31、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

            「宇宙よりも遠い場所

 

 

STAGE 11 ドラム缶でぶっ飛ばせ!

 

<プロローグ>

 

日本との中継を控え、キマリは久しぶりに母親と妹リンとの中継テストに挑む。画像で面会するや否や、家族は日焼け跡がパンダのようなキマリの顔を見て大爆笑する。日本のスタッフから「あと、三宅さん、この中継テストの話を聞いて、三宅さんの友達が来てるの」

 

ヒナタ:「いった~、足つった、シラセ、ゴメン、後よろしく~」

 

 

一、天文台予定地

 

昭和基地に輸送機が訪れる。新基地への輸送のついでに、旧昭和へも荷物が届く。届いた荷物は天文台のベースとなるような資材であるため、ギンはその資材を持って予定地に行くべきかを悩んでいる。その地は貴子が行方不明になった危険な場所でもある。

 

 

二、ヒナタの苛立ち

 

シラセ達四人は年賀状を書いている。ヒナタは「ちょっと、トイレ」といってその場を離れる。他の三人は、ヒナタがイライラしているように感じる。

 

ヒナタの様子が気になるシラセは、ヒナタの後を追ってトイレに行くが、ヒナタはそこにはいない。ヒナタを探して外に出ると、大声を上げて怒りをぶつけているヒナタの姿を見つける。

 

ヒナタが建物に戻るのを確認してから、シラセも戻る。するとそこには普段と変わらにヒナタの姿がある。

 

天候の回復に合わせて屋外での観測に同行する四人は、研究者と共に様々な体験をする。気温差の激しい南極の日々を楽しんでいる。

 

シラセ:「ヒナタ、何か、困っていることない?」

ヒナタ:「困ってること、あれだな、乾燥して唇カッサカサなのに、リップもカチコチで塗りにくいの」

 

夕暮れ、思い思いの時間を過ごす。お風呂、そして麻雀…。

 

ギン、カナエ、ホナミ、シラセが麻雀をやっていると、トシオが「三宅さんいる、なんか基地宛に友達からメールが来てるんだけどな」と呟く。

 

シラセはヒナタ宛のメールが気になって仕方がない。基地のパソコンルームに行って、先客の伸江さんを追い出し、シラセはヒナタ宛のメールを開いてしまう。

 

するとそこへ、ヒナタ、キマリ、ユヅキが現れる。

ヒナタ:「おまえ…、見たのか」

 

シラセ:「少しだけ」

ユヅキ:「えっ、ヒナタさん宛のメールですよね」

ヒナタ:「勝手にそういうことするか」

 

シラセ:「だって、だって心配だったから、だって一人でなんか怒ってたから、なのに何も言わないで」

ヒナタ:「見てたのかよ」

 

シラセ:「ちゃんと言ってよ、心配になる、なにもかも隠してるんじゃないかって、何にも話してくれないんじゃないかって」

 

…部屋に戻って、ヒナタは高校での話をする。

陸上部での出来事、部活やめてからの出来事など、結局学校をやめることになった一連の話をする。

 

翌日も、研究者と共に屋外での活動が盛りだくさんである。シラセ達は、ルンドボークスヘッタで地質の調査に参加するが、シラセ、キマリ、ユヅキの三人は何となくヒナタの話を引きずっている。

 

「なにいつまでも引きずってんだよ、忘れろ、そうされてると私がイヤな気になる」。ヒナタは続けて「私がさ、なんで南極来たと思う?何にもないからだ、何のしがらみも無い人と、何にもないところに行きたかったんだよ、見ろよ、すごいじゃん、氷河、地層、雪解け水、どれも見たことない色、見たことない形、私たちが知ってるものは何もない、今までと全然違う別の世界がここにあるんだぞ、それを楽しむために来たんだ、なのにこれじゃ意味ないだろ」

 

キマリとユヅキは何となく納得するのだが、シラセはまだ腑に落ちない。「意味無く何てない、意味無く何てないから!」

 

夜、キャンプをする四人。シラセがヒナタを誘って水を汲みに出る。

 

シラセ:「わたしさ、ずっと考えてた、ヒナタと同じだったらどう思うだろうって…、ひどい目にあわされて、でもある日何事も無かったように連絡してきて、もう取り返しはつかないのに、あやまってきたりして…、平気でいられるわけない、笑ってなんかいられない」

 

ヒナタ:「シラセはわたしじゃないだろ」

シラセ:「そうだけど…、そうだけど…」

 

ヒナタはシラセの手を取ると「シラセ余計な事ばっかりいってうるさいから…、ありがとう、ごめんな、わたしたぶんまだ怖いんだよ」

 

その言葉を聞いてシラセは泣きそうになる。

 

ヒナタ:「連れてきてくれてありがとう」

 

日本との中継の日、ヒナタとシラセが会話を交わす。

 

ヒナタ:「なあ、許したらさ、楽になると思うか?」

シラセ:「許したい」

ヒナタ:「それでわたしが楽になるならな、けど、それでホッとしているあいつらの顔想像すると、腹は立つな」

 

シラセ:「ざけんな?」

ヒナタ:「だな、ちっちゃいなわたしわたしも」

 

ヒナタの苦しみを我が物として感じているシラセは、中継開始10分前に、日本にいるヒナタの元チームメイトに対して語りかける。

 

シラセ:「始まる前に一つだけいいですか、悪いけど、三宅日向にもう関わらないでくれませんか、あなたたちは、ヒナタが学校やめて、辛くて、苦しくて、あなたたちのこと恨んでいると思っていたかもしれない、毎日部活のことを思い出して、泣いてると思っていたかもしれない、けど…、けど…」

 

キマリ:「けど、そんなことないから、ヒナタちゃんは今、私たちと最高~に楽しくて、超充実した、そこにいたら絶対できないような旅をしているの」

 

シラセ:「ヒナタは、もうとっくに前を向いて、もうとっくに歩き出しているから、私たちと一緒に踏み出しているから、わたしはヒナタと違って性格悪いからはっきり言う、あなたたちはそのままモヤモヤした気持ちを引きずって生きていきなよ、人を傷つけて苦しめたんだよ、そのくらい抱えて生きていきなよ、それが人を傷つけた代償だよ、わたしの友達を傷つけた代償だよ…、今更なによ、ざけんなよ!」

 

四人はドラム缶を除夜の鐘として突く。

 

 

STAGE 11 まとめ

 

 

一、ヒナタの弱さ

 

ここでは「高校行ってない16才」がなぜここにいるのかという理由が語られる。心に受ける傷の大きさや深さは、人によってそれぞれ違う。ヒナタの辛さを理解できる人もいれば、そうではない人もいるだろう。いずれにしても作者は、ヒナタにある試練を与えた。その試練とはファシリテーターならではのものでもある。

 

STAGE 06のところでソーシャルスタイルについて触れたが、そこでファシリテーターは“自己主張が弱く、感情表現が強い”と記されていたと思う。感受性、つまり人一倍心が動きやすいのに、それに対して行動が伴っていないのである。日本との中継の準備の中で、元チームメイトとのやりとりの時から、ヒナタはとても不愉快な気分でいる。しかしそれをうまく表現できず、人目につかないところで発散しているのである。

 

そうしたヒナタの様子にいち早く反応したのがシラセだった。カメラのレンズを押さえて、逃げるようにその場を立ち去るヒナタを目の当たりにして“普通じゃない”と感じたのだろう。すでに“親友”だと感じているシラセにとって、その様子は衝撃的だったに違いない。

 

コントローラーは“自己主張が強く、感情表現が弱い”と表現されていたと思うが、これも以前書いたように感性が弱い(鈍い)のではなく、感じたことをうまく表現できないといった方がいいだろう。シラセはヒナタの心の内に寄り添いたいと考えているが、その気持ちをうまく伝えられないのである。

 

ヒナタが一人で抱えている重石。シラセはその様子を見ているのが辛く、ヒナタに事前に話すこともなくヒナタ宛のメールを見てしまう。当然、後でヒナタから「勝手にそういうことするか!」と言われるが“ちゃんと言ってよ、心配になる、何もかも隠してるんじゃないかって、何も話してくれないんじゃないかって”と、逆にシラセに返され、ヒナタは心乱れる。

 

本来なら、人のメールを見たのであるから、その責任を感じてもらわなければならないが、ヒナタはその責任を追及することができない。なぜならヒナタは、シラセが心配しているその原因が自分にあるからだと、自分の責任を感じているからだ。

 

このあたりの心理的描写は、ファシリテーターの特徴がよく表現されているように感じられる。全体を把握し、プロジェクトが円満に進行するよう細やかな配慮ができるファシリテーターは、言い争いを嫌うのである。それがファシリテーターの自己主張が弱いと言われる由縁であろう。

 

 

二、強烈なコンビネーション

 

シラセとヒナタのエピソードで印象深いものに、STAGE 06のパスポート紛失事件があったのだが、もちろん覚えておいでだろう。お互いに自分の考えを主張し合い、最後にはシラセのパワーで押し切られてしまうというものだった。パターンとしては今回のチームメイト事件と似ているように感じられるがいかがだろう。

 

自己主張的行動という点で、ヒナタ自身も最後の一手を詰めることに難しさを感じているのかもしれないが、それにも増して、シラセの強烈な最終判断はまさに“勇気の成せる業(わざ)”といえるだろう。シラセはそうやって生きてきた。

 

シラセとヒナタ、この二人の関係についてSTAGE 09のまとめの“一、ギンとシラセ”のところでも少し触れた。つまりシラセとギン、ヒナタとカナエ、キマリと貴子の関係である。

 

現実に、ギンとカナエそして貴子の三人は民間観測隊をけん引してきた。しかし貴子が欠けて三年という期間、観測隊員は苦水を飲んできたことになる。その観測隊をまとめ、再度南極チャレンジ隊を立ち上げようとするそのエネルギーは並大抵のことではないだろう。

 

ギンとカナエ、その熱意と勇気と友情はシラセとヒナタの関係に重なる。もちろんキマリやユヅキも重要な地位を占めてはいるのだが、実質的なナンバーワンとしてのシラセと、その意向を把握し、細やかな配慮のできるヒナタ。この二人の関係の延長線上にギンとカナエの姿がだぶって見えてくる。最強のコンビといえるのではないだろうか。

 

 

三、わたしの友達を傷つけた代償だよ!

 

さて、やはり最後にこの件(くだり)について触れない訳にはいかないだろう。「よりもい」の中でも一、二を争う名場面である。

 

東京との中継本番を前に、気弱になったヒナタがシラセに呟く。

ヒナタ:「なあ、許したらさ、楽になると思うか?」

 

それに対して

 

シラセ:「許したい?」

 

ヒナタ:「それでわたしが楽になるならな、けど、それでホッとしているあいつらの顔想像すると、腹は立つな」

 

シラセ:「ざけんな?」

ヒナタ:「だな、ちっちゃいなわたしわたしも」

 

ヒナタはやはり自己主張が苦手なのである。そのことも知って、そしてシラセは、自分自身が我慢できないことも承知の上で、ヒナタに変わって元チームメイトに自分の想いを伝える。

 

“始まる前に一つだけいいですか、悪いけど、三宅日向にもう関わらないでくれませんか、あなたたちは、ヒナタが学校やめて、辛くて、苦しくて、あなたたちのこと恨んでいると思っていたかもしれない、毎日部活のことを思い出して、泣いてると思っていたかもしれない、けど…、けど…”

 

 

あとは読者のみなさまがご存じのとおりである。

 

お互いに信頼し、恥ずかしいことも隠したいこともさらけ出すことで、本当の意味での友達になるのだろう。シラセとヒナタ、そしてキマリ、ユヅキがさらに深く結びついた瞬間である。