45、心理学で読み解くアニメの世界

          ユング心理学で読むアニメの世界

              「妄想代理人

 

 

第五話 聖戦士

 

一、取り調べ

 

容疑者である中学二年の狐塚誠(コヅカマコト)への取り調べが始まる。取り調べが進むにつれて、妙な雰囲気となっていく。話によると狐塚は戦いに行かねばならないという。

 

「ぼくは、ゴーマを倒すべく選ばれた、戦士、聖戦士だ!」

 

あっけにとられている猪狩刑事に、もう一人の刑事、馬庭光弘(マニワミツヒロ)が「聖戦士」と書かれた本を提示する。

 

 

二、牛山の面通し

 

牛山尚吾は面通しで「たっ、たぶん、犯人だと思います」と証言している。

 

さて、狐塚の話によると、その当時ゴーマのレベルは低く倒すのは簡単だったらしい。また、その場にいたのは「お告げ」によるものだったと証言している。

 

あきれる猪狩に馬庭は「ですからこれを…」といって本を渡す。ゲーム攻略本と思しき本を見ても理解できない猪狩は、なおも狐塚に詰め寄る。すると「老師のお告げに従って、ぼくは北へ向かった」と語り始める。

 

「ゴーマを倒すためにかい」と馬庭が尋ねると狐塚は「そうだ」と答える。

 

「その、暗い洞窟から邪悪なゴーマの気配が漂っていた…」

狐塚の話によると、ゴーマ(モーブートー)に憑りつかれていたので牛山尚吾を襲ったというのである。概ねその内容は事件の流れと近似している。ちなみに、ゴーマという悪のエネルギーが低レベル状態のキャラクターを「モーブートー」というらしい。

 

 

三、鯛良の面通し

 

「そうです、あの人です、あの人が犯人です」鯛良優一は証言する。

 

牛山事件のその後について、狐塚は「これでゴーマをやっつけたと思ったら、大間違い、やつは、隣にいた村人に乗り移っていたんだ!」と語る。

 

狐塚の話によると、ゴーマが鯛良優一に乗り移っていたから攻撃したということらしい。今度のゴーマは少しレベルが上がり「スカイアイス」という名前となっている。攻略本によると、スカイアイスは特殊アイテム「スタールビー」を持っている。

 

猪狩は一時戦いに巻き込まれる。しかし聖戦士は、所持しているアイテム「ホワイトキューブ」によりスカイアイスに勝利する。

 

 

四、馬庭

 

「係長、危なかったですね」

猪狩の相棒、馬庭刑事は「吟遊詩人マニストン」となって、狐塚のゲーム世界に入り込む。馬庭が遠くを見つめ「あれを」と促すと、その先には塔があり、煙をたなびかせている。狐塚は「老師の知らせだ、何か、ゴーマの手がかりが…」と応じる。

 

塔の上に向かう馬庭と狐塚は、スタールビーというアイテムについて話している。何でもムーンサファイヤとスタールビーが重なる時、何かが起こるらしい。遅れて塔の上にやってきた猪狩は、息を切らせながら話しかける。

 

「馬庭、聞け!俺たちの仕事な何だ」

「事実を突き止めることじゃないですか」

「そうだ、事実だ、しかしこれは、こんなことは事実でもなんでもない、ただの茶番だ!」

「事実はいつだって奇妙に見えるものだと係長が…」

「分った風なこと言うんじゃねぇ!」

 

やがて老師が語り始めると、馬庭はその言葉から何かを理解し始める。すなわち、ホワイトキューブで倒したのが被害者鯛良優一であり、フライア姫が被害者蝶野晴美であるとする。するとフライア姫の姿をしたゴーマが現れ、スタールビーを渡せと迫る。

 

 

五、蝶野、川津の面通し

 

「はい、彼が犯人だと思います」

「以前にやつと接触されたことはありませんか」

「いえ、ないと思います…」

 

「間違いなっすね、こいつが少年バットですよ」

 

異世界の川津の「私は助けてもらったお礼を言いに来ただけでゲロ」というセリフから、馬庭は川津の事件の犯人も狐塚ではないかと思うようになる。

 

フライア姫を救うべく、彼らは東の草原へと向かう。

 

 

六、フライア姫

 

一行がゴーマの館に侵入すると、フライア姫の姿のゴーマがいる。聖戦士とゴーマとの死闘の中、聖戦士はスタールビーをゴーマに投げつける。すると絵世異世界への空間が現れ、聖戦士はゴーマをその世界に追いやる。

 

メッセージ:『異世界の門の中には新たな強敵が潜んでいる。気を付けろ!』

 

聖戦士はやがて元に戻ったフライア姫を救い出す。しかし気を抜いた瞬間に、異空間から怪物が現れて聖戦士を倒し、ゲームオーバーとなる。

 

 

七、ゴーマの正体を知る者

 

「もう少しで、次の世界へ渡れることができたのに」

「次はなにがあるんだ」

「ミージョット族の村だ、そこに、ゴーマの正体を知る老婆がいると言われている」

「ゴーマの正体?」

「やつはこの世のものじゃないという、どこから来たのか、それを知れば、倒す方法もきっと分るはずなんだ」

「ミージョット族の老婆が、それを知ってるんだな」

 

すまん、セーブしていたところからやり直しだ」

お前にリプレイの機会はないよ」

 

『ゴーマの正体を知る者…』

 

 

第五話 まとめ

 

一、狐塚誠

 

狐塚誠は少年バット事件の容疑者として逮捕される。現行犯なのだから疑いようはないのだけれど、何やら事情聴取が変な方向へと進んで行く。ベテラン刑事の猪狩は、狐塚に対して言い知れぬ違和感を覚え始める。しかし若手の馬庭刑事は狐塚の証言に理解を示し、彼は事件について狐塚からどのような経緯、あるいは理由が考えられるのかを自分なりに検証する。

 

ここでは先ず、狐塚という名前について深読みしてみたい。今までみてきたように、登場人物の名前には特別な意味が与えられているからだ。彼の名前で気になるのは「狐」という文字だろう。狐からどのようなイメージを持たれるだろうか。

 

狐や狸といえば人を惑わす動物として有名だ。昔話などでは特にそのような話が多い。彼らには彼らなりの想いがあって人間をだますのだろうが、理由はとにかく、彼らはいたずらを好む。狐塚はそんないたずら心を持って少年バット事件を模倣し、やがてことの重大さに押しつぶされてしまうのである。

 

従って、狐塚に与えられたイメージとは、いたずら、模倣、ごまかし、遊びといったもので表現されるのではないだろうか。さらに「ウソ」というキーワードも含まれるだろう。このウソが猪狩によって問い詰められた時、狐塚は激しく動揺し極限状態に陥ってしまうのである。ウソやごまかしは葛藤を生む元凶である。狐塚はその元凶により激しい葛藤状態に追いつめられ、今まで起こったことのない「死」へと追い込まれることになる。

 

 

二、馬庭光弘

 

ところで、狐塚はゲームの世界に入りきっていて、彼の証言はどれも荒唐無稽なものばかりである。猪狩はあきれ果てて、狐塚からまともな証言を取ることができないと感じた。しかしそんな狐塚に馬庭は理解を示す。というより、狐塚のゲーム世界と馬庭がマニュアルを熟知しているゲーム世界とが同じであることによって、狐塚が言いたいことが理解できるのであろう。

 

彼らは共通の言語で対話を交わす。しかしその様子を見ていた猪狩は、理解不能のやりとりに戸惑い、やる気をなくす。この時猪狩は時代(世代間)のギャップを感じるのである。だが、世代間のギャップはいつの時代でもあるだろう。取り立てて、ここでそれを感じることもないような気がするのだが…。

 

今度は馬庭という人物についても考察してみたい。彼の名前だが、馬庭とは珍しい。馬庭からどのようなイメージが浮かんでくるだろう。マニワ➾マニア、つまり馬庭はマニアであり、オタクなのである。狐塚と同等の対話が可能なのだから、馬庭も相当なマニアであることが分る。

 

ところでマニアとはどのような存在なのであろうか。これは私見だが、マニアとは関心のある分野に突出して詳しく、人並み以上の情熱を持っている人物を指すのではないだろうか。そう考えれば馬庭は十分マニアであろう。

 

従って馬庭と狐塚の会話はマニア同士のものであって、本来は猪狩との世代間ギャップとは関係がない。しかしそれでも猪狩が世代のギャップを感じるのは、彼らがはばかりも無く好きなことに夢中になれることの方にあるのではないだろうか。ゲームの世界や趣味の世界を大切にできるという人生の生き方にギャップを感じているのだろう。

 

 

三、ゴーマ

 

では狐塚の生きる世界、ゲームの世界はどうなっているのだろうか。老人のいたずら書きのように、聖戦士狐塚の輝かしい戦歴を見れば表世界との関連がよく見えてくる。モーブートー(牛山)➾スカイアイス(鯛良)➾フライア姫(蝶野)、そして猪狩が踏みつけてしまうのがカエル(川津)なのだが、カエルはかつて聖戦士に助けてもらっていたことになっている。

 

これらの敵はゴーマに乗っ取られたことから、聖戦士により解放されたのである。そしてこの後に、蛭川事件の証言が得られるはずだったが、異界からの強敵によって聖戦士はゲームオーバーとなる。狐塚の話によると次のステージはミージョット族の村で、そこにゴーマの正体を知る老婆がいるという。

 

「やつはこの世のものじゃないという、どこから来たのか、それを知れば、倒す方法もきっと分るはずなんだ」という狐塚の証言から、鷺月子を知るあの老婆から話を聞くことで、ゴーマ(少年バット)がどこからやってきたのかを知ることができるというわけだ。ここでゴーマがこの世のものではないことが示される。

 

さて、ここでも名前の深読みをしてみたいのだが、ゴーマという音の響きからどのようなイメージを持たれるだろう。これ以外ないだろうと思われるのが「ゴーマン(傲慢)」という単語ではないだろうか。傲慢とは「独り善がり」であり、その意味を調べれば「自分だけで、良いと思い込み、他の人の考えを聞こうとしないこと」とある。独り善がりを短くすれば「独善」という言葉もある。

 

いずれにしても、ゴーマ(少年バット)は人間ではないし、この世のもの(実体のあるもの)ではないらしい。つかみどころの無い、危ういもののようである。

 

 

ここまで、狐塚誠の不思議な証言について馬庭と共に解読してみた。ゲームという異世界への飛躍から、猪狩のように内容について行くのが難しいかもしれないが、今までの流れがかなり詳しく辿られているように感じられる。次回以降、狐塚がどうなっていくのか、さらに見ていきたいと思う。

 

 


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