60,心理学で読み解くアニメの世界

           心理学で読み解くアニメの世界

               「灰羽連盟

 

 

今回は20年ぐらい前、2002年の10月から年末にかけて放映された「灰羽連盟」を取り上げたいと思います。ファンタジーといわれるジャンルに属する物語なのですが、ファンタジーと言い切るにはあまりにも現実的で、切ないほどの生々しさがあります。きっとこれを見た視聴者は、深く感情移入することになるでしょう。

 

物語は、昔のヨーロッパを連想させる古い街を舞台として、そこで生活をしている「灰羽」と称する特別な人々の生活について、淡々と語られます。彼、彼女らは、なぜここに居るのかよく分らないまま、その街での生活をスタートさせ、やがて訪れる旅立ちの日まで、その場所で暮らすことになります。

 

当初この物語は、ラッカという人物の物語としてスタートするのですが、やがてその場所で暮らす仲間の成長や別れ、そしてレキというラッカのサポートをしてきた人物の深い苦悩や諦め、罪悪感や再生への激しい渇望など、複雑な感情の葛藤が織りなす「レキの物語」へと進んで行きます。

 

視聴者は灰羽達と共に生き、共に悩みます。それはあたかも、灰羽達と一緒に生活しているかようです。ラッカもレキも、また共に暮らす灰羽達すべてが、この物語の主人公と言えるでしょう。そして、その生活を見ている私たちも“箱庭”のような街に暮らす灰羽達を通して、自分自身と向かい合うことになります。

 

 

ところで、この作品の主人公たち灰羽はいわゆる“天使”の姿をしています。また、物語の中で年の瀬を祝う「過ぎ越しの祭り」(実際の祭りは3月末から4月頃の満月の日)は、旧約聖書に書かれたエピソードを元に行われているユダヤ教のお祭りです。

 

物語の設定から、宗教的なイメージを色濃く連想させるのですが、全体を見回せば、その設定がそれぞれの立場のシンボルであることが分かるのではないでしょうか。確かに羽や光輪は天使を連想させますが、同時に心の変容をも表しているのです。

 

心の問題を深く見つめると、そこには魂の救済というテーマがあるような気がします。誰もが救われたいと思っているのではないでしょうか。そういう視点に立てば、宗教は一つの明解な道筋を示してくれるものなのかもしれません。

 

しかし突き詰めて考えてみれば、魂の救済とは極めて普遍的でありながらも個人的なものです。目の前にある理不尽さに対して、私たちはどのように関わっていけばよいのか…。それは、この物語の一つの大きなテーマのような気がします。灰羽達がどのような答えを見つけていくのか、ご一緒に見つめていきたいと思います。

 

 

次回から約一、二週間に一度、各話をまとめたものを投稿してまいります。文章は今後言い切りの形(常体)となります。全十三話分とそのまとめを投稿する予定ですので、ぜひ最後までお付き合いください。

 

では。