5、心理学で読み解くアニメの世界
ユング心理学で読むアニメの世界
「色づく世界の明日から」
第五話 ささやかなレシピ
一、魔法写真美術部
魔法写真美術部は学校から認可され、コハクの提案で懇親会をすることになる。懇親会はまほう屋で、料理等はそれぞれの持ち寄りとすることなどを決めて、活動が始まる。写真部は暗室での現像など、魔法部は占いをする。
大人気の魔法占いの様子を見に来たアサギとクルミは、コハクに占ってもらう。アサギの占いの結果は悲しいもので、ライバルが現れるとのこと、クルミはかすりもしないらしい。
場面替わって、風野写真館。アルバイトするショウは、アサギの写真について「お前、せっかく写真上手いんだから、もっと見てもらえばいいのに…、お店のギャラリーに飾るとか、ポストカードにしてみるとかさ、やってみないとわかんないじゃん」とアドバイスをする。「…」とアサギ。
二、留守番
コハクはどうしても行きたいところがあって、お母さんと一緒に急に出かけることになる。二人に留守番を頼まれたヒトミは、おばあちゃんとまほう屋に残る。
留守番をしている間に、コハクが魔法の古い書物を探しにいったことをおばあちゃんから知らされる。ヒトミが来てから、熱心に魔法を勉強して、「いつか自分の魔法が必要になる、そんな予感がするんだって」と、コハクの気持ちを聞かされて、その気持ちに答えようと意気込む。ヒトミがまほう屋の庭を掃除していると、不意にユイトが店を訪れる。
ユイトの知り合いが個展を開くことになり、そのお祝いのための星砂が欲しいとヒトミに尋ねる。ヒトミはふさわしい星砂をユイトに進め、それを包む。ヒトミは、気になっていた新しい絵の進み具合をユイトに尋ねるが、最近思ったものが描けないと答える。
絵に効く星砂とかあればいいのに、というユイトの言葉に、ヒトミはお店の棚を調べるが思うものが見当たらない。「ごめん、いいよ、言ってみただけだから」と言われて、ヒトミは「ごめんなさい、後できちんと調べておきます」と答える。
夜、ヒトミはコハクに、絵に効く魔法で何かいいものは無いかと尋ねる。するとコハクは、ヒトミが魔法に前向きなはなぜかと質問を投げかける。ヒトミは、「だって、色のある絵が見られるかどうかは、私にとっても大切な問題だから…、それに、コハクも魔法の勉強、頑張ってるって聞いたから」と答える。
「そっか、じゃぁ、自分で星砂を作ってみなさい…、ヒトミって、星砂に魔法を込めるの、初めてだっけ、練習してコツさえつかめばできると思う」とコハクが言う。「そんなの、無理…」とヒトミが言いかけると、「否定文禁止!これはヒトミにとっても大切な問題なんでしょ」
「うん、やってみる」
「えら~い、さすがわが孫!」
学校の自販機前で、ヒトミはオフリー(ドリンク)の買い方が分らなくて途方に暮れている。すると、そこにショウとユイトが通りかかる。ショウがヒトミに自販機の使い方を教え、ヒトミが喜んで立ち去ると、ショウが「面白いよな、あの子」と呟く。
写真美術部の暗室で、ショウはヒトミに印画紙の現像方法を教えているが、予定した内容を終えると、ショウは部室の明かりをつける。するとヒトミは、引き続き部屋を使用したいとショウに告げる。
ショウが「どうして」と尋ねると「魔法の練習がしたいんです、暗い部屋で試したくて」と答える。「すげー、俺もみ見ていい?」とショウが尋ねると、「少しだけなら」とヒトミは答える。
暗い部屋に星が現れる魔法をかけるがうまくいかない。
「まだ練習が必要そうだな、けど、そんなに魔法に積極的だったっけ」
「私の魔法が、誰かに喜んでもらえるならやってみようかなって」
「へ~ェ、その気持ち分る、誰かが俺の写真見て喜んでくれたら、やる気になる…、練習、頑張れよ」
「ありがとうございます」
まほう屋で、ヒトミはレシピに従って星砂の制作を続けるが、なかなかうまくいかない。同じころ、ユイトは公園でタブレットに向かい絵を描いている。しばらくすると、ヒトミはようやく星砂を作り上げる。
クルミからコハク、アサギの元にメッセージが届く。
「決起集会、14時まほう屋集合で!遅刻厳禁よろしく」
三、懇親会(決起集会)
懇親会(決起集会)当日、手作りクッキーを持ってきたアサギがまほう屋を訪れる。手伝うつもりで早めに来たアサギは、ヒトミとしばし会話を楽しむ。アサギは、自分が小さかった頃のショウとの思い出を話す。すると、ショウ、ユイト、チグサ、クルミが一緒にやってくる。持ち寄りの料理をテーブルに置くと、それらは茶色系統(揚げ物、炒め物系)だったので、アサギは思わず「茶色い、うぅ」と呟く。
「それじゃ、カンパ~イ」を合図に、まほう屋の庭で懇親会が始まる。思い思いに会話を楽しむ中、ヒトミは一人席を立ち、まほう屋の店内で自分が作った星砂の用意をする。ヒトミのことが気になるコハクは、そっと後に続く。ヒトミの様子から、星砂の制作に成功したこと知ったコハクは「完成したんだ、おめでとう、すぐに渡してあげなよ」とアドバイスする。
ヒトミが「今?」と聞くと、コハクは「うん、なんで?」と答える。「だって、みんないるのに」と食い下がるヒトミに、コハクは「いいでしょう、みんないたって…、う~ん、そっか~、あぁ、しまった~、ジュースが足りな~い、ヒトミ、ユイトさんと買ってきて~」と気を利かせる。
ユイトとヒトミは買い物に行くことになる。途中、ユイトが「ちょっと寄り道してもいい?」と言って、ヒトミを見晴らしのいい高台へ連れて行く。「やっぱ、丁度」と言って、ユイトはそこから見える夕刻の風景を見つめる。
「どんな風に見えるの」
「色が無くても、きれいなのは分ります…、あっ、あの、これ、この間、いいのが選べなかったから、代わりに作ってみました」そう言って星砂を手渡す。
「えぇ」
「前に約束した、星を出す魔法、星砂にしてみました、気分転換にどうぞ」
「作ったって、わざわざ、あぁ、ありがとう」
「楽しみにしています、次の絵」ユイトは星砂を手に取る。
「あのさ、前言ってたよね、俺の絵にだけ色が見えるって」
「はい」
「それって、月白さんにとって、必要だったってこと」
「はい」
「なんでかな」
「私、もう何年も色が分らずに過ごしてきました、空の色も、花の色も、夕日も虹も、だから、いろんなものをあきらめてて、でも先輩の絵を初めて見た時、目の前が色で溢れて、まるで、私に色を思い出せって言ってるみたいで、どうしてか分りませんが、私にとって先輩の絵は、とても大切なものに思えるんです」
「そっか、今晩、星砂を使ってみるよ」
その頃まほう屋では、ショウがヒトミに自販機の使い方を教えたエピソードを話し「ヒトミを見てて、俺ももうちょっと頑張ろうって思った」とみんなに告げる。コハクが「何を?」と尋ねると、ショウからは曖昧な返事が返ってくる。
チグサにフワッとしているとからかわれると、アサギに向かって、新部長としての自覚を促す。ショウが「もう少し積極的に…」と言うと「ヒトミちゃんみたいにですか」とアサギが答える。
「まぁ、そういうことだ」とショウが応じると「分りました、部長…、ショウ君って、そんなんだから、テーブルの上も茶色にしちゃうんです」と席を立ってアサギが答える。
アサギがまほう屋の店内で涙を浮かべていると、コハクがやってくる。
「占い、当たっちゃいそう?」
「さすが、コハクちゃんですね」
「当然でしょ、あたし、未来の大魔法使いなんだから、だけど、占いってヒントでしかないよ、未来を決めるのはいつも自分」
「ヒトミちゃん、初めて星砂作ったって」
「頑張ってるよ、あの子も、ヒトミって、魔法が苦手だから、星砂作るのもすごく大変だったんだ、どれだけ失敗したと思う?」
そう言うとコハクは、失敗した星砂が詰められた大きな段ボール箱をアサギに見せる。
「ヒトミちゃんに声かけたのは、私に似てるって思ったから、だけど、そうじゃなかった…、あたしも変わりたいな」
「きっと大丈夫、その辺は占わなくても分るから、私」
「…って、うっそー」
コハクはヒトミが星砂の原料を使い果たしていることに気がつく。
「お母さんに怒られる…」
「誰に怒られるって…、えっ、ちょっと待って、どういうこと!!」
良質な星砂の原料が使い果たされているのを知ったお母さんは、コハクをしかりつけて、再使用できるように洗浄することを言いつける。
コハクに勇気をもらったアサギは、ポストカードの制作を始めることをショウに伝える。アサギはショウに手伝って欲しいと告げると、ショウは快く引き受ける。
懇親会がお開きになった後、コハクとヒトミは星砂の原料の洗浄作業を始める。
「そういや、ヒトミ、星砂は渡せた?」
「うん」
「良かったじゃん…」
ユイトは自室に戻り星砂を使ってみる。部屋がプラネタリウムのように星に満たされるが、途中、なぜか金色のサカナが現れる。そしてサカナはユイトのタブレットの中に消えてゆく。
第五話 まとめ
第五話では、ヒトミにとって大切な“色を見せてくれる絵”を描くユイトとの約束を守るために、今まで魔法に消極的だったヒトミが“星砂”という魔法アイテムを作ることがメインテーマとなっている。今までの話の中にも登場してきた星砂であるが、ここでその星砂について少し触れてみたい。
海はよく深層心理を象徴するものとして表現されることがある。底なしに深く、どこまで行っても先が見えないが、確実に何かがうごめいているイメージがあるからだろうか。それに対して陸地は顕在意識を象徴することが多い。明るい光に照らされたその場所は、人間が生活するためにはなくてはならない。
この海と陸地との関係をとても分かりやすく、象徴的に捉えた文章があるので、ここで紹介しておきたい。この文章は芸術療法について記述されたものだが、芸術療法という枠組みに捉われず、困難な状況に苦しんでおられる方々と関わりを持とうとする者の心のあり方について、とても示唆に溢れる味わい深い表現をされているように思う。
~得体のしれないものが横たわるイメージの海にいる患者と言葉の陸地にいる治療者とが浜辺で交流しながら、いつしか患者を陸地にあげていくようなものである。われわれも患者も、たまに海に来ることがあっても、陸地でしか住めない生き物なのである。治療者が陸地深くに身をおけば、海にいる患者に近づけない。かといって海に深入りしすぎれば、患者ともども溺れてしまう。陸でもなく、かといって海でもない浜辺での交流が、まさに芸術療法なのだろう。~
「飯森眞喜雄(1998)芸術療法における言葉」
“砂”から連想するものの中に、砂浜を挙げる人はかなり多いのではないだろうか。意識(陸地)と無意識(海)の間の緩衝地帯である“砂浜”から星砂の原料を採取するあたりは、魔法という性質(夢と現実との中間的特徴)をとても象徴的に捉えていて興味深い。
※)おやっと思われる方がおられるかもしれないが、星砂の原料を砂浜から採取する場面は第十一話に登場する。
もう一つ、心理学で“砂”から連想されるのは箱庭療法で用いられる“白い砂”ではないだろうか。今日、箱庭療法はかなり多くの人々に知られていて、実際に体験した人もおられるだろう。木枠の箱庭に砂を入れて、陸地や海を作りながらそこに様々なミニチュア人形などを置くことで、心の内の無意識が可視的に表現されると考えられている。
思い出していただきたいのだが、海水浴に行かれた経験のある方なら、砂遊びをしている間に、無心になったり、小さいころの記憶が浮かんできたりと、いわゆる“意識の退行”が起こっていることを感じられることがあったのではないだろうか。砂遊びに熱中すると無邪気になれるものである。
スイスにあるカルフ先生※注1)の自宅が箱庭療法研究所となって存続しているが、ここでは“白いサラサラの砂”と“湿った重い砂”が用意してあって、その時々に合わせて選ぶことができるようになっている。湿った砂ではトンネルなども作れて表現の幅が広くなっている。遊びを基盤としているため、ミニチュア人形などはクライアントが持ち込みすることもあまり制限されていないらしい。
さて、星砂はこの後も重要な役割を果たす。魔法の原料としての用途だけではなく、大量に用いると大きなエネルギーを持った燃料のような側面も持つ。星砂にはどこか、未知なるエネルギーとしての性格が与えられているようだ。魔法使いは“砂のエネルギーを操る人”であり、“夢と現実の橋渡しをする人”なのだろう。さながら箱庭療法のセラピストのようでもある。
irozuku sekai no ashita kara ep 5
※注1)ドラ・マリア・カルフ女史:箱庭療法の考案者。子どものための心理療法として考案された箱庭療法はカルフ女史によって、ユング分析心理学を基盤として児童のみならず広く成人の精神障害の治療にも使えることでその完成をみた。 日常の言語では表わされにくいクライエントの奥深い精神世界が生き生きと、しかも可視的に表現されるという特徴をもっている。(出典:ウィキペディアより)