33、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

            「宇宙よりも遠い場所

 

 

STAGE 13 きっとまた旅に出る

 

目覚ましが鳴り、キマリは厨房の当直へと向かう。旧昭和基地での日常が始まる。≪夏隊帰還まであの3日!≫

 

 

一、アイスオペレーション

 

朝の仕事が終わってから、四人は最後のアイスオペレーションに向かう。カナエから「ちょっと食べてみる?」と言われて、四人は南極の天然氷でかき氷を食べる。

 

「ゆっくりしてきなさいよ、たぶん氷海も今日が最後でしょ」というカナエの言葉を聞いて、キマリは「そっか…」と呟く。

 

キマリは他の三人に「例えば…」と言って、ここに残ることはできないかと相談をする。しかし現実には難しいことは、キマリにも分っている。

 

ユヅキ:「まあ、わたしも帰りたくないって気持ちはありますけど」

 

キマリ:「じゃまた来てくれる?」

ユヅキ:「えっ、あ、いいですよ」

 

キマリ:「越冬だよ、この四人でだよ」

ヒナタ:「分ってる」

 

キマリ:「絶対だからね、断るの無しだからね」

シラセ:「はいはい」

 

キマリ:「本気で聞いてる」

シラセ:「本気で答えてる」

 

キマリ:「…なら良し!」

 

ユヅキ:「それより、どうするんですか、隊長に言われたじゃないですか、最後にやりたいことがあったら言えって」

 

キマリ:「最後か…」

 

 

三、プレイボール

 

ギン:「本当にこんなのでいいの?」

キマリ:「はい、最後はここにいる人、みんなで遊びたいな~って」

キマリ達の願いどおりソフトボールが行われ、ギンの投げる球をシラセは打つ。

 

 

四、髪

 

ヒナタ:「今さらかよ~、切るなら来た時に切っとけばいいのに…」

シラセ:「なんか切りたくなった」

 

キマリ:「わたし、やる」

ユヅキ:「キマリさんは下がってて下さい」

キマリ:「え~」

 

ヒナタ:「どのくらい?」

シラセは肩のあたりで髪を切って見せる。

ヒナタ:「マジっすか」

 

シラセは笑顔で振り返り「うん」と答える。

 

 

五、夏隊帰還式

 

夏隊が帰還する日、式典に向かう四人の姿を見たカナエとギンは、シラセの髪が短いことに気づき驚く。

 

シラセ:「どう、似会います?」

ギン:「やっぱり親子ね、笑ったところがそっくり」

 

それを見ていたホナミが「なになに、失恋?」と言うと、キマリが「違いますよ」と答える。

 

ヒナタ:「いや、でも、ある意味そうかも」

ホナミ:「ある意味って」

ユメ:「想像力」

ホナミ:「分んない」

 

ギンの送辞

「みなさんお疲れ様です、今朝は天気も良く、旅立ちにふさわしい朝になりました、特に今回は、日本で初めて、女子高生の観測隊員が南極で過ごしました、それは大きな試みでした、きっと不安だったと思います、私たちも大変大変不安でした、でも、彼女たちは立派に観測隊員をやりきってくれました、あらゆる男性隊員の、帰らないでという心の声がうるさいくらいに聞こえます、でも、彼女たちは帰ります、あきらめてください、最後に、今日までありがとう、向こうに戻っても、たまにでいいので、遠い空の向こう、真っ暗闇の中、黙々と越冬している私たちのこと思い出してください、ここでまた、会いましょう」

 

シラセの答辞

「みなさん、おはようございます、みなさんご存知のとおり、わたしの母は、南極観測隊員でした、南極が大好きで、夢中になって家を空けてしまう母を見て、実は、わたしは南極に対して、いいイメージを持てませんでした、わたしは、そんな自分の気持ちをどうにかしたいと思って、ここに来たんだと思います、宇宙よりも遠い場所、お母さ…、いえ、母は、この場所をそう言いました、ここはすべてがむき出しの場所です、時間も、生き物も、心も、守ってくれるもの、隠れる場所が無い地です、私たちはその中で、恥ずかしいことも、隠したいことも、全部さらけ出して、泣きながら、裸でまっすぐに自分自身に向き合いました、一緒に、ひとつ一つ乗り越えてきました、そして分った気がしました、母がここを愛したのは、この景色と、この空と、この風と、同じくらいに、仲間と一緒に乗り越えられる、その時間を愛したんだと、何にも邪魔されず、仲間だけで乗り越えていくしかないこの空間が大好きだったんだと、わたしはここが大好きです、越冬頑張ってください、必ずまた来ます、ここに」

 

 

六、別れ

 

帰還にあたり、四人はお土産をもらったり、プレゼントを託されたりする。ユヅキはサインを求められ「楽しみにしてくれる人、いるんですね」と呟くと「当たり前だろ」とキマリ、ヒナタに励まされる。

 

しばらくすると、カナエに促されてヘリの横に集まる。そこで最後の挨拶を交わす。カナエは、訓練に向かうバンの中で話している時に勇気をもらったと、感謝の気持ちを伝える。その時計画が頓挫しそうだったらしい。

 

カナエ:「大人はね、正直になっちゃいけない瞬間があるの」

それを聞いてシラセは「隊長のこと、よろしくお願いします」とカナエに伝える。

 

シラセ:「それと、これ」

ヘリに乗り込むとき、シラセはギンに母親の遺品であるパソコンを手渡す。

 

ギン;「えっ」

シラセ:「一緒に越冬させないと、母に怒られそうな気がして…」

 

ギン:「でも」

シラセ:「わたしはもう、なくても平気ですから」

 

ギン:「分った」

 

ヘリは観測船に向かって飛び立つ。

 

 

七、オーロラ

 

船に戻り、日本への旅が始まる。南極大陸に別れを告げて、夜、船の甲板で最後のレポートを撮影しようとしている時、空にオーロラを見つける。

 

撮影がうまくいかないので、あきらめて四人だけでオーロラを見つめていると、シラセのスマホに母親のパソコンからメールが届く。

 

貴子が送った最後のメール「本物はこの一万倍綺麗だよ」というメッセージと共にオーロラの写真が添付されている。

 

シラセ:「うん、知ってる」

 

≪エンドロール≫

 

 

STAGE 13について

 

 

一、喪の仕事

 

STAGE 12 に引き続きSTAGE 13でもオープニングの曲は流れない。それどころか、ここではタイトル場面も表示されない。ここでもまだ特別な物語が続いている。

 

前回のまとめの最後の方で『喪の仕事』について以下のように記述した。

 

『決して今回限りの一回で終わるわけではないが、シラセにとっての「喪の仕事」はこの後も幾度となく、繰り返し繰り返し続けられる。その仕事が完成することはないのかもしれないが「喪の仕事」は現実世界の私たちそれぞれも、取り組まなければならない人生の“大仕事”であるといえるだろう。』

 

“繰り返し繰り返し”という点で言うと、例えば節目節目に行われる“儀式的な法要”などが頭に浮かんでくるだろうが、もちろんそれだけではない。思い出の場所に行ってみたり、縁のある人を訪ねることもあるだろう。そうやって繰り返し繰り返し思い出すこと、母の想いや自分の気持ちを受け留め続けることでしか『喪の仕事』は進めることができないのだろう。

 

ところで、シラセが髪を切る場面がある。ヒナタから「今さらかよ」と言われたりするが、シラセは指で「ここまで」と指示する。筆者は女性ではないので、髪を切る女性の心情が分るわけではないが、シラセにとっての頼れる人、つまり母親に対する甘えから一歩を踏み出そうとして「子供だった私」への決別の意味があるのではないかと感じたりする。これもシラセにとっての『喪の仕事』の一つであると筆者は思うのだが、これを読む女性の方々はいかがお考えだろう。

 

いずれにしても、シラセの『喪の仕事』は、困難だった第一段階を無事終えることができたのではないだろうか。一人だったら怖気(おじけ)づいて遺品の捜索もできなかっただろうが、お節介な三人に助けられ最大の効果をあげることができた。三人との関わりはただの偶然であるけれども、このような関係を受け入れ発展させることこそ、コンステレーション(布置)といえるのだろう。準備された心にのみ準備された出会いが訪れるのである。

 

 

二、本気で答えてる

 

こうしてシラセにとっての最大のイベントが終了し、四人はそれぞれの想いを胸に日本へと帰ることになる。

 

夏隊帰還式典でのシラセの答辞は「よりもい」のテーマそのものであり、とてもよくまとめられていると思うので、もう一度読み直していただきたい。仲間と共に過ごす時間や、ぶつかり合いながらも理解し合うことの大切さを述べている。

 

そうやって四人は親交を深め、嘘の無い関わりを作り出していったのだろう。キマリの「本気で聞いてる」という問いに対して、シラセが「本気で答えてる」という場面はとても印象的だ。

 

 

三、キマリ

 

最後に、キマリについて一言だけ触れておく。ヒナタが以前「あいつ両極端だからな」とキマリを評価している。確かに不安がよぎる時、だれでも行動が停滞するだろう。しかし不安が無ければキマリは自己主張が強く、感情表現も強い。以前記したように、貴子と共通する性質を持っている。だからこそ、シラセとの相性もいいのかもしない。

 

シラセ(コントローラー)、キマリ(プロモーター)、ヒナタ(ファシリテーター)、そしてユヅキ(アナライザー)が加わることで、最強の四人組となった。作者はこの四人で“やっと一馬力(一人前)”と見ているのだろうか。もしそうなら、わたしたちの無意識には、このような要素をいかに獲得するか、またその道は決して平たんではないのだという普遍的イメージが存在しているのかもしれない。

 

 

四、それぞれの旅立ち

 

日本に帰ってから「だって、もうわたしたちは、わたしたちだもん」と言ってキマリ達は別れる。旅から戻って、現実の社会での日常に戻るのである。そしてまた旅に出る。この一見すると当たり前のような行動であるが、奇しくもコロナ渦にあって、それがとても貴重なものなのだということが体感させられたことと思う。

 

わたしたちは日常と非日常とを行ったり来たりしながら生きている。現実の厳しさに挑戦するためにイメージ世界でエネルギーを蓄え、そのエネルギーを自身の原動力として日々生活をしている。イメージの枯渇は行動力の枯渇といえるかもしない。

 

この「よりもい」の中の様々なエピソードや心理的なトピックスは、そういったエネルギーの源泉を見つめ直し、自らの内に取り入れるためのよい窓口になったのではないだろうか。各登場人物の生き方から、きっと多くのことが学べるに違いない。

 

 

さて、四人が旅から戻って現実世界に戻っていくように、私たちも彼女たちのエネルギーを受け取って、ポストコロナの新しい時代に向かって力強く歩みだしたいものである。

 

 

では次回、編集後記を投稿する。