28、心理学で読み解くアニメの世界
ユング心理学で読むアニメの世界
STAGE 08 吠えて、狂って 絶叫して
<プロローグ>
南極への出港の日、地面の暖かさを感じる四人。程なく船は港を離れる。
キマリのモノローグ:『船が陸から離れる、この旅に何の意味があるのかなんて、分らない、学校休んで、試験も受けず、受験にだって影響する、でも今の私たちは、一歩踏み出せないままの高校生ではない、何かをしようとして、何もできないままの、17才や16才ではない、それで十分だ』
キマリ「海だけだ」
ヒナタ「当たり前だろ」
キマリ「世界って本当に広いんだね」
一、出港初日
観測船に乗り込んだ四人は、船が出港すると早速各方面への取材に出かける。先ずは女性研究者、安本保奈美(やすもとほなみ・以下ホナミ)と、佐々木夢(ささきゆめ・以下ユメ)の話を聞いてから、厨房の手伝いに向かう。時折、船は大きく揺れる。
船内放送:本日、1100より1700、艦上体育許可、反時計回り
体を鍛えることは隊員の義務だと聞かされた四人は、必死に艦上体育(ジョギング)に勤める。その後入浴、食事と艦内の予定をこなしていく。洗濯当番であることをすっかり忘れていたシラセは、慌てて食事を済ませると、結局四人で洗濯を済ませることになった。
無事洗濯が終わるころ、ユヅキは疲労で居眠りを始める。その様子を見たヒナタが「これ明日らもだろ、もつのか~」と誰ともなく話しかけると「頑張るしかないでしょ、他に選択肢はないんだから」とシラセは答える。
それを聞いてキマリはふと首をかしげる。するとユヅキは「気持ち悪い」と言って口を押さえる。突然、船酔いであることを自覚する。
二、船酔い
船の揺れは次第に大きくなる。結局四人は完全に船酔いとなって寝込んでしまう。カナエに薬を飲んで良く休むこと、しっかり食事は取ることを言いつけられる。
船内放送:配食用意
食事が進まない四人であるが、点滴処置とならないように必死に食事を取る。しかし、戻してしまう。
船内放送:本日、0800より1400、艦上体育許可、時計回り
四人は甲板に寝ころび、風にあたる。クジラが見えるらしいので、キマリは双眼鏡で海上の様子を覗いてみるが、かえって気分が悪くなる。するとそこへホナミが現れる。
「お~い、さっき部屋見みたらさ~、全然準備できてないみたいだったんだけど~、大丈夫~?」
ホナミの話によると、とても揺れるので物が暴れないように固定する必要があるらしい。
ホナミ:「南極に行くにはね、どうしても突破しないといけないの、吠える40度、狂える50度、叫ぶ60度」
観測船は荒れる海域に差し掛かり大きく揺れる。四人はベッドに横になるが、大きな揺れで眠ることなどできない。
ユヅキ:「本当に南極行けるんですかね」
ヒナタ:「そりゃ行くだろ、この船に乗ってるんだから」
ユヅキ:「それはそうですけど、でも着いたところで何もできないっていうか…、みなさんスゴイ体力あるし、船にも強いし、なんていうか、生き物として生命力が全然違うっていうか」
シラセ:「だったら、私たちも強くなればいい!」
ユヅキ:「なれるんですか、あんな風に」
シラセ:「頑張るしかないでしょ、他に選択肢はないんだから」
キマリ:「そうじゃないよ、選択肢はずっとあったよ、でも選んだんだよ、ここを」
ユヅキ:「キマリさん」
キマリ:「選んだんだよ、自分で」
ヒナタ:「よく言った!」
ユヅキ:「どこ行くんです?」
ヒナタ:「トイレ…」
キマリは何となく感じていた違和感に対して、自分なりの答えを見つける。
吐いてしまうことに慣れた四人は、船酔いを克服しつつある。ユヅキが「ちょっと外行ってみたいですね」と言うと、ヒナタが「おっ、それいいな」キマリも「私も見たい」と応じる。
四人はドアを開けると荒れた甲板に出る。
ユヅキ:「真っ暗ですね」
キマリ:「こんな海を越えていくんだね」
シラセ:「嵐と荒波に守られた氷の大陸」
ヒナタ:「確かにそこに行くって選んだんだよな」
三、流氷
翌日、ユミコに「やっと船に乗れたね」と言われた四人だが「陸地に降りた時、今度は丘酔いするからね」と言われて驚く。
船内放送を聞き四人が甲板に出ると、その先に流氷がいくつも浮かんでいるのが見える。
キマリのモノローグ:その時確信した、この向こうに、本当にあるんだ、南極が
STAGE 08 まとめ
一、四人で一馬力
今回は、いよいよフリーマントルを出港し南極へ向かう。早速船内の様子や各研究者のレクチャーなどを取材し、船内での閉ざされた生活が始まる。その後厨房でジャガイモの皮むきの手伝いをするが、ユミコから「四人でやっと一馬力って感じだね」と言われている様子がなんとも印象深い。
処理できる仕事量が四人で一人前であるのと同時に、心理的、精神的処理能力も四人で一人分といえるかもしれない。シラセ達四人は、それぞれがある強い特質を持っているが、それぞれの要素をバランスよく身に着けることでオールマイティな心理的能力を身につけられるのではないだろうか。
ソーシャルスタイルで紹介した四つの類型は永続的なものではなく、状況や経験によって変容していくものと考えられている。お互いに深く関わり合うことで、より多くの能力を身につけていくことが求められるのだろう。
二、吠えて、狂って 絶叫して
さて、今回は船で外洋に出ていく様子が描かれている。筆者はせいぜい大島(東京の南)くらいしか行ったことがないが、それよりも外の海はとてつもなく揺れるらしい。以前、身内の者が小笠原に行ったのだが、その時は「心臓が口から出そう」なほど揺れたらしい…。南極への旅を想像すると平衡感覚を失いそうだ。
このアニメはかなりリアルに構成されている。外洋での船の揺れは、先に書いたように相当なものらしい。あまり想像したくはないが、シラセ達四人の経験を我が物として、しばし楽しんでみるのも一興ではないだろうか。
三、目的の違い
船内での忙しい一日を終える頃、思いの他忙しかったことを思い出し、ヒナタが「これ明日からもだろ、もつのか~」と誰ともなく話しかけると「頑張るしかないでしょ、他に選択肢はないんだから」とシラセが答え、その答えに対してキマリはふっと首をかしげる場面がある。
さらに「みなさんスゴイ体力あるし、船にも強いし、なんていうか、生き物として生命力が全然違うっていうか…」とユヅキが弱音を吐く場面がある。するとそれに対してシラセが「だったら、私たちも強くなればいい!」と答える。
ユヅキの「なれるんですか、あんな風に」という問いに対して、シラセは「頑張るしかないでしょ、他に選択肢はないんだから」と応じるのだが、このあたりの問答をどのように感じられるだろうか。
キマリは「そうじゃないよ、選択肢はずっとあったよ、でも選んだんだよ、ここを」と答える。確かにそうなのだが、シラセは少し事情が違うのではないかと筆者は感じている。もちろん目的は違っていいのだが、シラセの目的は特別なのである。
実はこの目的の違いが、次回以降大きく扱われることになる。端的にいうと、シラセにとっては「しなければならない事であって、選択の余地がない」のであるが、他の三人は「確かに選んでやってきたのであって、他にも選択肢はあった」ということだ。
シラセの「選択の余地がない」という発言は、STAGE 02の最後のところで触れた“喪の仕事”のことで、彼女はこの仕事を達成するために南極へ向かうのである。他の場所へ向かうのでは意味がない。また、仕事という意味においてはユヅキも同じような立場といえるかもしれないが、いずれにしてもシラセ、ユヅキには選択肢が無いが、キマリ、ヒナタは自分で選んで南極へ来たのである。言ってしまえば、北極でもかまわなかったということだ。
ここでは、これ以上目的の違いについて言及はしないが、以後“その場所”が近づくにしたがって、シラセはどことなく不安を感じ始める。シラセにとって、また他の三人にとっても、その目的地がだんだんと近づいてくる。