66,心理学で読み解くアニメの世界
心理学で読み解くアニメの世界
「灰羽連盟」
第六話 夏の終わり 雨 喪失
朝からラッカは、オールドホームの各部屋を見て歩いている。自分の部屋を探しているのだが、なかなかいい部屋が見つからない。その後中庭で建物の図面を眺めていると、ラッカは思わず寒気を感じる。ふと上を見つめると、そこにはクウがいる。
「クウ~!」
「おはよう、そんなとこで何やってんの?」
「クウこそどうしたの、こんなに早く」
一、クウからのプレゼント
ゲストルームで、ラッカはクウのジャケットを譲ってもらう。
「良かった、ラッカに丁度の大きさで」
「いいの? もらっちゃって」
「クウには大きすぎるし、もうすぐ冬が来るから…」
クウの話だと、この街の冬は突然訪れるのだという。だから最初の年を迎える者は、みんな風邪を引くらしい。
「これ、何?」
「それね、…そろそろ自分の部屋を探そうかなって、ここはみんなの部屋だから、居心地が良すぎて、ここにいると楽する癖がついちゃいそうで…」
「えらい、ラッカももう一人前だね」
「いい先輩のおかげ」二人は笑いながら、会話を続ける。
鏡の前で、クウのジャケットを合わせているラッカに「いい部屋見つかった?」と尋ねながら、クウはテーブルの上のラッカの地図に何かを書きこむ。
「あたし、もう行くね」
「えっ、もうすぐ朝ごはんだよ」
「うん、でも今日はいろいろとやることがあるんだ」
ラッカには、ドアを閉めて出ていくクウの様子がいつもと違うように感じられる。
二、時計塔の鐘
ヒカリ、レキ、ラッカは、クウの話をしながらいつものように食事の用意をしている。すると突然、オールドホームの時計塔の鐘の音が響き渡る。みんなが時計塔を見つめていると、カナが時計塔の窓からみんなに向かって「おーい、みんな、見てくれ!」と叫ぶ。
カナがみんなのところに戻ってきてからも、鐘の音は響き渡っている。ラッカが「あっ、あのさ、これ、いつまで鳴るのかな、なんて…」と言うと、カナは
「あ~、ブレーカーを落とせば止まるけど、そうすると時計も止まっちまうからな」と答える。
「そっ、それ意味ない」ヒカリがいうと、続けてレキが「アホか、とっとと止めに行け」と叫ぶ。カナは不満たらたらで時計塔へ向かう。
「あ~、あたし、手伝ってくる」そう言うとラッカはカナの後を追う。
三、クウの思い出
特に手伝うことも無いのだが、ラッカはカナを追って時計塔の機械室にやってくる。
「せっかく来てもらったけど、手伝ってもらうことはないな、服汚しちゃ悪いし…、それ、クウのだろ、ラッカにあげたってことは、クウもとうとうあきらめたか」
「何の話?」
カナはクウの話を始める。
「それ、クウがここに来て、最初に買った服なんだ、子ども扱いがイヤで、無理してみんなと同じタケの服を買ってさ、結局着れないまんま」
「いいのかな、もらっちゃって」
「クウはもう背伸びしなくても良くなったんだよ、きっと」
「えっ」
「昔のクウは、とにかくみんなの真似したがってさ、レキのスクーターいじって、電柱にぶつけたり、ヒカリのメガネかけて、目をまわして階段から落ちたり、昔は手のかかるチビだったけど、チビはチビなりに、大人になったのかもな」
「あたしも、頑張んなきゃ」
四、ラッカの部屋
引き続きラッカは部屋を探しまわるが、図面にクウが書いた「くうのおすすめ」という書き込みに気がつくと、ラッカは位置を確認して、その部屋に向かう。
部屋にやってきたラッカは、そっとドアを開け中に入る。
「なんだろう、なんか懐かしいような…」
「それはね、ここがラッカの生まれた場所だから」
「少しだけ覚えてる、ほんのすこしだけ」
「クウも少しだけ覚えてた、だから、そこを自分の部屋にしたんだ、ラッカはどう? 気に入った?」
「うん、…そうだ、どこ行ってたの? クウのためにホットケーキ作ったのにって、レキが怒ってたよ」
「へへ、レキに頼んでお弁当作ってもらった、ラッカの分も…、ハイ」
「あっ、ありがとう、そうか、あたしも朝ごはん食べそこねてた」
「レキが怒ってたよ」
「ははは」二人は笑う。
ドアの外を眺めながらクウが語り始める。
「心の中に、コップがあるの、きれいで透き通ったコップ、そこに小さな雫が落ちてくるの、ぽつっ、ぽつっ、ぽつって、毎日ちょっとずつ、それでね、今日、あたしのコップがいっぱいになったような、そんな気がしたんだ」
ラッカはクウに近寄り、触れようとするが、躊躇する。
「ラッカも、あたしに雫をくれたんだよ、だから、ありがとう」振り返ってそう言うと、クウはラッカの手を取る。
すると次の瞬間、クウは部屋の外へ走って出ていく。
五、嵐
黒い雲がたれこめ、風が強くなる。レキはベランダから戻ると一雨きそうだとラッカに告げる。
「そういやぁ、ラッカ、引越すんだって、クウが言ってたよ」
「クウ、他に何か言ってた?」
特に心当たりがないレキは「あっそうだ、キッチン片づけてくれたの、ラッカ?」と問いかけると、ラッカは「ううん」と否定し、恐らく「クウ」だと答える。
なぜか落ち着かないラッカは、お茶を入れようとキッチンに向かうレキを大声で呼び止めてしまうが「なに?」と問われて「何でもない」と答えてしまう。
“こういう天気の時は誰でも憂鬱になるよ、一人部屋が不安だったら、まだここにいてもいいんだよ”といったレキの気遣いの言葉に対して、ラッカは「それは平気」と答える。
「ねぇ、どうしてこの街には壁があるの?」
その質問に対してレキはこう返す。
「ここは守られてる場所なんだよ、良くないことのすべてから、あるいは、あたしたちが知るべきではないすべてから」
「それは…」
ラッカがさらに問いかけようとすると、激しい雷鳴と共に閃光が走る。
六、停電
オールドホームの電気が落ちると、レキはライトを探しに席を立つ。その間、ラッカが窓の外に目をやると、ベランダの手すりに一羽のカラスが舞い降りる。しかしカラスは一鳴きするとすぐに飛び立ってしまう。一瞬カラスと向かい合っていたラッカは何かを感じ、カラスの飛び立った方向を確認しようと部屋を出て、廊下の窓辺から外を見渡す。
カラスが西の森へ飛んでいくのを確認したラッカだったが、同時に森の中から強い光が空に向かって放たれていく様子も目撃する。同時にたくさんのカラスの鳴き声が聞こえてくる。
後を追いかけてきたレキが「ラッカ」と声をかける。
「西の森に、鳥が…」
「ああ、カラスもびっくりしたんだろ」
「何かを知らせようとしたみたい」
「…早く部屋で体を拭きな、風邪ひくよ、あたしはチビどもを見て来るから、部屋にいて」
レキが部屋に戻るとヒカリ、ネム、ラッカがいる。カナは地下の発電室にいるらしい。いつもなら真っ先にこの部屋にいるはずのクウの姿が見えないことに、みんなが訝しく思っている。不安な気持ちを感じたラッカは「あたし、見てくる」といって部屋を出る。残された三人はラッカの様子を心配する。
「あたしは、ラッカを見てくる、カナが戻ったら、部屋にいるように言って、みんながバラバラに動くと収拾がつかない」そう言うとレキはラッカの後を追う。
オールドホームの入り口でラッカがクウを待っていると、そこへ遅れてレキがやってくる。どこかで雨宿りしているから大丈夫だとレキは言うが、ラッカは街へ行ったんじゃないと主張する。
「クウはレキにお弁当作ってって言ったんでしょ、水筒も持ってた、あれはクウなりの旅支度だったんだ」
「旅…、旅ってどこへ」
「たぶん、西の森」
「まさか…」
七、空に向かう光
「西の森に、クウが!」カナが合流する。
「立ち聞きしたわけじゃないぜ、発電機のヒューズが飛んでたから、時計塔のやつを使おうと思って…、それより」
「ああ、かもしれないって話…、クウの帰りが遅いから」
「でも、もし本当だとしたら、それって…」
「カナ! まだ決まったわけじゃない」
「…なんの話?」ラッカが不安げに尋ねる。
カナはラッカに、なんで西の森だと思ったのかを訪ねると、ラッカは西の森で光が空に向かって延びていくのが見えたと答える。するとレキが慌てたように本当なのかとラッカに確認する。ラッカは「たぶん…、でもすぐに雲に隠れちゃったから」と答える。
「うそだ、あたしは絶対信じない、信じないからな!」そういうとカナはその場から走り去る。
レキの話によると、灰羽は巣立ちの日が来ると壁を越えるらしい。
カナが慌てレインコートを持ち出す様子を見て、ヒカリとネムは何かあったのかと尋ねる。するとカナは「クウは西の森にいる、巣立ちの日が来たんだ!」と答え、再びオールドホームの入口へと向かう。
外へ出ようとするカナに対して、レキは道をふさぐ。暗くなってから西の森に行くことが危険であることは、レキはよく知っている。
「カナ、行ったって何もしてやれない」
「分ってるよ、でも、会うだけでいい、顔を見るだけでも…、レキはクウにサヨナラ言えないで平気なのかよ!」
「レキ、本当なの、クウは?」ネムが尋ねる。ヒカリも「間に合うなら、わたしもクウに会いたい」と続く。
「あたしだってそうだよ、でも、目印も無くあの森に入ったって、絶対抜けられやしない」
「目印があればいいの?」
「ラッカ…」
ラッカはカナに、時計塔の鐘を打ち続けることを提案すると、カナは急ぎ地下発電室へと向かう。その電力を使い、時計塔の鐘を鳴らすことでオールドホームの方向を示すことができるというわけだ。
「レキ、お願い、このまま何もしなかったら、わたしきっと後悔するから」
「で、レインコートはあと三人分、四人分?」ネムが尋ねると、レキは「分ったよ、みんなで行こう」と答える。
「でも約束して、壁には絶対触らないって」
八、西の森
「西の森の奥に、古い遺跡の跡地があって、巣立ちの日がきた灰羽は、そこに導かれて、壁を越えるっていわれている、巣立ちの日は、誰に、いつ訪れるか分らない、ただ、ある日、ふっといなくなってしまう、なぜそんなことが起きるのか、理由は誰も知らない、巣だっていく灰羽は、決してそのことを話さない、それに昔、繭が生まれない年が続いたせいで、巣立ちの日自体がもう何年もなかった、そう、何年もなかった、だから、いつか誰かがこんな形で分れるかもしれないってこと、忘れかけていたのかもしれない」
遺跡を目の前にして、ラッカが祭壇のようなところにかけ寄る。するとラッカは光を失った光輪を見つける。
ネム、ヒカリ、カナ、ラッカが祈りを捧げていると、少し離れたところで、レキが空を見上げながらそっと呟く。
「みんな、あたしを置いて行っちゃうんだな」
第六話 まとめ クウの旅立ち
今回は、ラッカが今後のために自室を探すところから物語は始まる。ラッカがオールドホーム内の各部屋を見回るが、どの部屋も傷んでいて決めかねていると、クウがラッカの建物図面の一室に「くうのおすすめ」という印をつける。そこはラッカが生まれた部屋である。
それから、クウは持っていたジャケットをラッカに譲ると「やることがある」と言ってラッカと別れる。ラッカはその時のクウの様子に、何とも言えない違和感を覚える。だが、それがどのようなことを暗示しているのかは、ラッカにはその時はまだよく分からなかった。
その後カナの修理によって、オールドホームの時計塔の鐘が鳴り響くことになるのだが、一旦鳴らし始めると自力では止まらない。「止めに行け!」とレキに叱られるが、実はこの鐘はこの後重要な役割を果たす。方向を示す道標となるのだ。
後になって考えると、物事には何とも言えない関連性が見出されることがある。例えば、オールドホームの鐘が鳴り響くというイベントがそれに当たるかもしれない。端から見れば、それは偶然以外の何物でもないし、計算によって起こったわけでもない。しかし、このタイミングで起こったことには極めて重要な意味がある。
カナはこの世界に生まれて、たまたまオールドホームの時計塔にあるノートを見つける。そこに書いてある修理に関する記録を見てからは、時計塔の修理に情熱を燃やし、ラッカが時計屋の職場体験をした際には、店主からオールドホームの時計塔の修理を任されることにった。
時計に興味を持つこと、時計屋で仕事をすること、その時計屋からオールドホームの時計の修理許可を得たこと、またクウが巣立ちの日を迎えた日に時計塔の鐘を鳴らすことが出来るようになったことなど、とんでもない偶然の積み重ねによってオールドホームの灰羽達はその日を迎えたことになる。
物語の中では、この鐘の音を道標とすることで、西の森にある遺跡の場所へ暗い夜道であっても訪れることが出来た。オールドホームの灰羽達にとって、この日に西の森へ行くことが出来たことは、なによりの癒しとなったのだが、そのために必要なことが、実は偶然の積み重ねによってなされたのである。
コンステレーション(布置)という概念については、このブログの中で何度となく触れてきたのでご理解いただけると思うが、例え偶然の積み重ねであっても、その現象はお互いに何かしらの関連があると考えることで、偶然の中に必然を見出すような考え方である。
そこに意味を見出し、自分を見つめ直し、関係性の中で自省することが出来るかは、人それぞれである。こうすることが正しいことであるとは言うつもりはないが、様々な事象に対して不平不満を並べるよりは、物事の関連性に意識を向けた方が幾分生きやすいのではないかと感じたりもする。
被害者意識から離れて、そこにある材料から自分にできることに意識を集中する。そうすることで、少しは気分が楽になるのではないだろうか。
二、クウの成長
クウの成長について、オールドホームの時計台に遅れてやってきたラッカに語るカナのセリフは、とても重要な示唆を与えてくれる。
1,「それ、クウのだろ、ラッカにあげたってことは、クウもとうとうあきらめたか」
2,「それ、クウがここに来て、最初に買った服なんだ、子ども扱いがイヤで、無理してみんなと同じタケの服を買ってさ、結局着れないまんま」
3,「クウはもう背伸びしなくても良くなったんだよ、きっと」
4,「昔のクウは、とにかくみんなの真似したがってさ、レキのスクーターいじって、電柱にぶつけたり、ヒカリのメガネかけて、目をまわして階段から落ちたり、昔は手のかかるチビだったけど、チビはチビなりに、大人になったのかもな」
昔とは違うクウの変化を、カナはカナなりに認めていることが窺われる。そしてそれを裏付けるように、ラッカはクウから霊感のある言葉を受け取っている。
A,「心の中に、コップがあるの、きれいで透き通ったコップ、そこに小さな雫が落ちてくるの、ぽつっ、ぽつっ、ぽつって、毎日ちょっとずつ、それでね、今日、あたしのコップがいっぱいになったような、そんな気がしたんだ」
B,「ラッカも、あたしに雫をくれたんだよ、だから、ありがとう」
クウにとって、何かが自分を満たしているという感覚なのだろうか。クウが何を感じたのかは詳しく語られることはないが、クウにとって機が熟した瞬間、あるいはこの世界での課題をこなし、次のステップへと進むべき時を迎えた瞬間であると理解できるのではないだろうか。
それは例えば、ラッカという年上の後輩を迎えたことで、クウにその時が訪れたのかもしれない。カナの言葉を借りれば、背伸びをしないでありのままの自分を受け入れることができたということなのだろう。それがクウの課題の一つだったのかもしれない。
三、残された者たち
第六話で一番強調されているのは、クウが巣立っていった事実をオールドホームの灰羽達が確認する場面だろう。いつの世も、残された者たちの悲しみは強烈である。一定期間寝食を共に過ごしてきただけに、その喪失感は家族を失ったものと違いがないだろう。実際、オールドホームの灰羽達はほぼ家族の形を有していたように感じられる。
ラッカの誕生で、オールドホームの灰羽達は活力を得ることになったのだが、クウの旅立ちで、疑似家族の中に一時的な不協和音が生まれる。中でも、一番クウに近い感性を持っているラッカの喪失感は大きなものがある。
次回以降クウを失ったオールドホームの灰羽達が、どのようにしてその問題に取り組んでいくのか、物語はその核心部へと進んでいく。特にラッカがこの精神的危機をどう乗り越えていくのかが、この物語の大きなテーマとなっていく。引き続きラッカとその仲間たちの様子を見ていきたい。
では。
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心理学で読み解くアニメの世界
「灰羽連盟」
第五話 図書館 廃工場 世界のはじまり
一、司書スミカ
ラッカはネムが務める図書館にいる。今度は図書館での仕事体験である。ネムは先輩の司書スミカと会話を交わし、スミカの産休についての確認をするが、スミカの話によると在籍期間はあと「四日」ということらしい。
ラッカは、本を運ぶ仕事の途中スミカと出会い、本を運ぶ手伝いをしてもらう。
「新生子ってことは生まれたばかりなんでしょ、とても赤ちゃんには見えないけど…、生まれてくるときってどんなだった、怖かった?」
「いいえ、よく覚えてないけど、夢の中で、誰かが守ってくれてたような気がして…」
「ふ~ん」
本を運び終えると、ラッカはスミカに礼を伝える。
「ありがとうございました」
「こっちこそいい話を聞いちゃった」
「えぇっ?」
「親の気構えってやつね」
二、書籍の整理
ラッカとネムは、トーガの交易品であるという何冊もの本の整理を行う。どれも古い物ばかりで、ネムは修繕する本をまとめると、一旦その場を離れる。残されたラッカはラベル貼りの仕事をする。
しかし、しばらくすると、ラッカは古い絵本に心奪われる。と、そとへネムを訪ねてスミカがやってくる。
「熱心になに読んでたの」
「何ってわけじゃないんですけど、この街の外に何があるのか、どこかに書いてないかなって」
「あ~、分る分る、わたし昔そういう本を探してまわったっけ」
「へぇ、見つかりましたか?」
「ううん、ダメだった」
「…そうかもしれませんね」
するとスミカは、昔この街を出ようとしたことがあったと話し始める。“世界のはじまり”を見つけようとしたことがあったとラッカに告げるが「でも、ダメだった…、何しろ夢よりも現実の方が幸せなんだもん」と笑ってみせた。
そんな話を聞いているうちに時刻を告げる鐘が鳴る。
「あぁ、いっけない!」
三、お話しお姉さん
ラッカとネムがカウンターで受付業務をしていると、スミカがやってきて「カウンター変わるわよ、お話しお姉さんの出番だって」と二人に告げる。
別室で、ネムは“とうのうえのまじょ”という童話を、灰羽の年少組の子供達に読み聞かせる。みんな静かに聞いているが、お話が終わると自然と拍手が起こる。年長組も拍手をするが、ネムは「ヤメテよ、照れるじゃない」と応じる。
レキ:「ほら、お話しお姉さんにありがとうは?」
子供達:「ありがとう」
図書館から帰る途中、レキは買い物があると言って、ヒカリに年少組の引率を依頼する。
ヒカリ:「うん、いいよ、クウもいるし」
クウ:「はぁ?」
ヒカリ:「クウ、先生の代わりだって」
クウ:「先生…、やる!」
レキ:「助かる、じゃ!」
夕方の鐘が鳴り、ラッカとネムは閉館の準備をする。
「ごめん、明日の打ち合わせが、ちょっと長引いて」
「ううん、それよりごめんね、あんまり役に立たなくて」
「充分よ…、それより、あと四日か…」
「えっ」
「スミカのこと、お祝い考えてたんだけど、間に合うかな…」
「なあに、編み物?」
「ナイショ」
ラッカとネムは図書館に鍵をかけ、家路につく。
「教えてくれたら、手伝うのに」
「なんか照れくさくって、ううんと、ヒントはね、“世界のはじまり”」
「ええっ?」
「昔、図書館にそういう本があった、もう捨てられちゃったけど…、古くて、最初の何ページかしか判別できないようなぼろぼろの本、スミカと二人で続きをあれこれ考えてね」
「それから?」
「ヒントはそれだけ」
「えぇ~」
四、レキとヒョウコ
二人がオールドホームへ向かう途中、道の先にレキの姿を見つける。ラッカは遠くから呼びかけるが、レキは気づかずにホームとは反対側の道へと歩みを進める。何かに気づいたネムは、ラッカと二人でレキの後を追う。
レキは橋のたもとで、作業員風のおじさんからスクーターを受け取る。
「あぁ、スクーターのガソリンか」
レキが荷物をスクーターに降ろし、たばこを吸っていると、橋の向こう側から三台のバイクが近づいてくる。
「ほら見ろ、やっぱりレキだ」
「なんであんたがここにいんのよ」
後からスケートボードに乗ってやってきた少年が、レキに近づき彼女のタバコを奪い取る。少年はヒョウコと呼ばれている。
「何すんだよ」
「こんなもん吸うなバカ、バイクもやめろ」
「バカはてめえだ、こいつぁ街の許可取って、天下御免で乗ってんだ」
そう言うと、レキはバイクに乗ってその場を立ち去る。一部始終を見ていたラッカとネムは、巻き込まれないうちにとその場を後にする。
五、廃工場
その場を離れて家路に向かう途中、ネムは先ほどの出来事についての背景をラッカに説明をする。
東の廃工場も灰羽の巣であり、男女共学であること。さっきの少年ヒョウコとレキについて、過去にいろいろあったこと。昔はレキが荒れてて、ネムとケンカしたことがあり、それがもとで家出したことなど、後で分ったことだがレキとヒョウコはその時駆け落ちしたことなどをラッカに伝える。
「あぁ、すごい、駆け落ちカッコイイ」そう言うラッカに「マネしちゃだめよ」とネムはくぎを刺す。
「そのせいであの二人、お互いの住んでる地区に入れなくなっちゃったんだから」
六、夜のベランダ(ラッカのモノローグ)
パジャマを着たラッカは、夜のベランダで一人、月を眺める。
『わたしの記憶の中には、もう一人のわたしがいる、ネムたちは違うといったけど、どこかに両親が住んでいた町があるんじゃないかと、今も心のどこかで思っている、羽が体になじんだら、この違和感も消えるのだろうか、ここではみんな、小さなクウでさえ仕事を持ち、自分の力で生きている、でも本当は、見えないところで支え合っているのだ、当たり前のことだけど、ここにきて、初めてそれを知った気がする』
「いいのかな、わたし、こんなに幸せで」
七、図書館
朝、ラッカとネムは図書館で顔を合わせる。
「おはよう、手伝っていい?」
「そりゃぁいいけど、次、夕方だよ」
「じゃぁ、それまで、調べものしてるよ」
「調べものって?」
「世界のはじまり」
ラッカは空いている時間を調べものに費やす。その様子をスミカが気にして、ネムに伝えると「ないしょ、そっとしいて」と答える。
~~~~~~~~~~
仕事の合間に、ネムはふっとうたた寝をして、かつてスミカと一緒に“世界のはじまり”の本について、その内容を二人で補完している頃の夢を見る。ネムにとって、幸せな時間である。
ラッカがネムのこところを訪ねると、ネムは微笑みながら眠っている。そんなネムを起こすことができないでいると、時計塔の鐘が鳴る。ネムは目を覚ますと驚いたように「やだ、見てないで起こしてよ!」ラッカに告げる。
ネムは「調べ物はどうだった?」と尋ねると、ラッカは「うん、世界のはじまりって不思議、いろんな場所に、いろんな物語があって、でも、みんな少しずつ似てるんだね」と答える。
「で、答えは?」という問いに「ヒントが答えなんて反則だよ」つまり、ネムのプレゼントがどのようなものなのか、はっきり教えてもらっていないことを告げると、ネムは諦めて「しょうがない、見ても笑わないでよ」と言って自作の小さな書籍をラッカに渡す。
「あぁ、すごい、これどうしたの」と驚くラッカに、本を修繕している人に頼んで作ってもらったと答える。ラッカはすかさず「読んでいい?」と尋ねる。
「笑わない…?」
「もちろん」
途中まで、ラッカは感心しながら読んでいるが「あれ、ここまで?」とネムに尋ねる。するとネムは「うん、最後が決まらなくて…、何かない、アイデア?」とラッカに助け求める。
しばらく考えた後、ラッカは何か思う所がありハッとする。「笑わない?」とネムに念押しすると、ネムも「もちろん」と答える。
ラッカは自分が考える物語の続きをネムに聞かせる。真剣に話を聞いているネムだったが、突然笑い出し「ハハッ、真面目に考えてよ(笑)」と言葉を投げかける。
「真面目だってば、さっき、ネムの寝顔を見てて、ちょうどそんなことを考えてたの」
「失礼ね、ダメよ、これは偉い人のお話なんだから」
「それはネムの本だから、読んだとき、ネムの顔が浮かぶのがいいと思うけどな」
「あたし、そんな行儀悪くないでしょ、ひどいな、もっと品のあるアイデアを募集します、さぁ、残業残業!」
「ふふっ」
ネムは残業があるらしく、ラッカはカナと一緒に自転車に二人乗りして帰って行く。
八、帰り道
クウは、お手伝いをしたお店の店主から角砂糖をもらって帰る時、一瞬考えた後、改めて「さようなら」と丁寧に挨拶をしてからお店を後にする。クウはその足で、裏道の野良猫に角砂糖をあげる。
たまたま通りかかったラッカとカナは、その場所に自転車を止め、ラッカがクウに声をかける。
「クウ」
「あっ、ラッカだ」
「何してたの
「ん? 挨拶」
「挨拶…」
九、翌朝
翌朝、レキはラッカに声をかけると、ネムは残業でまだ寝ているという。何か特別なことがあったと感じたレキは、おにぎりを作りはじめる。
二人並んでおにぎりを握っていると、ラッカは昨日見たレキとヒョウコとの出来事が気になって、思わずレキの横顔を覗き込んでしまう。するとそこに寝坊したネムが現れる。
「あぁ、大変、ラッカ! ご飯いらないから!」
「ドンピシャ」そういうと、レキはランチボックスをネムに渡す。
ラッカとネムは二人乗りで図書館へ向かう。
「スミカさん、喜んでくれるといいね」
「うん、あきれられたら、ラッカのせいだからね」
「えぇ、なんで」
「そりゃ、あなたとの合作だもの、表紙にラッカの名前、書いてるからね」
「えぇ~」
「今さら何よ」
「そうじゃなくて、いいの?」
「連帯責任よ、覚悟しなさい」
「ネム、わたしすごくうれしい」
「スミカもそうだといいけど」
「そうに決まってるよ」
『神がその頭上に輝く光輪を手に取り、高く掲げると、それは太陽になりました、神が杖を一振りすると、無は二つに裂け、一つは空に、一つは大地になりました、ところが、手元が狂って、山と谷が生まれました、神は「失敗したが、それもまた良し」と言われました、神が大地に絵を描くと、次々と草や木が生え、鳥や動物が生まれました、それから神は、自分の姿に似せた生き物を思い描かれました、しかしこれは、神とそっくりすぎて失敗でした、そこで神は、羽を灰色に塗り、光輪に穴をあけ、“灰羽”と名付け、それを頭の隅に仕舞い込みました、神は改めて、羽も光輪も無い、人間を創られました、これは良い出来でした、神はすっかり満足して、そのまま居眠りをしてしまいました、消えてしまうはずだった灰羽は、こうして神の首の中から、抜け出すことができました、神が目を覚ますと、すでに灰羽は空に浮かんでいました、でも神は、失敗には寛大でしたので、そのちっぽけな世界と、灰羽達を残すことにしました、こうして、グリの街は、大地でも、海で見ない場所に、今もぽっかりと浮かんでいるのです』
第五話 まとめ ネムの物語
第四話のカナに続いて、今回はネムにスポットが当てられる。ラッカは、ネムが働く図書館で職場体験をすることになる。そこでネムの親友であり先輩でもあるスミカと出会う。スミカは産休のためあと4日で職場を去るのだが、ネムはスミカへの感謝の気持ちを込めて、贈り物を用意しているという。スミカに対するネムの気持ちや、ネムに協力するラッカとの関係など、ここではネムという人物について少し検討をしてみたい。
一、ネムとスミカ
回想映像でも分るように、小さい頃のネムはスミカに支えられて困難な時期を過ごしたようだ。それだけに、スミカに対して特別な感情を持っている。姉のようでもあり、同世代の友達のようでもある。本来なら、贈り物は自分で用意(あるいは創作)するものかもしれないが、ラッカとの共同作業を最後には渋々(喜び半分)ながらも受け入れている。ネムの寛容さが良く表現されている演出ではないだろうか。
ネムという人物について一言で言えば、おっとりした性格と言えるだろう。穏やかで、波風立てることを好むようなタイプではない。オールドホームのメンバーの中では、まずレキをリーダーとすることに異論は持たれないと思うが、そう考えるとネムはレキを支える一番の理解者といえるだろう。
オールドホームの灰羽達を一つの家族として見た場合、それぞれの役割が良く見える気がするので、ここでその役割を示してみたい。レキを父親、ネムを母親、カナを長男、ヒカリを長女、クウを年少の子供とする見方である。疑似家族として、バランスよく考えられているのではないだろうか。
このような見方をすると、ネムには母親的な役割が求められているような印象を受ける。それがネムの課題なのか、本質なのかは分からないが、一つの疑似家族として、ネムは他のメンバーと有機的に結合しているように見える。ラッカはそんな疑似家族の中に生まれ、そのバランスに微妙な変化をもたらすのである。
では次に、スミカという人物について考えてみたい。スミカはこの街の住人で、ラッカたち灰羽とはその立場がはっきりと違う。スミカはまもなく母親になるのだが、子供は胎内から赤ちゃんとして生まれてくる。物語の中では、そのために産休を取ることになっている。
スミカは、灰羽が繭から生まれてくることに違和感を持っていなし、その違いをことさら強調することもない。そういうものなのだと理解しているようだ。この街の人々は赤ちゃんとして生まれ、老人として死んでいくことが当然なのだと考えているのだろう。
さて、この街の住人はあまり深く掘り下げられてはいないが、そんな中でもスミカだけは、ネムとの数年に渡る繋がりなども含めて、その人となりが語られている。小さいネムの良き相談相手であり、かつては外の世界に思いを巡らせたとこもあったという。
しかし「何しろ夢よりも現実の方が幸せなんだもん」と言ってスミカはこの街で家族を持ち、日々の生活の中に自身の幸せを見出している。当たり前の生活の中にこそ幸せは潜んでいる、と言わんばかりである。そして、灰羽を当たり前の隣人として迎え入れているのである。そこには、カナが世話になっている時計屋の主人と通じるものがある。
街の人々にとって灰羽は、日常ほぼ意識することのない影の薄い存在であるが、その世界の中で確実に生活し、一定のかかわり方が必要な特別な存在として描かれている。スミカは、そんな街の人々の考えを代表する一人であり、灰羽はそういう人々に支えられているのである。
二、グリの街
カナが「街は、壁で覆われてるんだ、あたしら灰羽も、街の人たちも、街から出たり入ったりすることは、禁じられてる、唯一の例外が、トーガ、外から時々ああやって、交易に来るって訳…」というセリフはとても重要で、この街の住人は、誰も外の世界から戻ることはできないことになっている。つまり街の人々にとって、街と呼べる場所は世界に“一つ”なのである。
古い本「世界のはじまり」からインスピレーションを得て、ラッカとネムが共に作ったスミカへの贈り物の本も“世界のはじまり”である。ラッカはこの本の中で、神から生まれた灰羽の暮らす街を「グリの街」と呼んでいる。この名前は古書の中にあったようなのだが、ラッカたちが暮らすこの街を人々が「グリの街」と呼んでいたかは分からない。
「灰羽連盟」で検索すると「灰羽連盟ホームページ」がトップに表示される(2022年5月時点)。その中に「ハイバネ大辞典」というページがあり、そこで“グリという地名”についての記述があるのだが、正直なところあまり参考にならない。古書にあった「グリの街」という名称を、ラッカがこの街に名付けたということなのだろう。
いずれにしてもこの「グリの街」という名称については、検討する必要があると考えているので、ここで少し思うところを書いてみたい。Wikipediaではこの街を「グリの街」と呼んでいるようなので「グリの街」として話を進める。
まず「グリの街」の「グリ」についてなのだが「guri(グリ・倶利)」をGoogleで検索すると、以下のような説明がトップに表示される。
『堆朱(ついしゅ)や寺院建築などに用いられる、蕨(わらび)形の曲線の連続文様』
では「堆朱」とは何だろうか。Wikipediaによれば、堆朱とは木製の生地に漆を何層にも塗り固めた工芸品で、仕上げの表面を赤い漆で仕上げたものが堆朱、黒い漆で仕上げたものが堆黒(ついこく)、黄色い漆で仕上げたものが堆黄(ついおう)などというらしい。ちなみに新潟県の村上市では、村上堆朱という名で様々な工芸品を制作しているので、是非一度検索していただきたい。
次に、寺院建築などに用いられる蕨(わらび)形の曲線の連続文様についてである。「蕨形」とあるように、先の方が丸くなっているということは容易に想像がつくだろう。「ゼンマイ」のような形であり、いわゆる「唐草模様」と言えば分りやすいのではないだろうか。
神奈川県の鎌倉に鎌倉彫(かまくらぼり)という工芸品がある。「鎌倉彫 グリ唐草」で検索すると、いくつもの工房のホームページがヒットする。それらの作品群を見てみると、容易に「グリ唐草」の文様を見つけることができるだろう。また画像検索でもいくつかヒットするので、そちらで確認することも可能である。是非一度「グリ唐草」をご確認願いたい。
では、実際にこの文様に触れてみてどのように感じられるだろうか。人それぞれなのは当然なのだが、何とも不思議なエネルギーを感じられるのではないだろうか。植物が枝葉を増やすように次々と連続する様は、生命の連鎖をイメージさせる。また曲線の重なりからも、大きな「うねり」のようなものも感じられるのではないだろう。
「グリ(倶利)」という文様が何に由来しているのか、さらに今度は漢字で「倶利 由来」で調べると「倶利伽羅(くりから)」という単語に遭遇する。倶利伽羅とは、黒い龍が巻きつく宝剣を持っている不動明王のことを指す。サンスクリット語で「黒い龍」のことを「クリカ」と言うところから転じて、倶利伽羅不動明王と呼ばれるようになったらしい。
黒い龍は不動明王の化身であり、あらゆる災いを断ち切り、幸運をもたらすという。宝剣は不動明王そのものであり、邪心を切り、炎によって憎しみ、怒り、羞恥、貧困などの負の感情を浄化する力があるとされる。
このように見てくると、グリという文様は倶利伽羅不動明王を象徴する「黒い龍」の持つイメージやグリ唐草の躍動的な文様をモチーフとしているのではないかと思えてくる。それが正しいことかは分らないが、グリの文様に力強さや生命力を感じるのは、こういったことと何かしら関係があるのかもしれない。
古い時代から脈々と伝わる伝統的なデザイン(シンボル)には、不思議な霊力が備わっているといえなくもない。作者がそういった意味を込めたかは分らないが、グリの街という言葉からは「外界から守られ、浄化と再生のエネルギーを持つ特別な所」という印象を受ける。女の子はこの街へと送られ、やがて繭玉から生まれてくる。
「繭玉」は女の子を直接的に「守る」ものであり「グリの街」はその繭玉を守るものでもあるだろう。「グリの街」もまた、高い壁によって守られている。さらに灰羽達は「灰羽連盟」によって守られている。女の子を含めた灰羽達は、幾重もの「守り」に囲まれているのである。
先に述べたように、グリの街を「外界から守られ、浄化と再生のエネルギーを持つ特別な所」とするならば、灰羽達はここで何をしなければならないのだろうか。完全なる守りに支えられ、どのような道を目指すことになるのか。私たち視聴者は、今後さらにその行く末を見つめていくことになる。
では。
64,心理学で読み解くアニメの世界
心理学で読み解くアニメの世界
「灰羽連盟」
第四話 ゴミの日 時計塔 壁を越える鳥
<ラッカの夢の中>
何もない世界。薄暗い空間にカラスが一羽舞い降りる。
『鳥だ、わたし、どこかで…』ラッカはそう言うと、鳥に近づこうとする。その時どこからか、鐘のような音が聞こえてくる。そしてその音は何度も繰り返し聞こえてくる。
一、焼却炉
バケツの底を叩いて、カナはラッカを起こす。
「おーきーろー(起きろ)」
「あー、なに、なに! あっ、カナ」
「今日、あたしの仕事手伝うって言ったじゃん」そう言いながら、カナは朝6時34分にラッカを起こす。
ベランダに置いてある鳥のエサを見つけたカナは「だめだよ、カラスが集まってきちゃう、ただでさえゴミを散らかされて困っているのに」と言って、そのエサをゴミ箱に入れてしまう。
「そうだゴミ!ラッカ!キッチンのゴミ出しちゃおう!」そう言うとカナは、ゴミを持ってホームの片隅にある焼却炉へと向かう。
カナは、焼却炉辺りにいるカラスを追い払うが、カラスはその場から離れない。カラスが焼却炉のドアの開け方を覚えていることに感心するラッカに「感心することか…、こんなに散らかしやがって」とカナは応じる。
カナはカラスの餌付けに反対である。ラッカの「あのさ、カラスの欲しがりそうなものだけ、別にしたらどうかな」という問いに対しても「そんな風に餌付けしてさ、街の外で生きていけなくなっちゃったらどうすんのさ、カラスには、カラスのルールがあるんだ、甘やかしちゃイカン」と答える。そしてカナは焼却炉にマッチで火を入れる。
「鳥はさ、この世界で唯一、壁を越えることを許されている特別な生き物なんだ、もし私たちが鳥にエサをやって、何の苦労も無く暮らせる場所を作っちゃったら、鳥は街に住みついて、多分二度と飛ばない、それは幸せかもしれないけど、可哀そうだ」
「うん」
カナがポケットから取り出した懐中時計を見て、ラッカが尋ねる。
「その時計どうしたの」
「へへぇ、いいだろう、そこの物置でほこりかぶってたの見つけて直したんだ」
「自分で?すごい!」
カナの話によると、今度大物に挑戦するらしい。その大物というのはオールドホームにある大型時計の機構部分のようで、昔誰かが修理したようなのだが、ほぼ出来上がっていて、もう少し手を入れれば完成するという。
「あ~、そうだ、仕事!」カナとラッカは慌てて仕事場へ向かう。
二、時計塔
カナが働いている時計屋に着くと、店のドアが閉まっているので、二人は裏の入り口から入る。すると店主が現れて“七分遅刻だ”と指摘する。二人は上の階の掃除を任される。
「灰羽はどうして働くのかな」
「義務だよ、義務」
「そうじゃなくて…」
「あたしたちはさ、この街ですごく守られてるじゃん、それってイヤじゃない?なんていうか、半人前扱いで…、だから借りを作らないように働くんじゃない」
「そっか、カナらしいな」
レキやヒカリやカナは、自分のやりたいことを見つけて仕事をしているが、ラッカはまだどうしたらいいか分らなくて、自信を失っている。
カナは「…そうだ、上に行かない」とラッカに声をかける。
カナはラッカを最上階のベランダへ誘う。そこは時計塔の機械室からさらに上へ行ったところにある。
「いい眺めだろ」
「うん」
「ここが一番高い場所だから、ここが平気なら、あとは怖もんなし」
「ううん、平気…、じゃないかも…」
「下を見るからだよ、遠くを見な」
「遠く、遠く…、一番遠くは…、壁」
「そうだね、この街はすり鉢状で、ここがその中心だから、壁の方が高いのかも」
「あの壁の向こうは、何かあるのかな」
「知るもんか、灰羽は近づくこともできないんだ、トーガの他は誰も街に入ってこないし、街の人間も外には出られない、もし出たら、二度とは帰ってこれない決まりになっている」
「あっ、鳥だ」
「うん」
「鳥が壁を越えていく」
「鳥はさ、忘れ物を運ぶんだって」
「忘れ物?」
「あたしたちが繭に入ったときに、忘れちゃった何か、なんか、そういう言い伝え、鳥は壁のこっちと向こうを行き来するから、そんな風に言われてんじゃねえの」
「ラッカ、平気になった」
「わっ、平気だ」
「じゃぁ、怖いもんなしだな」
仕事が終わりカナは店主と会話する。「今日は…、もういい」そう言うと店主はカナに道具箱を渡す。
「なに、これ?」
「遅刻した罰だ、おめえんとこの時計塔の修理な、あれぇ、おまえがやれ」
「いいの?」
「あぁ、わしらあんまり、灰羽の生活に関わり過ぎちゃいけねえからな」
カナは喜んで店主に抱きつくと、急いで店の外に出る。
「待って!…、今日はいろいろありがとうございました」そう言うラッカに「なぁ、カナはどっかに行っちまうつもりなんかな」と店主は尋ねる。
「いえ、わたしはカナの代わりに働きに来たわけじゃなくて、わたし新入りだからみんなが働いているのを見学させてもらってるんです、カナはここ、大好きだと思いますよ」
「そうか、いやぁ、あんたらそんな羽なんて付いてるから、ある日ふっと、どっか飛んで行っちまいそうな気がしてな」
「この羽、偉そうに付いてるだけで、全然飛べないんですよ」
「そうか、ならえぇ」
三、帰り道
街からの帰り道、ラッカが運転する自転車の後ろにカナが乗っている。
「今日はありがとうね」
「あぁ、参考になった?」
「いろいろ発見があったよ、人は見かけによらないって」
「河の匂いがする」
「うん」
「いつか、どこかでこんな風景を見たような気がする」
「まだそんなこと言ってる、分るけどね、そういうの、なんか思い出したりする?」
「ううん、不思議だね、言葉とか、自転車の漕ぎ方とか、そんなことは覚えているのに…」
「どうした?」
「こういう気分の時、わたしは歌を歌ってた気がするんだ、だから、なにか歌を思い出せばいいのにって…」
翌日、カナとカラスの攻防は続く。
「ガンバって」
「今のはわたしへの応援じゃないな…」
「そんなことないよ…、どっちもガンバレ」
「あぁ、なんだそりゃ」
第四話 まとめ カナの物語
一話から三話までの間に、この物語の独特の世界観が淡々と描かれてきた。街は基本的に閉ざされていて、そこに灰羽といわれる特別な人々がいること、そして、いくつかの“してはいけないこと”があり、灰羽はこの街の片隅に、あたかも住まわせてもらっているかのように、淡々と日々を過ごしている。ここまで、そんな灰羽達の日常が描かれていた。
四話以降は、今後の物語を繰り広げる各キャラクターについて紹介されることになる。主な登場人物は今のところラッカ、レキ、クウ、カナ、ヒカリ、ネムの六人であるが、ラッカとレキを中心に物語が進んでいくため、その他のクウ、カナ、ヒカリ、ネムの人物紹介が必要になるだろう。
ただ、職場紹介という点で言うと、第三話でレキが保母さんのように年少組の世話をすることを彼女自身は仕事と認識していて、その手伝いをする形でラッカが職場体験をしている。
また、ヒカリは灰羽が働ける街で唯一のパン屋で仕事をしているところが紹介されていて、ラッカとクウが年少組の子供たちのためにパンケーキを買いに訪れている。レキ、ヒカリを共に深く掘り下げているわけではないが、それぞれの仕事を日常の一コマとして描いている点は、キャラクター紹介の一部と考えていいかもしれない。
一、カナというキャラクター
第四話ではカナの物語が全編を通して語られている。カナという人物について、仕事や人との関わり方といった、彼女の気質についてみていきたい。
カナの性格を一言でいえば「竹を割ったような性格」といえるのではないだろうか。多くの人にはご理解いただけると思うが、物怖じしない、思ったことは遠慮なく口にするタイプであり、あっけらかんとしていて、発言内容はとても明快である。はっきりしすぎて、少し浮いているところもあるが、概ねオールドホームでは受け入れられているといえるだろう。
1,働くことについて
「灰羽はどうして働くのかな」というラッカの疑問に対して、カナはこう答えている。「義務だよ、義務」続けて「あたしたちはさ、この街ですごく守られてるじゃん、それってイヤじゃない?なんていうか、半人前扱いで…、だから借りを作らないように働くんじゃない」
カナはこの街で、灰羽が特別に守られた存在であることを理解している。だからこそ、それに見合う程度に仕事をする必要があると感じているのではないだろうか。“ギブアンドテイク”つまりお互い様と言えば分かりやすいだろう。
2,この街について
ラッカが思わず「あの壁の向こうは、何かあるのかな」と疑問を口にしたとき、カナは「知るもんか、灰羽は近づくこともできないんだ、トーガの他は誰も街に入ってこないし、街の人間も外には出られない、もし出たら、二度とは帰ってこれない決まりになっている」と答えている。
心のどこかでは疑問に感じているのかもしれないが、カナはどこまでもストレートに表現する。“知るもんか、そんなこと知ってどうする”とでも言おうとしているようだ。
3,鳥について
朝、カナは以下のようなことを言っている。
「鳥はさ、この世界で唯一、壁を越えることを許されている特別な生き物なんだ、もし私たちが鳥にエサをやって、何の苦労も無く暮らせる場所を作っちゃったら、鳥は街に住み着いて、多分二度と飛ばない、それは幸せかもしれないけど、可哀そうだ」
単純にカラスが嫌いという考えもあるだろうが、カナはカナなりに、カラスのことについて思いやる気持ちを持っている。目の前の生き物に食べ物を与えたいという単純な親切心も理解できるが、カナは生き物が自立できることが重要で、餌付けはそのチャンスを奪ってしまうものであると考えている。
それに対してラッカは、少しでも自然状態のカラスに生活のための餌を多く提供したいと考えている。餌のない不毛な大地なら分からなくもないが、少なくともこの世界では、カラスは餌に困ってはいないように見える。
自然が厳しいから、少しでも多く餌をやりたいう考えと、餌を与えることで、自然環境での生活力を奪ってしまうという考え方が明確に対比されている。どちらが正しいかはあまり意味が無くて、どちらもそれなりに重要なのだ。
この世界の環境を考えると、あまり餌付けは必要ないかもしれないのだが、ラッカはなぜかカラスに特別な感情を持っていて、カラスの生活に何らかの援助をしたいと考えているようだ。
また、時計塔から遠くの壁を見ていたラッカが「鳥が壁を越えていく」と呟くと、カナは「鳥はさ、忘れ物を運ぶんだって」と答え、鳥についてかつて聞いた話をラッカに語りかける。
「鳥はさ、忘れ物を運ぶんだって」続けて「あたしたちが繭に入ったときに、忘れちゃった何か、なんか、そういう言い伝え、鳥は壁のこっちと向こうを行き来するから、そんな風に言われてんじゃねえの」
カナはただ言い伝えをそのまま理解しているようだ。それ以上でもそれ以下でもない。分からないものは分からないまま、自分にできる仕事をして、この世界の“何か”に役立てばそれでいいと思っているようだ。ある意味達観しているのかもしれない。
ラッカとカナの対比は、ちょうど水と油のように感じられる。ビーカーに水と油を入れると水は下、油は上の方へと分離する。科学の実験で体験的に知られているようなことである。
しかし料理の世界では、水(お湯)と油を熱すると白濁(乳化)することも知られている。水と油は完全に対立関係にあるわけではない。ある一定の条件においては統合され、絶妙なハーモニーを奏でることもある。
オールドホームの一人ひとりがどのような役割を持ち、どのように関わっていくのかは現時点ではよく分からないが、そこには作者なりの意味を持たせたに違いない。意図した本来の意味とは違うかもしれないが、この先のストーリーから生まれる彼女たちのハーモニーに、引き続き耳を傾けてみたい。
では。
63,心理学で読み解くアニメの世界
心理学で読み解くアニメの世界
「灰羽連盟」
第三話 寺院 話師 パンケーキ
一、レキの悪夢
朝、ラッカは朝食に来なかったレキの部屋を訪ねようと、彼女の部屋に向かう。
「うわぁ、人が住んでないとこは、本当にお化け屋敷みたい」
階段を上がり、物を引きずった跡がある部屋の入り口で、ドアをノックしようとすると「うわぁ!」とレキの大声が聞こえてくる。慌てたラッカは「レキ!」と叫びながらドアを開ける。
しかしそこに人影は無く、中には右の部屋へと通じるドアがあり、ラッカは恐る恐るそのドアを開ける。するとそこに布団をかぶったレキが息を切らせてしゃがみ込んでいる。
「ごめんね、すごい物音がしたから勝手に入っちゃった」
「そりゃ、お騒がせ、寝相が悪くてさ、また落ちた」
「ごめん、散らかってて、元々は、アトリエとして使ってたんだけど、ガラクタを整理するのが大変でさ」
「絵を描いてるの」
「まあ、まあ、真似事だけ」
「見ていい?」
「だめだめ、描きかけだし、ろくなもんじゃないよ」
「ふ~ん、アトリエってこっち?」
「だめ!…そっちは、ホントに散らかってるから」
「あっ、ごめん、そっ、そうだ、朝食、レキだけ来ないから…、それで呼びに来たの」
「うん…、後で食べる」
「そう、じゃ、わたし行くね、灰羽連盟の寺院に呼ばれているの」
「寺院に? 一人で?」
「ううん、ヒカリが一緒に行ってくれるって」
「あぁ、じゃ、気をつけて」
ラッカは部屋を後にする。
『また同じ夢』レキは呟く。
二、寺院
ラッカは、思わずレキの部屋に入ってしまったことを気にして、ヒカリやネムにそのことを話す。しかし思い過ごしであると告げられる。ネムと別れ、ラッカとヒカリは街はずれの寺院に向かう。
人里を離れ細いつり橋を渡り、崖に沿った道を抜けるとようやく寺院が見えてくる。寺院の中では許可があるまで話してはいけない規則となっていることを、ヒカリから知らされる。
「灰羽だな」
「何用できた?」
「一人は光輪の鋳型を返しに来た、もう一人は私が呼んだ新生子だ、そうだな、庭園の中へ」
「新生子、名は何という、名前はラッカ、そうだな、…羽がきちんと体の一部になるように心がけなさい、同志ラッカよ、我々は今日よりお前を、同志として迎える、これがその証となる、それがお前の日々の暮らしの補償となる、引き換えにお前はこの街で働く、自分のため、自分たちの住み家のため、幼い同志のため、お前は良い灰羽であらねばならない、我々はここにいる、困ったことがあったら来なさい、…他に何かあるか」
寺院からの帰り道、丘の上にある風車の近くで、ラッカはクウの姿を見つける。しかしヒカリには見えなかったようである。ネムと別れた石橋のたもとで、今度はヒカリが仕事に向かうためにラッカと別れる。
「じゃぁ、また夕方ね」
「うん、ありがとう」
そう言うと、ラッカはオールドホームに向かう。ホームが近づくと、レキが年少組の子たちを追いかけている。レキはラッカを迎えると、年少組の食事の続きをするという。ラッカは「わたしも手伝うよ、灰羽は働かなきゃダメなんでしょ」とレキに告げる。
食事の付け合わせのニンジンが不評で、子どもたちは食事を終わらせることができない。ラッカが手本を見せるがうまくいかない。レキが「ニンジンお化けが来るぞ」と脅すと、女の子がラッカの横に逃げ込む。すると女の子が「ケーキの匂いがする」と声を上げる。
男の子が「パンケーキ食いてえ」と叫んだあと「ケーキ!ケーキ!」とみんなが大合唱するので「昼ご飯を残さず食べた者だけ、おやつはパンケーキ」と寮母の婆さんが宣言する。すると子供たちは全力でニンジンを食べる。
その後、ラッカはヒカリのパン屋へ買い物に向かう。
三、クウの道案内
途中、脱走した年少組の子供達と再会すると「今すぐ謝りにいかないと、おやつ抜きだってよ」とラッカは告げる。すると子供たちは急いでホームへと向かう。
パン屋へ向かうラッカを見つけたクウが声をかける。
「ラッカだ、どこ行くの?」
「ちょっとパン屋まで、あっ、そうだクウ、ヒカリの働いているパン屋ってどこだか分る?」
「えぇ、知らないの、じゃぁ、クウがガイドするよ」
二人は自転車で町へ向かう。
「朝、風の丘を歩いてたでしょ」
「えぇ、うん、街にこれを買いに行ったんだ」
そういうと、クウは帽子に手をやる。
「へぇ、似会うよ」
「パサパサ、ポンコツ自転車号、離陸します!」
「ホントに飛べたらいいのにね」
「飛べるよ、信じていれば、いつか必ず飛べるよ、クウはそう信じてるんだ」
「うん、そうかもね」
「こないだ、あそこのカフェで、掃除の手伝いをして、角砂糖をもらったんだ」
「クウも働いているんだ、えらいね」
「えへへ、だってラッカが来たから、あたしもう先輩だもんね、あたしね、年長組で一番チビだから、…えっと、怒んないでね…、ホントは、ラッカが妹だといいなって思ったんだ、でもね、考えたら、あたしよりチビだったら年少組に行っちゃうから、だからラッカは、わたしより大きくて良かったんだ、だって、一緒にいられるもんね」
「ホントにそうだね、あたしもクウみたいな先輩がいて良かった」
「カナはカラスのことを“ゴミあさり”っていうんだよね、でもあたしは、カラスはわたしたちと友達になりたいんだと思う、あたしたちにはゴミでも、カラスにとっては食べ物なんだよね、だから友達になって、分けてもらいたいんだと思う、わたしは灰羽で、言葉がしゃべれるから、カフェのおじさんと友達になって、角砂糖がもらえたよ、でもカラスはカーカーとしか言えないし、真っ黒で怖い顔をしてるから、クレープはもらえないし、カナにほうきで追いかけられるんだ、なんか不公平、カラスと話ができたらいいのにね」
「うん」
四、ヒカリのパン屋
クウの話によると、ヒカリが働いているパン屋は、灰羽が働ける街でただ一つのパン屋らしい。
二人はパン屋に到着すると、お店の人に案内されて厨房へと向かう。忙しい雰囲気の中、子供たちにおやつのパンを買いに来たことを告げると「いいよ、どれでも選んで」とヒカリは答える。
お店の人:「ほれ、これはヒカリのアイデアで作ったもんだ、熱いから気をつけてな」
ラッカ:「あっ、ありがとうございます、ヒカリすごい!」
お店の人:「この間ヒカリが面白いフライパン持ってきて、いろいろ試してなぁ」
ラッカ:「ヒカリ!」
クウ:「まさか!」
ヒカリ:「あはは、ばれた…」
クウ:「どうりで自分から輪っか係に立候補したわけだ、ヒカリあったまいい!」
ラッカ:「ヒーカーリー」
ヒカリ:「だって、あれ見たらすっごいやってみたくなっちゃって」
ラッカ:「ほんとにそんなことやる人なんていないわよ!」
ヒカリ:「ちゃんと洗ったのよ」
ラッカ:「そういう問題じゃない!」
五、パンケーキ
二人はホームに戻り、やがておやつが振る舞われる。
レキもニンジンが苦手なのだが、そんなレキに寮母の婆さんが「おまえだってニンジン食えんくせに」とぼやく。するとレキは「あっ、わたしは目つぶれば食えるんだって」と答える。
「そういうのは食えるとは言わん、まったくお前は背だけ伸びて、中身は全然変わらんな」
「ちぇ、今日のニンジンはチビたちじゃなくて、わたしに説教するためか」
「まっ、脱走せんだけ成長したか…」
「当たり前だっての」
ゲストルームでヒカリ、クウ、カナ、ネムがおやつを一緒に食べようとラッカを待っている。
ヒカリ:「ラッカ、ごめんね」
ラッカ:「いいよ、もう」
ラッカは光輪を洗うが、髪の毛が跳ねるのを止めることができない。
第三話 まとめ それぞれの日常
第三話では、オールドホームの灰羽達のそれぞれの日常が描かれている。冒頭、レキが「悪夢」にうなされて、ベッドから落ちる場面は印象的だ。『また同じ夢』と呟いているように、何度となく同じ悪夢に苦しめられていることが示される。
その後ラッカは、ヒカリと一緒に初めて灰羽寺院に向かい、灰羽達に課せられた独特の決まりごとに直面する。話師との面会では言葉を発してはならず、話師から許可を得てから発言することになっているらしい。この世界で生きる灰羽達の独特の決まり事に戸惑うのである。
さて今回は、特に大きな出来事が起こるわけではないが、レキが子供の世話を仕事として捉えていること、ヒカリがパン屋で働いていることなどが話題となっている。また、はっきりとした仕事として描かれているわけではないが、クウが街のカフェで掃除の手伝いをしていることが、本人の口から語られている。
一、クウというキャラクター
ラッカがヒカリのパン屋へ行こうとするとき、オールドホームの外でクウと出会う場面がある。「朝、風の丘を歩いてたでしょ」というラッカの問いに「街にこれを買いに行ったんだ」と言って、飛行機乗りが被るような帽子を示す。
空を飛ぶしぐさをするクウに、ラッカが「ホントに飛べたらいいのにね」と語りかけると「飛べるよ、信じていれば、いつか必ず飛べるよ、クウはそう信じてるんだ」と答えている。
この後、自分が街のカフェで掃除の手伝いをして角砂糖をもらった話、ラッカという年上の後輩が出来てうれしいという話、そしてカラスと話せたら良かったという話をする。
それらの話は、ラッカにとってどれも感心するような内容だったようだ。小さいのに働くことの大切さを知っていること、後輩のラッカがむしろ年上だったから友達になれて良かったと感じていること、そして嫌われ者のカラスであっても、話すことが出来れば仲良くなれそうだと考えていることなど、どれも前向きであることが、ラッカには気持ち良く感じられたようである。
また「クウ」という名前が、当初は「かぶっちゃうね」と言われていたように、空(そら)という空間を通して、ラッカとの類似性を暗示しているようにも感じられる。ラッカはクウに対してとても好感を持っていて、深いつながりを感じているのである。
二、灰羽寺院と話師
この物語には、灰羽を取り巻く不可解な決まり事や不思議な登場人物がいる。第三話では、ラッカが灰羽寺院で話師と面会するが、その際にも奇妙な決まりごとに緊張を強いられる。“はい”か“いいえ”を言葉ではなく態度で示すというのだ。また許可なく話してはいけないという決まりは、全編を通して続くことになる。
さて、ラッカはここで灰羽手帳を受け取り、名実ともに灰羽の一員となるのだが、同時に話師と深く関わるようになる。では話師とはどのような存在なのだろうか。以下に話師について語られたセリフを三つ挙げてみる。
1、カナ:「街の住人は、トーガと話しちゃいけないし、触れたりしてもいけないんだ、トーガもあたしらには絶対近寄らないし、街にいる間は、声は使えない、トーガと話ができるのは、灰羽連盟の話師だけなんだ」
2,ヒカリ:「しゃべる代わりに、ああして、指の形を作って、それで話してるんだって、あたしのはデタラメ、あの人たちにしか分からない言葉なの」
3,ネム:「つまり、灰羽連盟(話師)は、トーガと、街の交易の仲介役ってとこね、で、その利益の一部がオールドホームの光熱費とか、年少組の養育費に当てられてるの」
これらから読み取れるのは“街の人はトーガと呼ばれる交易商とは接触できない”が、仲介役としての話師を通して“街に利益がもたらされている”ことと、その一部が“灰羽連盟の運営費”になっているらしいということだろう。
つまり街の人は、唯一の情報源であるトーガと直接接触できないため、事実上外界と断絶されているのである。話師だけが彼らと意思疎通できることになっている。大事な点は、街の人々は外部の者と接触することが禁止されているのである。何故だろうか…。
一つの見方として、それはその情報が役に立たない、あるいはむしろ邪魔なものだからではないだろうか。つまり街の人あるいは灰羽達が、外界の情報に触れることが“良くないこと”として設定されているのである。
ではなぜそのような設定が成されているのだろうか。もちろん制作側のスタッフでなければ、そのような詳細を知ることはないのだろうけれど、一視聴者としては疑問に思うところである。
三、密閉容器
灰羽達の生活はこの街で完結している。つまり大きな世界は必要ないということだ。ありふれた日常、ありふれた関係の中にこそ、人が人として生きる知恵であったり勇気であったり、また信念といったものが存在しているのだという考えが、この物語の根底にあるからなのかもしれない。
カウンセリングという行為に対して、それを錬金術に例えることがある。いわゆる圧力釜のようなものの中で、クライアント(変容を望む者)はカウンセラーという触媒とともに一定の時間過ごすことになる。その際、圧力が決して抜けない状態を維持することで、実は二人がともに変化していくのである。
圧力とは二人の関係を緊密にさせる環境を表しているが、例えば、落ち着いた空間、時間に面会することは大変重要であるし、カウンセラーを信頼していなければ自分の問題を語りたくはないだろう。秘密が守られること、つまり外界から完全に切り離されている特別な環境こそが、カウンセリングに必要なのだということを言い表しているのである。
そういった環境の中だからこそ、AであったものがA+、あるいはBという別の性質を持ち始めるのである。そのためには気密性の高い“圧力釜”が必要であり、この物語の“街”がまさにその圧力釜となっているのではないだろうか。
外界と閉ざされた街(圧力釜あるいは密閉容器)で灰羽達は“話師”を触媒として、日々の生活を営んでいく。その生活はありふれたものだが、それを箱庭として外界から客観的に眺めると、極めて濃密であることが分かる。話師との関係はとにかく“特別”なのであり、灰羽達は変容を余儀なくされているのである。
では次回以降、そういった関係にも注意を向けつつ、物語の推移を見つめてみたい。
62,心理学で読み解くアニメの世界
心理学で読み解くアニメの世界
「灰羽連盟」
第二話 街と壁 トーガ 灰羽連盟
朝、ラッカは羽を通すためのスリットが入った、慣れない古服を着る。
「あ、イタタッ、痛いってことは、ほんとに体の一部なんだよね、これ」
ゲストルームに年少組の灰羽達が遊びに来る。レキに会いに来たようだが、レキは「お姉ちゃん、新入生のケアがあるから休むって言ったろう」と子供たちを諭す。
古服を着て、レキたちの所へやってきたラッカを見ながら、レキが話しかける。
「着替え、終わった、サイズどう」
「うん、平気みたい」
そう言うとラッカはみんなの前に姿を現す。
「良かった、着るものないと、外にも出られないものね、ベランダに出ようよ、いい天気だよ」
一、ゲストルーム
ラッカはベランダに出ると、声を上げて伸びをする。
「羽、少し太陽に当てるといいよ、水吸ってるから」
「うん」
ラッカは見たことのない風景を眺める。
『知らない街、自分の住んでいた街を思い出すことはできないけど、ここが知らない街だということは、なぜか分かった』
すると、年少組の女の子に羽を動かすことを促される。しかしラッカは羽を動かすことが出来ない。その様子を見ていたレキは、女の子に「ハナ、変なこと教えない!」と叱る。
レキはラッカに無理しないように言うが、子供たちは容赦なくラッカにお節介を焼く。「やれやれ」レキがそう言いながらベランダの外に顔を向けるとクウ、ヒカリ、カナ、ネムの姿が目に入る。
クウ:「レキ!おはよう」
ヒカリ:「ごはん買ってきたよ」
レキ:「サンキュー」
元気なラッカの様子に、みんなはホッとする。ゲストルーム(レキの部屋)に上がり込んで、年少組の子供たちと朝ごはんを食べる。
ヒカリ:「本当はレキがゲストルームに住みついちゃったのよ」
レキ:「最初の最初は、私の部屋だったじゃん、あ~ぁ、こんなでっかいテーブル、拾ってくるんじゃなかった」
「新しい部屋、どこにするの」というネムの問いに「一つ上のはじの部屋」とレキは答える。すかさず「すぐ隣も空いてるのに」とネムに返されるが「もともと、アトリエ変わりにしてたし、ここと同じ階は、安眠が妨げられそうでさ…」と答える。
「一番寝起きが騒々しいのはあんたじゃない」というネムの突っ込みに「起きる努力を放棄している人に言われたくない」と、レキはネムのことを軽くあしらう。
そんなレキとネムの会話を聞いて
カナ:「ネムの居眠りは筋金入りだからね」
クウ:「夢の中でも眠る夢を見てたくらいだもんね」
ネム:「もういいじゃない、その話は…」
ラッカ:「あっそっか、名前、最初に見た夢で決まるんだっけ」
カナ:「そっ、だれが決めたか知らないけど、しきたりでね、まっ、子供たちはそんなのお構いなしだけど」
ハナ:「ハナはね、お花屋さんになりたいの、だからハナ」
ダイ:「僕は大工さん」
ラッカ:「将来の夢ね…」
ショータ:「ショートケーキ!」
ダイ:「ショータのはただの好物じゃん」
ショータ:「違うよ、夢に出てきたんだよ」
レキ:「こらっ、もうケンカしない」
ラッカ:「そういえば、レキは?」
レキ:「えっ、あたしは…」
ショータ:「石ころのレキ!」
「えっ」と驚くラッカに、レキは言いにくそうにその由来を話す。
「あっ、つまり、瓦礫のレキ、月の出ている夜に、石ころだらけの道を、歩いているんだ、ずっと…」
全員、言葉をなくす。
ヒカリ:「そういえば歩くの好きだよね、レキって」
ネム:「引っ越しも好きよね」
レキ:「よく言うよ、追い出したくせに」
クウが「あたしたちも歩こうか、ラッカ、街に行こうよ、歩ける」と尋ねると、ラッカは「うん」と頷く。続けてクウは「レキ、いいでしょ」とレキに許しを求める。
「ラッカがいいなら」
レキは引っ越しの続きがあると言って、オールドホームに残り、ラッカたちを見送る。その際「ラッカ、病み上がりなんだから、無理しないようにね」とラッカに告げる。ラッカ、クウ、ヒカリ、カナ、ネムが街に出かける。
二、外出
ラッカがオールドホームを外から見ていると、ネムがその由来を語り始める。
「大昔はさ、あそこは学校の寄宿舎みたいな建物だったんだって、それが使う人がいなくなって、棄てられて、いつの間にか灰羽の巣になったんだってさ」
ヒカリ:「みんな、オールドホームって呼んでるの、いいところよ、半分くらい、電気が通ってないから、ランプがないと、夜怖いけど」
カナ:「何しろ、あんなだだっ広い建物に住んでるのは、あたしらと年少組のチビどもと、寮母の婆さんだけだからね、ラッカも好きな場所、選びなよ」
クウ:「結局、たむろすることになるけどね」
一行が歩く道を、一台の古い農耕車両が通過する。運転手の姿を見たラッカは「羽がない人もいるんだ」と見たままの事実を口にする。するとヒカリは「もちろん、っていうか、人の街に灰羽が居候しているのよ」
カナ:「そっ、そして人が使い終わった物を引き継ぐのが、灰羽の務めなんだとさ」
ラッカは「へぇ」と言って、感心する。
街に着いた一行は街中を散策する。ラッカが間に合わせの服しか持っていないことにクウは気づき、古着屋へ行くことを提案する。
クウ:「そうだ、ねえねえ、服屋行こう、ラッカの服も買わなきゃだし」
カナ:「別にいいけど…、服屋ったってあの古着屋だろ」
ラッカ:「古着屋?」
ヒカリ:「灰羽はお古しか着れない決まりなの、だからみんなお裁縫は上手くなるのよ、羽袖付けたり…」
ネム:「寒くなったら羽袋もね」
ラッカ:「羽袋?」
三、古着屋
店主:「いらっしゃい…、あぅ…、なんだ、灰羽かぁ…、あれ、見ない顔がいるね」
ヒカリ:「あっ、新生子です」
店主:「へぇ、あぁ、それで…」
店主は、ラッカが付けている光輪の補助を見て呟く。ラッカは、何となくヒカリの陰に隠れてしまう。
「じゃ、そっちのコーナーから一着、好きなの選んでいいよ」
するとラッカは喜んで「いいんですか」と店主に尋ねる。つられたカナが「あたしらは?」と尋ねると、店主は古着の詰まった箱を提示する。
一同「うへ~」と声を上げる。
店主:「うへ~って…、言うなよ、掘り出しもん満載の、未整理、未洗濯の在庫だぜ」
カナ:「洗濯はしとけよ!」
店主「おいおい、一人一着だからな」
カナ:「分かってるって」
ネム:「世知辛いわね」
店主:「呑気にやってるみたいに見えるけど、灰羽ってのも楽じゃないんだな」
カナ:「あったりまえだ!」
クウ:「ラッカ、決まった?」
灰羽達は思い思いの古着を選び、店主への支払いを行う。灰羽連盟から付与された灰羽手帳によって支払いをするのだが、ラッカはまだその手帳を持っていない。ラッカは、店主からサインと小羽根を一枚求められる。
不慣れそうなラッカの様子を見た店主は、ラッカが選んだ服に羽を通す切れ込みが無いことに気づき、彼女のためにミシンでスリット加工を施す。作業を終え、灰羽達に古着を渡すと、店主は笑顔で灰羽達を見送る。
四、大門広場
街の中心地にある噴水の周りで、灰羽達がひと時を過ごす。ラッカが灰羽連盟について尋ねると、ネムは灰羽の生活を保障してくれるところで、そのうちラッカにも灰羽手帳が与えられると答える。
カナ:「灰羽は、お金をもらっちゃいけない決まりだから…、働いたお給料は、灰羽手帳に付けて、それで買い物するわけ、ちなみにあたしは、あの時計塔で働いてんだ、今度見に来なよ」そう言うと、時計塔の方を指さす。
ヒカリ:「あたしはパン屋、ネムは図書館、ラッカも街に慣れたら仕事を探さないとね」
ラッカ:「へ~」
「ねえねえ、あれ」クウの言葉に促され、人々が流れていく方向に目を向けると、カナが「大門広場に市が立ってる、トーガが来たんだ」と、その様子をみんなに知らせる。
ラッカ:「トーガ?」
五、トーガ
壁にある大きな門の前の広場に市が立ち、人々が賑わっている。門の外からやってきた「トーガ」という人達と、この街の話師が手話で会話を交わす。
その様子を見てネムが「ほら、あの荷物を運んできたのがトーガ」とラッカに教えようとするが、ラッカは大きな壁に視線を奪われ「すごい壁」と感嘆の声を上げる。
カナ:「街は、壁で覆われてるんだ、あたしら灰羽も、街の人たちも、街から出たり入ったりすることは、禁じられてる、唯一の例外が、トーガ、外から時々ああやって、交易に来るって訳、で、脇にいるのが門番と灰羽連盟の話師」
ラッカ:「話師…」
カナ:「街の住人は、トーガと話しちゃいけないし、振れたりしてもいけないんだ、トーガもあたしらには絶対近寄らないし、街にいる間は、声は使えない、トーガと話ができるのは、灰羽連盟の話師だけなんだ」
話師とトーガが手話で会話をしている様子を見ながら、ヒカリが話しかける。
ヒカリ:「しゃべる代わりに、ああして、指の形を作って、それで話してるんだって、あたしのはデタラメ、あの人たちにしか分からない言葉なの」
ネム:「つまり、灰羽連盟は、トーガと、街の交易の仲介役ってとこね、で、その利益の一部がオールドホームの光熱費とか、年少組の養育費に当てられてるの」
クウ:「へー、そうだったんだ」
続けてクウが、大きな声で話師とトーガに向かって声援を掛けようと声を上げかけたところ、カナに封じ込まれる。
話師が手話を一旦止めて、灰羽達の方を振り返るのを見たネムは「行こう、灰羽があまり壁のそばにいると叱られる」と、他の灰羽達に耳打ちする。そして彼女たちはそそくさとその場から立ち去る。
<カラスの声と話師の様子、ラッカの表情が印象的に示される>
ラッカたちは夕暮れの中、オールドホームへの家路を歩く。
ラッカ:「あそこ、壁が見える」
ネム:「そりゃね、壁に囲まれた街だから」
ラッカ:「壁の向こうには、何があるの?」
ネム:「誰も知らない、図書館の本を片っ端から読んだけど、さっぱり」
カナ:「読んだつもりで居眠りしてたんじゃないの」
ネム:「じゃ、代わりにカナが読む?」
カナ:「あっ、突然眠気が…」
ラッカ:「この街の外に、あたしが今まで住んでた街があるのかな…」
クウ:「うん?」
六、灰羽連盟
オールドホームに帰ると、玄関先にラッカの札が用意されていて、その近くには灰羽連盟からラッカへの連絡が記されている。
【新生子落下、同志として迎える、明朝、寺院まで来られたし 灰羽連盟】
ヒカリは、光輪の鋳型を返しに行かなくてはならないことに気づき,ラッカと一緒に行くことを提案する。ラッカは同意するが「でも、どうしてわたしの名前、知ってるんだろう」と不思議に思う。すかさずカナは、灰羽連盟が恐ろしい魔法を使うなどと、ジョークを飛ばすが、ネムに「買い物したときに、名前書いたじゃない」と説明され、ラッカは「そうか」と理解する。みんなは中庭まで来ると、そこで解散し、それぞれの部屋へと帰っていく。
ラッカはゲストルームのドアを開けると、真っ暗な室内へと入っていく。ベッドに荷物を置くと、窓辺の椅子にレキがいることに気づく。
「ラッカ、街はどうだった」
「うん、楽しかったよ、服も買ったし」
レキは部屋の明かりを点ける。
「ご飯は?」
「帰りにみんなでカフェで…」
テーブルには、食事らしきものがあり、カバーが掛けてある。
「…あっ、ごめん、待っててくれたの?」
「あぁ、いい、いい、部屋の片づけで、ホコリ吸ったら、なんか食べる気しなくなっちゃって」
「お茶入れるね」
「あんがと」
ラッカが入った台所から大きな物音がする。慌ててレキが台所に向かうとラッカがうずくまっている。
「あれ」
「ラッカ、寝てな、ごめん、気づかなくて」
「おかしいな、さっきまでは、すごく…」
「気が張ってたからだよ、大丈夫、歩ける?」
レキはラッカをベッドに寝かせる。するとラッカの光輪の補助がコロコロと床に落ちる。
「くっ付いてる?」
「うん」
「レキ、私は心配ないから寝て」
「ラッカが寝たら寝るよ」
「もう寝たよ」
「おやすみ」
「おやすみ」
第二話 まとめ
一、レキの名前
繭から生まれた灰羽達は、夢の内容を元に名前が付けられるという。第一話ではクウ、ヒカリ、カナ、ネムの由来が語られる。ラッカは、自分の夢のイメージをみんなに伝え、その話を聞いたレキが、煙草の灰が落ちる様子から霊感を得て、ラッカ(落下)と命名する。名付け親はレキなのだ。
第二話では、ゲストルームで年少組も交えたオールドホームの灰羽達が朝食をとる場面があり、そこで年少組のハナ、ダイ、ショータの名前の由来が紹介される。ラッカは「将来の夢?」と感じたようだが、ショータが言うように、実際に見た自分の夢に由来していると解釈した方がいいだろう。
ラッカが「そういえば、レキは?」と疑問を口にすると、レキは「えっ、あたしは…」と言って口ごもる。すかさず、ショータが「石ころのレキ!」と元気よく言葉を発すると、ラッカは「えっ」と驚く。
「あっ、つまり、瓦礫のレキ、月の出ている夜に、石ころだらけの道を、歩いているんだ、ずっと…」レキがそう説明すると、その場の雰囲気が沈んでしまう。レキが、自分の名前に何か違和感があることが、ここで初めて示される。
“月の出ている夜”まではいいのだが、“石ころ”という単語には誰しも「えっ」と驚くだろう。そこには、“生気のない”、“冷たい”、“取るに足らない”印象があるからかもしれない。
いずれにしても「名前」が繭の夢に由来し、その夢は前世からこの世界に転生する際に「見た」のであるという点を考慮すると、夢が灰羽達にとって理解あるいは克服されるべき課題であることが提示されていると言えるのではないだろうか。
二、壁
第一話でレキは、この街について以下のように語っている。
「灰羽はこの街から出ることはできないんだよ、それに、この世界のどこかに、もしあなたの家族がいても、今のあなたを見て、あなただと思わないと思う」
“灰羽はこの街から出ることはできない”ことを裏付けるように、第二話では今度はカナが以下のようなことを語る。
「街は、壁で覆われてるんだ、あたしら灰羽も、街の人たちも、街から出たり入ったりすることは、禁じられてる、唯一の例外がトーガ、外から時々ああやって、交易に来るって訳、で、脇にいるのが門番と灰羽連盟の話師」
大門市場を見るのはラッカにとっては初めてだが、他の灰羽にとっては改めてこの街を現実的に閉ざしている“壁”の存在を再認識させる出来事であったに違いない。それと同時に、見ている私たちにも大きなインパクトを与えることになる。
街は巨大な壁によって“守られ”同時に外へ出ることを“阻んでいる”。見方によっては、繭に守られた灰羽達のイメージにも重なるだろう。灰羽は生活の保障のある街に育まれ、その街は強力な壁に守られている。生命維持のための羊水に守られ、繭が強固な殻に守られているのと似ている。
一度誕生すると、もう繭の中に戻ることはできないという現実も、実はこの世界の「街」という性質と似ているように感じられる。つまり繭から生まれることも、街から出ることも、ほとんど同じような意味を持っていて、それは戻ることのできない一方通行の、しかも一度きりの経験であることが暗示されているのである。
三、トーガ
この物語の登場人物の中でも、極めて特異な存在がトーガであろう。全くセリフが無く、どのような存在なのかよく分からない。彼らにも何らかの役割を持たせているのではないかと想像は出来るのだが、ここまでの情報を元に検討することは難しい。
トーガについては、今後も詳しく検討してみたいと考えている。
では、今回はこのへんで…。
61,心理学で読み解くアニメの世界
心理学で読み解くアニメの世界
「灰羽連盟」
第一話 繭 空を落ちる夢 オールドホーム
<プロローグ>
薄暗い空間を真っ逆さまに女の子は落ちてゆく。カラスの声で意識を戻すが、目はうつろなまま。『ここは…、わたし、空を、落ちてるんだ、不思議、なんで怖くないんだろう』
女の子へ語りかけるようにカラスが声を上げる。『わたしのこと、心配してくれるの、ここ、どこなんだろう、ふわふわして、暖かくて、でも胸がチリチリする、怖くないけど、心臓が冷たい』
カラスは落ちてゆく女の子の服の裾をくわえ、助けようとするかに見える。『無理だよ、でもありがとう』
やがて街が眼前に迫ってくると、女の子は始めて恐怖を感じる。
一、繭玉
大荷物を抱えたレキが、古びた建物の廊下を歩いている。何かに導かれるように、ある部屋のドアを開ける。するとレキはその中に大きな繭玉を見つける。
レキは「こりゃ、大変だ」と言うと、たばこの火を踏み消して、仲間を集め始める。
レキの仲間たちは、繭玉から新しい仲間が生まれてくるのを迎えるために、その部屋の片づけを始める。彼女たちがいろいろ準備をしていると、やがて繭玉から音がしてヒビが入り、中の水がそこから噴き出す。新しい仲間の誕生である。
二、命名
女の子がベッドの上で目を覚ます。彼女は自分の今の状況が理解できず、周りを見回す。すると程なく、レキと仲間たちがその部屋にやってくる。女の子は、自分が丸一日寝ていたらしいことを聞く。みんなは女の子に一斉に話しかけるが、彼女が混乱してしまうと感じたレキは、みんなを制し話始める。
「順を追って説明するね、たばこ、いい? …じゃ~、まず、あなたの見た夢を話して」
女の子:「なにか、すごく高い所から、まっすぐすっと落ちていく夢」
クウ:「わ~、あたしと同じだ~」
ヒカリ:「どうしよう、かぶっちゃうね」
クウ:「わたしの時は、ふわふわ漂ってるみたいな夢だったんだ、だからクウ(空)って名前」
ヒカリ:「灰羽は、繭の中で見た夢を名前にするの、わたしは真っ白な光の中にいる夢、だからヒカリ」
カナ:「わたしは河の中を魚みたいに漂っている夢、だから河の魚って書いてカナ、こっちは夢の中でも寝ていた、筋金入りの寝坊助のネム」
ネム:「ぶつわよ」
レキ:「その他には…、何かなかった?」
女の子:「何かを見た気がするんだけど…、思い出せない」
レキ:「う~ん」
たばこの灰が落ちるところから霊感を得たレキは「じゃぁ、落っこちるのラッカ(落下)にしよう、あなたの名前は、ラッカ」
ラッカ:「名前って、あっ、あれ、わたしの名前…」
レキ:「あなたが何者であったのか、もうだれも知らない、もちろん、あなた自身も…」
そう言うとレキは、ヒカリに声をかけて光輪の準備をさせる。
ヒカリ:「うん…、同士ラッカ、あなたの灰羽としての未来への標となるように、この光輪を授けます」
ヒカリは出来立ての光輪をラッカの頭上に配する。しかしすぐに落ちてしまう。仕方なく、光輪に補助を付ける。
三、灰羽
午後を知らせる鐘がなる。仕事の合間を縫ってやってきた仲間達は、それぞれの職場へ帰ってゆき、ラッカはレキと二人になる。
「やっと静かになった、大勢だとなかなか話が進まないからね、さて、何から話そうか」
「あっ、あのう、ここどこなんですか、灰羽って…」
レキは自分の背中についている羽を動かしてみせる。
「あっ、本物!」
「あなたにもじき生える、背中に違和感は?」
「すこし…、どっか寝違えたのかと思ってたけど」
「見せて」
熱っぽくなっているラッカの背中の様子を確認すると、レキは氷の用意を始める。羽の成長が思いのほか早いらしく、この世界について、事前に詳しく話す時間があまりない。
「あたしたち、人間じゃないの?」
「あたしたちが何者なのかは、誰にも分らない、とりあえず、灰羽って呼んでる」
「家に、帰りたい!」
「灰羽はこの街から出ることはできないんだよ、それに、この世界のどこかに、もしあなたの家族がいても、今のあなたを見て、あなただと思わないと思う」
「どうして」
「あなたが、あなたのいた世界を思い出せないように、この世界の誰もあなたのことを覚えていないの、ここは、そういう世界」
「なんであたしなの、あたし、なんの取りえもない、普通の女の子だったはずなのに」
「どうしてだろう、理由は誰も覚えていない」
「はぁっ!あぁぁっ」
激痛と共にラッカの背中に灰羽が生える。
「レキ、いるの? 何をしてるの?」
「あんたの羽を、きれいにしてる」
「ずっとしてる?」
「時間がかかるんだよ、血と油をきれいに落とさないとシミになっちゃう」
「きれいな羽だよ、白くも黒くもない、きれいな灰色」
四、オールドホーム
翌日、すっかり熱も収まり、ラッカは髪にブラシをかける。しかしラッカの髪は何故だかはねてしまう。意気消沈するラッカだが、彼女は自分の羽がふわふわしていることに気づく。
「レキ、もしかして、わたしが寝ちゃった後もずっと羽をきれいにしてくれてたの」
「あぁ、もちろん、きれいになってるでしょ」
「ありがとう」
「どういたしまして…、そしてようこそ、わたしたちのオールドホームへ」
第一話 まとめ ラッカの転生
物語はある女の子が真っ逆さまに落ちてくるところから始まる。印象的な導入部分であり「この子はどうなるのだろうか」と、我々視聴者は一気に不思議な世界へと引き込まれていくことになる。そして彼女と共に登場する「カラス」も印象的だ。カラスの行動にはどのような意味があるのだろうか。今後カラスについても、何度となく考察することになる。
一、落下のイメージ
冒頭、主人公の女の子は真っ逆さまに落ちていく。そしてそれを阻止するかのようにカラスが登場する。カラスは本当に落下する女の子を助けようとしているのだろうか…。
ここで「落下のイメージ」という小タイトルを付けたので、このイメージについて少し触れておきたい。「落ちる」という言葉に対して、肯定的な印象を持たれる方はあまりいないように感じられるのだが、いかかだろう。
「落ちる」とは、上から下へ自然に降下することを意味する。しかし、他にも様々な意味がある。リストから外れるという意味で落ちるという言葉を使うし、試験に躓くことも落ちると言う。他にも左遷されることを、都落ちなどと言ったりすることはご存じのとおりだ。
逆に多少なりともポジティブな表現を探すならば、清めるという意味で、憑いていたものが落ちるであったり、合点するという意味で、腑に落ちると言ったりもする。
ネガティブな意味の中でも、その最たるものが「地獄へ落ちる」ではないだろうか。より下位の世界、奈落の底や地の底へ「落ちる」のである。文字もまた「落ちる」「堕ちる」「墜ちる」というように、どことなく心が不安になるような形に見えてきはしないだろうか…。
「落ちる夢」を見た女の子を冒頭に登場させることで、この物語が何か良くないことをきっかけとして始まることを予感させるのだが、この予感は、落ちる夢だけがそう思わせている訳ではない。セリフに「ふわふわして、暖かくて、でも胸がチリチリする、怖くないけど、心臓が冷たい」とあるように、“心臓が冷たい”のである。
また「ふわふわして、暖かくて、でも胸がチリチリする」という表現なども、魂あるいは心が漂っているかのようである。女の子は死後の世界に送られてしまったのだろうか…。
別の見方をすることも出来るだろう。深層心理学的に見れば、より深い自分の内面への降下であり、普段意識することの無いような最深部への探求であるとする見方である。物語のその先を見つめる時、ここでは自分の心へのダイブだと考える方が、死後の世界と考えるよりも、もう少し前向きになれるのではないだろうか。
会ったことも無い人々と出会い、訪れたことの無い街で生きることで、自分に不足する心的に未成熟な部分を再認識し、それを補償、あるいは修正することで、次のステージをより生きやすくするなどのレベルアップを図るために、自身の無意識があたかも“意思を持つが如く”自らに課した試練とも考えられよう。
いずれにしても、この知らない世界で生きなくてはならないという理不尽さは、現実の世界で生きている私たちの所に降りかかる理不尽さと似ている。避けられない出来事に対してどのように関わっていけばいいのか…。
ただ一つ言えるのは、以前のうっすらとした記憶があるにも関わらず、その世界との関係が断たれ、この世界の住人として生きなければならないという違和感が、女の子の中にはっきりと存在しているということだ。
それはどこかに何かを忘れてきてしまったような空虚感ともいえるだろうか。そういった気だるさと共に、どのようなきっかけでこの世界にたどり着いたのかという、永遠の謎を抱えたまま、灰羽達はこの世界を生きなくてはならない。
ラッカと他の灰羽達、さらにこの街で生きる人々との交流の中から、それらを見つめる私たちの中にどのような心の変化が訪れるのか。たえず自問自答しながら見続けることで、きっと何かを学ぶことができるのではないだろうか。
二、繭玉(まゆだま)から生まれるということ
女の子は、何が起こっているのか分らないまま、気がつくと水で満たされ繭玉の中にいる。うっすらと聞こえる外の声に促されるように、繭玉の内壁をつかみ取ると、やがてその場所から水が外に漏れだし繭玉が割れる。この世界への転生を描いた印象的な場面だ。
このあたりの描写をご覧になって、どのような印象を持たれるだろうか。筆者は繭玉を子宮、繭玉の中の水を羊水に重ねてしまうのだが、そういった印象を持たれる方は筆者だけではないだろう。
また、あえて言うなら、ラッカ自身が落下後に繭玉に入り込むという表現は、人間の生殖による生命誕生のプロセスをも連想させる。この場面は「繭玉」というファンタジーを借りながらも、一人の人間の誕生を象徴的に表しているかのようである。
ところで、作者は灰羽たちが赤ん坊として生まれてくるのではなく、大きな繭の中からすでに子供、青少年、あるいは成人として生まれてくる方法を選択している。この世界に転生する前に、すでに夢を認識できる年齢に到達しているということなのだろうか。
そう考えると、灰羽達は全員前世の記憶が絶たれたことになる。逆に言えば、前世の記憶を断つことによって、初めてこの世界に生きる権利を得たとも言えるだろう。
「灰羽連盟」は謎の多い物語であり、謎の多くは解明されることはない。繭玉から生まれることにどのような意味があるのかも、明確な説明はなされない。ただ、起こっていることを受け入れるしかない。そこにどのような意味を見つけるかは、人それぞれであろうが、その過程こそが、この物語の最大の楽しみの一つと言えるのでなないだろうか。
三、灰羽とは(灰色であること)
ここでは最後に「灰羽」について少し触れておきたい。灰羽とはその名の通り灰色をした羽のことなのだが、同時に灰羽を持つ人々のことをも意味する。灰羽がこの世界にとってどのような存在なのかは、物語の先を見なければ分らないのだが、今のところ彼女たちの言葉を借りて検討してみる以外に方法はないだろう。以下にいくつかの印象的なセリフを挙げてみる。
1,灰羽は、繭の中で見た夢を名前にする
2,あなたが何者であったのか、もうだれも知らない、もちろん、あなた自身も…
3、あたしたちが何者なのかは、誰にも分らない、とりあえず、灰羽って呼んでる
4,灰羽はこの街から出ることはできないんだ
5,あなたが、あなたのいた世界を思い出せないように、この世界の誰もあなたのことを覚えていないの、ここは、そういう世界
灰羽がどのような存在なのかは、現時点では全く分からないが、自分についての記憶を失った状態で、この世界に転生してきたことははっきりしている。夢にちなんだ名前が命名され、この街であらたな人生を生きていくことになるらしい。
「灰羽」という存在は、この世界でどのような意味を持っているのだろうか。また、どのような行動が期待されているのだろうか。灰羽という概念は、きっと全編を通して考察していくことのなるのだろうが、小タイトルの括弧内にも書いたように、灰色であることに何らかの意味があるようにも感じられる。
「きれいな羽だよ、白くも黒くもない、きれいな灰色」
白を善なるもの、黒を邪悪なものと考えると、灰色とはその中間に位置する存在で、どちらの要素も兼ね備えた、いわゆる「普通の人間」として生きることが期待されているかのようである。どちらかに偏っているのではなく、あくまでも中庸な存在ということになるのかもしれない。
さて、全編を通して「灰羽」という存在について今後検討していくことになるが、何らかの結論を得たいわけではない。ただ様々な視点からこの物語を見つめていきたいと思っているので、よろしければぜひ最後までお付き合い願いたい。
では、今回はこのあたりで…。
60,心理学で読み解くアニメの世界
心理学で読み解くアニメの世界
「灰羽連盟」
今回は20年ぐらい前、2002年の10月から年末にかけて放映された「灰羽連盟」を取り上げたいと思います。ファンタジーといわれるジャンルに属する物語なのですが、ファンタジーと言い切るにはあまりにも現実的で、切ないほどの生々しさがあります。きっとこれを見た視聴者は、深く感情移入することになるでしょう。
物語は、昔のヨーロッパを連想させる古い街を舞台として、そこで生活をしている「灰羽」と称する特別な人々の生活について、淡々と語られます。彼、彼女らは、なぜここに居るのかよく分らないまま、その街での生活をスタートさせ、やがて訪れる旅立ちの日まで、その場所で暮らすことになります。
当初この物語は、ラッカという人物の物語としてスタートするのですが、やがてその場所で暮らす仲間の成長や別れ、そしてレキというラッカのサポートをしてきた人物の深い苦悩や諦め、罪悪感や再生への激しい渇望など、複雑な感情の葛藤が織りなす「レキの物語」へと進んで行きます。
視聴者は灰羽達と共に生き、共に悩みます。それはあたかも、灰羽達と一緒に生活しているかようです。ラッカもレキも、また共に暮らす灰羽達すべてが、この物語の主人公と言えるでしょう。そして、その生活を見ている私たちも“箱庭”のような街に暮らす灰羽達を通して、自分自身と向かい合うことになります。
ところで、この作品の主人公たち灰羽はいわゆる“天使”の姿をしています。また、物語の中で年の瀬を祝う「過ぎ越しの祭り」(実際の祭りは3月末から4月頃の満月の日)は、旧約聖書に書かれたエピソードを元に行われているユダヤ教のお祭りです。
物語の設定から、宗教的なイメージを色濃く連想させるのですが、全体を見回せば、その設定がそれぞれの立場のシンボルであることが分かるのではないでしょうか。確かに羽や光輪は天使を連想させますが、同時に心の変容をも表しているのです。
心の問題を深く見つめると、そこには魂の救済というテーマがあるような気がします。誰もが救われたいと思っているのではないでしょうか。そういう視点に立てば、宗教は一つの明解な道筋を示してくれるものなのかもしれません。
しかし突き詰めて考えてみれば、魂の救済とは極めて普遍的でありながらも個人的なものです。目の前にある理不尽さに対して、私たちはどのように関わっていけばよいのか…。それは、この物語の一つの大きなテーマのような気がします。灰羽達がどのような答えを見つけていくのか、ご一緒に見つめていきたいと思います。
次回から約一、二週間に一度、各話をまとめたものを投稿してまいります。文章は今後言い切りの形(常体)となります。全十三話分とそのまとめを投稿する予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。
では。