染拡大防止の対策は、一時、落ち着きを取り戻しつつあるように見えるが、しかし油断することはできない。我々一人ひとりの責任ある行動によって、より安心できる未来を勝ち取りたいものである。

 

次回、編集後記を「色づく世界の明日から」最後の投稿とする。